マッチングアプリで出会った男性のこと⑨

この人は、シングルファザーだった。
男の子が欲しかったのに、女の子しか生まれなかった私は、
夫と離婚してから
「シングルファザーと再婚出来たら一石二鳥なんだけどな」
などと思っていた。
もう今となっては、新たに子育てをする生活は無理だけど……(体力的に)

マッチングしたのは11月下旬で、
『今月でアプリを辞めようと思っていました』
とのことだった。
今までマッチングしたのは外国の女性ばかりで、勉強にはなるかと思い、
スマホの翻訳機能などを使ってなんとか会話はしていました、と、前向きな人だった。
顔写真は、あまり好みではなかったけれど(毎回言っているけど)
体型は《細身》と、書かれていた。
趣味のところに《野草》と書かれている。
栽培しているのか?採取を楽しむタイプか?食すのが趣味なのか?
ひとつのことを、事細かに考えてしまう私。

好きなサッカー選手の名前を少し変えたというニックネームのこのNさんも、私同様いろいろなことを疑問に思ってしまう人だった。

マッチング後すぐのときから、
1つ質問してきたことに答えると、答えた内容についてまた質問してくる。
こちらの質問に対する返信も、すごく長い。そして、返信がめちゃくちゃ早い。
仕事中に手が空いているとすぐに打てる状況のようだった。

普段私は、本当はLINEのやりとりはあまり好きではないから、長々と続けることも好きではない。
でも、この人の質問は、なんだか答えたくなるような質問が、多かった。

そして、私の好きな、とても変わった人だった。

野草については、ヨモギを摘んできてお茶にしたり、スギナを摘んできてお茶やふりかけにしたりするとのこと。
『これらの野草にはかなり力があります』
知っていても、なかなかやろうとはしないことだ。

子供の面倒もずっと自分がみてきたから、離婚するときに子供が自分を選んでついてきた、と言っていた。
好きな食べ物は、《カカオニブ》と言われ、知らなかった私は「なんだそれ?」と、調べてしまった。
魚やきのこも干して食べたり、牛乳で自分でチーズを作ったり、大根を切り干し大根にまでするらしかった。
さつまいもを大量に買ってきて、干し芋や焼き芋や芋ようかん・スイートポテトなども作ったりするそうだ。
下手なママさんより家事を丁寧にやっている。
料理は毎日必ず自分でして、
「父子家庭という負い目を感じさせないよう、手作りの食事にこだわっている」とのことだった。

剣術に興味があり、何とか流が好きで習いたいけど、その教室が近くにないとか、
以前は子供と一緒にピアノを習っていたとか、
趣味はFXで都会まで交通費と時間をかけて、わざわざ勉強しに講習会などに行っているとのことだった。

好きなクラシックはバロックだとか、韓国ドラマも有名どころは一通り観たとか、朝は早く起きてジョギングや素振りをしているとか、私の好きなものも少し同じだったり、私の好きな《向上心が強い人》でもあった。
好きなJ-POPも好みが似ていた。

普段はアプリで知り合った人とLINEは交換しないけれど、アプリを退会するというし、やりとりも1日のうちに何回もするようになっていたので、交換した。
(結局のところ、アプリは自動で継続になってしまったらしかった)

メッセージも長いうえに、顔文字も必ず入っている。
スタンプは「なぜこんなスタンプを買ったんだろう?」と思うような微妙なスタンプだったし、スタンプに書かれている一言も「なぜ今ここでこのひとこと?」という物ではあった。
こちらからのメッセージには、たいがいリアクションをしてきて、スタンプにまでリアクションをしてきた。
私の写真は1枚しか送らなかったし、しかもそれは数人の人と撮った、顔もあまりよくわからないような写真だったのに、見た目もとても褒めてくれ、とにかく私のことをとても気に入ってくれたようだった。
まだ1度も会ったことがないのに
『もっと早く出会いたかった』とか親にも会わせたいようなことを言ってくるので、
「直接会うまでは、あまり好意を持たない方がいいですよ」と伝えた。
会ってみてガッカリされたら、こちらもガッカリだ。

