コーヒーショップ店員

コンビニ店員は辞めることにしました。
理由のひとつは、
土日のどちらかだけ出勤してくれれば…という面接時の話と違い、どちらも入ってほしいと言われるようになったこと。
人が不足しているのがわかっているとなかなかうまく断れません。
短い時間で、自宅から近いとはいえ、平日には2日程度しか入らず、土日両日出勤などというシフトが増えていました。

私より後から入った、同じ年ごろの子供がいる主婦が、
「土日祝日は絶対に働けません」と言い切って採用されていました。
絶対にとは言わないけれど、土日祝日に休みたいのはみんな同じなのに…
コンビニでそんな人採用する…?

もうひとつは、
長い時間営業しているお店にはありがちなことだと思うのですが、
昼の部のスタッフと夜の部のスタッフの間に争いが起きたのです。

仕事のやり残しがあったり、
『これはそっちがやるべきでしょう』などと、どちらの時間でやったほうがいいのか曖昧な仕事があったり…
私が嫌だなと思ってしまったのは、一緒に仕事をする時間が長かったはずのオーナーの奥さんが、こちら側の味方ではなかったことです。
辞めた後で聞いたところによると、深夜勤務の若い男の子たちは、売上金を盗んでいたとか…
あの奥さんはそんな子達の味方だったのかと思うと、辞めて正解でした。

コンビ二は自宅近くだったので、今度は子供達が通う保育園の近くで仕事を探してみようと考えました。
保育園は駅前にあったので、周りにお店は多く、迷うくらいでしたが、
コーヒーが好きなので、コーヒーショップに電話をかけてみることにしました。
電話した当日に、すぐに面接をしてもらえることになりました。

面接はオーナーで、女性でした。
目尻のしわがとっても優しそうで、でも口調がキビキビしていて
「仕事ができそう」という印象でした。
またまたその場で採用していただくことになり、数日後から早速働くことになりました。
保育園からは徒歩2分の場所でした。

田舎で育った私は、そのコーヒーショップの名前も知りませんでしたが、
全国展開しているチェーン店でした。

出勤1日目。
開店時間前に店に行くと、きれいな顔立ちの若い女の子がいました。
せっかくきれいなのにニコリともせず、リーダーの〇〇です、と名乗った後すぐ、
「こっちがテーブルを拭くダスター、こっちが椅子を拭くダスター。こういうふうにして全部拭いて」
と、一回りも年上であろう私にため口で、というより命令するように言ってきました。
不器用な私は、椅子用のダスターを入り口に1番近いテーブルに置き、まずはテーブルを全部拭いてしまおうと、次々テーブルを拭きはじめました。
すると
「何やってんのよ!!!!」
と、その若い女の子がいきなり怒鳴ってきました。
私は「あれ?テーブル用と椅子用逆だった?」
と思いながら、いきなり怒鳴られたのでポカンとしてしまいました。
「こうやって、って言ったよね!?」
と、もう一度テーブルを右手で、椅子を左手で拭いてみせるリーダー。
全く同じように、右手と左手でテーブルと椅子はセットでやらないといけなかったようでした。
「ちゃんと全部拭けば順番ややり方はどうでもよくない?」
と思いましたが、とりあえずその場は指示に従いました。
開店準備の説明は、動きながら早口でされ、メモをとる暇もなく、なんだかさっぱりわかりませんでした。
リーダー本人もアップアップしている様子でした。

朝7時開店のその店は、常連客が多く、
開店と同時にお客さんがぞろぞろ入ってきました。
オーダーを聞くときはお客の目をじっと見て、とか、
おつりはこっちの手でこのように渡すとか、
どうでもいい細かい決まりが多く、注文を聞いてから提供までのセリフも、無駄なことは一切言ってはいけなく、ちょっとでも余計な一言を言うといちいち訂正されました。
また、おつりの渡し方も、決まり通りでないと何回でも注意されました。

リーダーは大学生で、普段は学校があるので朝に入ることは少なく、たまたまその日にあたっただけのようでした。
新店舗でもないのに私の前後の時期に入ったスタッフが何人かいて、その子達はみんな素直で優しく、またまた
「人を見る目があるオーナーだな」と思いました。
基本的には店内にはいつもスタッフは2名というシフトだったので、慣れてからは性格の良いその子達と一緒のシフトが多く、楽しく働けました。

