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私の街の職人さん

 今月、用事があって久しぶりに実家に帰りました。久しぶりに会う親戚もいたりして、最初から最後までにぎやかな時間を過ごすことができました。
 明るい性格の母は「前にもらったブレスレット失くしたよ」と言うと怒るふりをしながら「もう〜次はちゃんと大切にしてよね」と引き出しから古い腕時計を取り出し、「はい」と手渡してくれました。
 その腕時計は止まったまま。母曰く「電池入れて動くかどうかも分からないよ。どこかで見てもらって」とのこと。
 私は早速地元に戻り、調べてから職人さんがいるというお店に行くことに。個人のお店なので事前に電話で定休日かどうかの確認もしました。
 
 「こんにちはー」と中に入ると、奥から「はいはい」とご主人。
 「昨日、電話したものです。この腕時計なんですが使えるでしょうか」
 「どれ」
 そう言うとさっと机に向かい、真剣な目で腕時計をじっと見つめ、
 「結構、古いね」と状態を確認。


その後ろ姿はまさに職人

 
 そしてわずか数分程度で、
「ああ、大丈夫大丈夫。まだ使えるよ」と、あっという間に直していただきました。


新聞のご主人、若い!

 
 「お宅、どちらから?」
 「母が遠くに住んでいまして…」なんてお話をしながら、温もりのあるお店の雰囲気に始終穏やかな気持ちになり、ずっといたくなるようなホッとする心地のいい空間でもありました。

 
 「また、何かあったらお世話になります」
 「いつでも、どうぞ」

 職人さんというのは独特の雰囲気がありますね。『それで生きてきた』と感じるものが姿勢、話し方、手など至るところから感じとることができます。

 約三十年前の腕時計。シンプルとは程遠いデザインですが、若かりし時代の母はこの腕時計をどのような気持ちで購入したのでしょうか。

 それは一生知ることができない母だけの物語です。


止まったままの針が動き出しました!

 



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