《会いましょう》ということにはなったけれど、
お子さんがまだ小学3年生で、一人で留守番をさせるわけにもいかず、
土日や夜には会えないから、平日に有休をとります、という。
マッチングアプリで女性と会うために有給休暇を使うとは……
私は母子家庭になってから、仲良くはないとはいえ、自分の都合で子供を母に預けることはよくあった。
でも、それも親孝行だと思っていた。
手がかかる子供ではなかったから、理由を付けて一緒にいさせてあげようと思っていた。
Nさんは、ご実家のご両親とはうまくいっているようだけれど、とにかく全ては子供の気持ちを優先するらしかった。
例えば趣味の講習会も、実家において行ってしまえば楽だろうと思うのに、
『おばあちゃんちで待っているのとパパと一緒に行くのとどっちがいい?』と聞くのだそう。
お子さんは、とてもその彼にベッタリらしく、
「パパと一緒に行きたい」と答えるので連れて行き、講習会中は隣でゲームをしているとのこと。
離婚した奥さんに子供を会わせる日にも、子供に
『パパにもいて欲しい』と言われるから3人で過ごすという。
2人で過ごして、と言ってしまえば、1人で出掛けることも出来るでしょうに。
子育ての考え方は私とは全く違うから、仲良くなると余計なことを言ってしまいそうだな……と思った。
とにかく、会う約束は、マッチング後から約2ヶ月も先だった。

彼の仕事は、最近の若者が目指しがちな人気の職業
理学療法士だった。
どこの病院に勤めているのかは聞かなかったけれど、大きい病院のようだった。

年は10才下。
身長170cm以上。
細身。
一軒家持ち。
大きな病院勤めの理学療法士。
学生時代は陸上部。
大学時代は塾講師と家庭教師。
料理も家事も得意。
趣味はFX。
見た目も悪くない。

私が出会いたい理想のタイプとして書き出した内容にだいぶ近かった。
そして、この人の本名は、
私と娘達が大好きな漫画の《主人公が憧れている男の子》と同じ名前だった。
母も娘達も、とても気に入りそうだし、話も合いそうだと思った。

やっと会う約束の日が来た。
お互い、平日の午後にゆっくりは出来ないため、朝9時に、車を停めておけるようなところで待ち合わせをした。
ドライブに行くことにしていて、行く先はお任せしていた。
会ってみると、写真通りの人だった。
会ってみてイメージ通りの人は初めてだった。
声や話し方も、全く違和感がなかった。
ひとつ残念だったのは、無精ひげのままで来た事。
初めて会うのだから、髭はきれいに剃ってくるべきでしょう。
女性でいうメイクのようなものだから。
いつもそうだからありのまま、と思ったのかもしれないけれど、
剃るのがマナーだと思うし、髭を生やしていたり、髭が濃い男性は、私は好みではない。
あと、あごのあたりにおおきなほくろがあって、そこからも毛が数本生えていたのが、どうしても気になってしまった。
『車は軽自動車』と言ってはいたけれど、それにしても古い小さめのものだった。
生活に困らないのであれば良いだろうし、車に興味はないけれど、
それにしてもパッとしないなぁ……と感じてしまった。
中もあまりきれいではなかった。
助手席に乗り走り出すと、ずーーっと何かがゴロゴロと転がる音がする。
だいぶしばらく、そのことについて黙っていたけれど、どうしても気になったから聞いてみると、
『子供のサッカーボールが積んである』とのこと。
今日は降ろして来なさいよ……と思ったけれど、きっといつも当たり前に積んであって、もう気にもならなくなっているんだろう。

ドライブの行き先は、私が好きな神社だった。
Nさんは初めて行くらしかった。
ドライブ中も、いろいろと質問され、答えて、
県境にある神社だったのに、あっという間に着いた気がした。
その近くにある他の神社にもまわり、帰路の途中でお昼を食べた。
普通のチェーン店で《通り道にあったからそこにした》という感じ。

Nさんは1日とても楽しかったらしく
『時間が経つのが早過ぎた』『とても良かった』と、何度も言っていた。
そう言ってもらえて嬉しくはあった。
また会いましょうとお別れをした。
でも、とにかく土日祝日は子供とベッタリ過ごし、
そうそう私と会うために有給休暇を使うわけにはいかなそうだった。
半日休みをとって……などと提案してきたけれど、
子供を学校に行かせてからとなると、午前休なら9時から3時間しか会えないし、
午後もあちらは子供が帰って来るし私は仕事だし、やっぱり3時間くらいしか会えない。
もし、すごく好きになっちゃったら、どうやって時間をつくっていくんだろう……

その後もLINEのやりとりは続いた。
会ってからの私の印象が更に良くなったらしい。
私は、とりあえずこれからもLINEのやりとりをしながら、会える時に会ってもいいかな……くらい。

でも、とにかく条件は素晴らしく良い人だ。
誰に紹介しても恥ずかしくない。
親も子供達も喜びそうだし、仲良くなれそうだ。
友達や知り合いに紹介するとしたら、私は自慢げに紹介しそうだし、
親しい友達は
「良かったね、こんな素敵な人に出会えて」
と、泣いてくれそうな気さえした。

でも、私は一体、人に紹介したり自慢するためにパートナーを探しているのか?
などという考えが頭に浮かんできたりする。
優しそう、大切にしてくれそう。それは幸せなことだけど……