オーナーも女性でしたが、店長も女性でした。
私と同い年で、独身でした。
ショートカットで化粧っ気はなくボーイッシュな感じ。
全くニコリともせず、お客に対する態度はつっけんどんで、それをよしとしていました。
私は何度も「お客に媚びた態度をとるな」と注意されました。
お客様は神様なんかではなく、私達が美味しいコーヒーと空間を提供してあげてるんだ、という考え方なのでした。
あの面接をしてくれた優しそうなオーナーは店に来ることはほとんどなく、店長のやりたい放題な感じでした。
「店長を信頼しているんだろうけど、オーナーもお客に対してこういう考え方なのかな?」
などと不思議に思いはじめたころ、別のスタッフに、
「オーナーと店長は親子みたいだよ」と聞かされました。
「うそだぁ~!だって全然似てないじゃん!」というと、
「でも名札の苗字は同じだよ」と。
私は、オーナーは『オーナー』と、店長は『店長』と呼んでいたので、二人の名前など意識したことはなく、言われるまで気付きませんでした。
その後名札を確認して「ほんとに同じだ!」と驚き、どちらかに聞いてみると、本当に親子だったのでした。
そりゃあやりたいようにやっても文句は言わないか…納得…
でも、優しく明るく愛想がよく、いつもおしゃれなオーナーだったので、
真逆な店長がその娘だなんて、しばらくは信じられませんでした。

私は生まれ育ったところのイントネーションが独特だったようで、
「いらっしゃいませ」のイントネーションが違う!と何度も注意されました。
ある日、たまたまスタッフが3人揃っていたわりには暇だったことがあり、
「ちょっと裏にきて」と店長にバックヤードに呼ばれました。
何やらの棒を持った店長に
「私がこれでお腹をつついたら、いらっしゃいませって言ってみて」と言われました。
お腹をつつかれ「いらっしゃいませ」
「違う!いらっしゃいませ!」
またすぐお腹をつつかれ「いらっしゃいませ」
「だから、いらっしゃいませだってば!」
ということを繰り返しているうちに、なんだか自分が、お腹にあるボタンを押すと「いらっしゃいませ」としゃべる人形みたいでおかしくなってしまい、鬼のような顔をしている店長の隣で笑い出し、それが止まらなくなりました。
店長はあきれ顔をし、だまってホールに戻っていきました。

その後たまに一緒にシフトに入るようになったリーダーは、話してみると普通の女子大生で、学校の先生を目指しているとのことでした。
お客が増えて忙しくなると目つきと口調がすぐ変わってしまうので
「情緒不安定すぎ…こんな先生に子供をみてほしくないわ~」と思いました。
またリーダーは店長やオーナーが来た時も、ガラッと人が変わってしまうのでした。
他のスタッフと仲良くしないように言われていたのかもしれません。
店長やリーダーがそんななので、スタッフの入れ替えは激しく、入ったと思うとすぐ辞めてしまう人ばかりでした。
私は早朝時間専門だったので、たいがい気の合う子と一緒のことが多く、すぐに辞めずにすみました。
スタッフのみんなは、店長はもちろん、リーダーのことが嫌いでしたが、
聞いてみると特にリーダー手当などはもらっていなかったようなので、
「みんなに嫌われてすごく損な役回りでは…?」と思ってしまいました。

そのコーヒーショップはフランチャイズで、オーナーはもう1店、店を持っていました。
私が働いていた店から、地下鉄に乗って、片道1時間はかかってしまうところでした。(私の働いていたお店はJR駅の近くでしたが、地下鉄の駅はそこからは遠かったのです)
そして、オーナーと店長は、そちらの店の近くに住んでいるようでした。

私が上がると私の後に店長が入る、というシフトが多かったのですが、
例えば私が14時で上がる場合、店長は14時10分頃に、特に慌てもせずにやってきます。
着替えにどれだけ時間かかるんだよ!と、つっこみたいくらい店に出てくるまでにも時間がかかります。
平気で14時20分頃にやっとでてきて
「じゃ、上がっていいよ」などと言います。
本当は、退勤時間になったら、店長が到着する前に上がってしまいたいところですが、一緒に働いている子を困らせたくないので、待つことになってしまいます。
オーナーと店長が親子でなければ、
「オーナー聞いてくださいよ~」と告げ口もできますが、する意味もありません。
最初は優しそうな印象のオーナーでしたが、働くうちに
「やっぱりこの店長の親だわ」と実感することが多々あったからです。
もちろんお給料は14時までの分しかつきませんでした。


コーヒーショップではその日のコーヒーの状態を確認するという目的で、1日1杯コーヒーを飲んでいいことになっていました。
店内で出すコーヒーは、もちろんマシンで作るわけですが、
コーヒー豆も販売していたため、お客さんに試飲として出すコーヒーは
豆をミルでひいたりドリップしたりしました。
コーヒー豆の産地による特徴を勉強したり、美味しい入れ方を教わったりしたことは、今もずっと役に立っています。


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