見出し画像

第93話 対の一日



 比比多神社を後にすると、いよいよ大山に向けて車を走らせる。高くひらけた空の元、一面の瑞々しい緑が歓迎してくれていて、二人であちこち歓声をあげながら進んでいった。

「ん?こんなところに御柱(おんばしら)?」

 そのなだらかな勾配の坂の途中に、突然二本の大木(たいぼく)が天に向かって聳えていた。滅多に対向車にも会わないのどかな田舎道、車を停めて窓から案内板を読むと、やはり、姉妹都市である諏訪からの贈り物だと書いてあった。

 天孫族からの刺客タケミカヅチが、国譲りを迫った時に倒したのが出雲族オオクニヌシの次男、建御名方(タケミナカタ)。
 二人は戦いの際、のちにこの国の国技となる『相撲』を初めて取ったとされていて、長野県の諏訪地方にタケミナカタが投げ飛ばされたことでその決着がついたと言われている。
 その後、タケミナカタが諏訪の地に根を張り祀られるようになったのが、諏訪大社の建立の由来。
 だからその因縁から、諏訪にはかつて鹿食免(かじきめん)といって、タケミカヅチの眷属を食べても許される、免罪符的意味合いの習慣なんかが生まれたのだ思われる。(※)
 そしてその諏訪大社といえば、今でも時々死者を出すほどの危険な祭りで洗礼を受けた、御柱が立っていることでも有名である。


 なるほど、この対の御柱は山から降りてくる悪しきものからの結界となり、さらに地図上で、そこより裾野に確認できる“諏訪神社”と共に里を守っている。神と人とはお互いに、想い合うことで共存してきたものなのだということが、改めて思い起こされた。


 そんな二本の柱を越えてナビの示した場所まで来ると、どうも目的地がわからない。車を停めて、開けた窓から入ってくる滝のエネルギーをふんだんに浴びつつ調べてみても、この時の私たちには、山頂までのケーブルカーの存在は見事に封印されていた。

 どうにも今日は阿夫利神社までは行けないらしいと諦めて、二人で地図をぐるぐると見ていた時。ここからそう遠くない距離にある神社の中で、私たちは“もう一つの比々多神社”の存在に気がついた。

……

 相模国三ノ宮、比々多神社。
玉造りの神、天明玉命(アメノアカルタマノミコト)をお迎えしているだけあって、境内には子授けのご利益にと勾玉石が鎮座していた。言われてみれば、勾玉の形は胎児そのもの。形自体が生(せい)の寿ぎ(ことほぎ)なのだと思う。そして案内によるとこの神社は、毎年春先に“まが玉祭り”を行っているとのことだった。

「勾玉ってさ、これも本来“対”だよね。」

 今日一日、私たちが辿った先でひっかかったのは、二本から成る御柱、比比多神社と比々多神社。“比”という字も“多”という字も、そのものが最初からすでに双子を成していて、さらに“ヒ”とはそれ自体が、霊(ひ)を暗示していることは予想がついた。
 他にも細かいシンクロを通じて、いずれも今日は行く先々で“対”がテーマのようだった。
 ツインレイ(対の霊)への道を促されている私にとって、サイレント突入と共に顕れてきた対のサインは偶然などでは片づけられず、これは色々と見過ごせない案件だと思った。


 ……それにしても、こんな遠くまで来ることになるとは。

 せっかくなので、この機会に御朱印をいただいて帰ろうと社務所に寄ると、別紙に書き置きされたものに今日の日づけを入れてくれた。
 初めて泊まりがけで鹿島に行った時からポツリポツリと書いてもらってきたそれは、なんだかんだ現在までで、十か所分くらい集まってきていた。
 ところが、帰路に着いてからさっそく御朱印帳に糊づけしようと鞄を開けたら、その時にはすでに、いただいたばかりの御朱印が忽然と消えてなくなっていた。

「あ、また!空間に盗られた!」

 けーこも私も昔から時々、物が別次元へと取られてしまうことがあった。そして、稀に後から返してもらえるけーこと違い、私の場合は一度取られるとまずはそのまま見つからない。
 つまりそうなると、もうあの御朱印が戻ってくる可能性は殆どない。それが何を意味しているかはわからないけど、なんとなくこの旅は、今日だけでは終わりそうもないという不思議な予感を思わせた。




※諏訪の鹿食免と武甕槌……
数年前にひみが拾った歴史の裏側です。諏訪も人間界のレベル(表向き)では命をいただくことへの敬意の意味合いで免状を出していて、生き物としての鹿自体と、因縁関係にあるタケミカヅチを結びつけていないようになっていると思います。
しかし神話レベル(裏)では鹿を封じることで、宿敵であるタケミカヅチのパワーを封じる意図を感じます。

 また、鹿島も鹿島で、これは有名な話ですが、通常南向きの鳥居を東に設置していて、ちょうど真西にあたる諏訪大社を睨む造りになっていて、二人のライバル関係が浮き彫りになっています。

(さらに上のレベルまでいけば、二人はちゃんと分かり合って統合していますのでご安心を。)




written by ひみ

⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

⭐︎⭐︎⭐︎

今年の夏にけーこと行った、鎌倉方面のとある神社にて。

昨今、御朱印帳であっても手で触れることが嫌われ、いろんな神社で書き置きタイプのものを配布しているのが一般化しつつあるんだけど、
そこの看板にはこう書かれていたよ。

『御朱印は、紙対応です』

ねぇ、神社ギャグなの??リアクションに困るんだけど、真面目な顔してわざとなの?

(今日のヘッダーは、そんなとある神社からのエネルギーバリバリの写真です。)

⭐︎⭐︎⭐︎

←今までのお話はこちら

→第94話はこちら


セッションはこちら↓


けーこのピアスがあり得ないところから戻ってきた話はこちら↓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?