私と会ってから、いつも私の事を考えてしまうというメッセージが届いた。
そしてNさんは、私に好意を持ち始めてくれたことで、
どうしてもT君のことが気になるらしかった。【T君についてはこちら
「何回か会ったけれど付き合わなかった」
「家にも来た」
「ご飯をご馳走した」
隠しても仕方がないから、会う前にLINEで話していたし、
会ってからも
「どうしてといわれても、お互いそういう気持ちになれなかったんだし、お互い納得して友達になったんだし」
と話したけれど、
そこまでしたのに、なぜ付き合うことにならなかったのか?
自分なら、とりあえず付き合ってみるなぁ……と、何度も言う。

彼に、塾講師時代は、数学の先生だった?
と、聞いてみたら、やっぱりそうだった。
答えが、自分の納得出来ない答えだと、スッキリしないようだ。
~~だから○○
と、導きたいのだろう。
どうしても、何かの答えには理由が必要なようだ。

また、LINEで、自分のことを話す時に言葉足りずで伝わらないことがある。
質問してみるけれど、答えも言葉足らずで、更にわからなくなる。
「まぁいいや。次に会ったときにでも聞いてみよう。大して重要なことでもない」
と思うけれど、積み重なってくるとちょっとストレスを感じるようになってきた。

以前、彼は、自分の事を
『私は凡人以下です』
と、言ってきたことがあった。
漢検を勉強している私は、またある言葉が頭に浮かんだ。
《卑下も自慢のうち》
別れてしまったとはいえ、結婚を経験し、子供を持ち、
一軒家に住んでいて、理学療法士、趣味はFXで
凡人以下って、じゃあ《凡人》って、どんな人の事を言うの?
世間一般に言えば、あなたは《勝ち組》だと思うけど。

私はその時
「凡人 という定義に当てはまる人を、冒涜するような危険な発言です。
凡人・普通が1番
と考える人も多いと思います。
価値観は人それぞれ、十人十色です。
自分が凡人かどうかを判断するのは、自分自身ではないかもしれないですし」
と返信した。
きっと、友人や職場には、恵まれた環境の人が多くて、世間をよく知らないで生きてきたんだろうな…と、思った。

あるときまたT君のことを質問された。
お泊まりしたことがあるのか?という質問だったから、正直に「ある」と答えた。
隠しても仕方がない。
また、それでも付き合わなかったことが不思議だと言ってきた。
この答えは、何をどう言おうと、永久にこの人には納得出来ないだろう。
T君のことくらいで不思議がっていたら、M君のことを知ったとき、一体どうなることだろう?   【M君についてはこちら

私は我慢が出来ずに
「《私なら》というのはNさんの価値観ですよね。
価値観や考え方は人それぞれです。
なぜその人と恋愛に発展しなかったかを深堀りしたところで、その人とは全く価値観が違いそうだから、永久に《なるほど》と納得することは無いと思いますよ。
人の心は数学とは違って、答えは1つではないし、答えが出ないこともあります。
数学者からすれば、数学も、答えが出ない式や、複数の答えが出る式もあるんでしょうけどね。
ちょっともやもやしてしまったので、思ったことを言わせていただきました。
腹が立ったわけではないです。
私も多分もやもやさせていることはあるでしょうから、そのときは遠慮なく言って下さいね」
と、送った。

すると、今まで本当にもやもやしていたらしく、
ものすごい数の返信がきた。
凡人云々のときも、納得していなかったようだ。
読むのも面倒くさくなった。
同じ事が何回も書いてあるようだったし、そもそも私の考えに対し
『わけがわからない』と言っているあたり、
私が1番言いたい
「価値観は人それぞれ」を受け入れるのが難しいようだ。

更に自分の考えを伝えたけれど、
おそらく彼が1番ショックだったのは、なんだかんだ言っても
《T君を家に泊めたこと》なんだろうと思った。

たくさんの返信は読まずに寝てしまった。
次の日の朝、
「合わないと思ったら、さよならでも大丈夫です。
傷つけてしまってごめんなさい」
と送った。
『〇〇さんがそのように言うならそれでもいいですよ。
私は、いつでも前を向いていますので』
との返信。
それに送った返信には既読がつかなかった。
もしかして?と、繋がったままだったアプリにログインしてみると、
Nさんは消えていた。
つまり、アプリもLINEもブロックされたようだ。


こんなに理想にピッタリの、優しい人が見つかったのに、
その人とさえ私はうまくいくことが出来なかった。

M君が言ってくるわけのわからない変態・変人なことは結局何でも許せてしまうのに、なぜ私は、一般的な普通の人の小さいことが許せないのだろう?
















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