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トランプの問題で司法がてんてこまいなので、一旦整理してみた

前回、ドナルド・トランプ前大統領の大統領選予備選参加資格をめぐってアメリカの各州で司法判断が下され、連邦最高裁にプレッシャーがかけられているという件をお話ししました。

これとは別に、トランプの大統領選絡みの問題では免責特権をめぐっても司法判断待ちの状態で、これが今日、1月9日にワシントンDCの連邦控訴裁判所で審理が始まります。また選挙とはまったく別に、刑事事件で起訴されている件も複数あり、さらには民事で争われている件もあります。

これらの問題は、それぞれ動きがあったときにランダムにぽっとニュースになるのですが、案件が多すぎてごちゃごちゃになってしまいがちなので、一旦ここで、どれがどんな性格の事件でどこまで進んでいるか整理しておきます。

裁判沙汰になっている主な件 ※2024年1月8日現在


まず、刑事・民事で現在審理中の裁判をそれぞれご紹介します。(民事については細かいものまでカウントすると無数にあるので、主なものに絞ります)

2020年の大統領選結果覆し事件 【刑事裁判(連邦)】

公訴提起日:2023年8月1日
原告:ワシントンD.C.地区米連邦検事局(ジャック・スミス特別検察官が指揮)
罪状:米国を欺こうと共謀した罪など4つ
公判予定日:2024年3月4日(遅れる見込み)
概要:2020年11月の大統領選でバイデン氏勝利と報じられて以降、トランプ氏は複数の協力者とともに々な形で選挙結果を覆そうと画策した、というのが検察の主張。ジョージア州、アリゾナ州など接戦州に圧力をかけるなどし、最終的には自分の支持者らを扇動して暴動を起こさせ、ペンス副大統領(当時)に選挙結果承認を拒否させようとした。
備考:トランプ氏側が、当時大統領だった自分には免責特権があり、そもそも訴追対象にはならないと主張。この問題をまずクリアにしなければ公判も始められない。
今後の動き:今月9日、ワシントンDC連邦控訴裁が免責特権について審理開始

大統領時代の機密文書不正持ち出し事件〜【刑事裁判(連邦)】

提起日:2023年6月8日(同年7月27日に追起訴)
原告:フロリダ州南部地区米連邦検事局(ジャック・スミス特別検察官が指揮)
罪状:スパイ防止法違反など37(のちに追加3、計40)
公判予定日:2024年5月20日
概要:トランプ氏が大統領を退任時、米国立公文書館に保管されるべき機密書類を大量にフロリダ州の自宅兼リゾート「マール・ア・ラーゴ」に持ち帰ったもの。中には軍事機密事項など外部に漏れると極めて危険な“最高機密”に分類されるものもあった。トランプ氏が「いいお土産」と話していたとの証拠もあり、うっかりではなく意図的に持ち出したとされる。

ポルノ女優への口止め料めぐる事業記録改ざん事件 【刑事裁判(州)】

公訴提起日:2023年4月4日
原告:ニューヨーク州マンハッタン地区検事局
罪状:事業記録改ざんなど34
公判予定日:2024年3月25日
概要:2016年の大統領選前、トランプ氏がポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんらかつて不倫していた女性に口止め料を払い、その用途を“法務関連費用”と偽った問題。支払いを直接行ったのは当時のトランプ氏の個人弁護士、マイケル・コーエン氏だが、トランプ氏から会社経由で11回にわたってコーエン氏に払い戻しがされている。

ジョージア州、2020年の大統領選結果覆し事件 【刑事裁判(州)】

提起日:2023年8月14日
原告:ジョージア州フルトン郡検事局
被告:トランプ氏と、当時の顧問弁護士、ルディ・ジュリアーニ氏、ジョン・イーストマン氏、シドニー・パウエル氏など共謀者18人
罪状:ジョージア州のRICO法違反など13(トランプ氏のみ。共謀者18人の罪状を含めると計41)
公判予定日:2024年8月5日?
概要:トランプ氏本人と、ルディ・ジュリアーニ氏をはじめとする協力者18人が結託し、ジョージア州の選挙管理当局者らを脅迫したり、投票システムに不備や不正があったと主張するなどして、2020年の大統領選結果を覆そうとした問題。ジョージア州務長官にトランプ氏が「1万1780票を見つけろ」と圧力をかける通話音声は証拠として何度も報じられている。これに関連した別件で、“投票機がおかしかった”と嘘の情報を流された投票機メーカー「ドミニオン・ボーティング・システムズ」や、“選挙スタッフが票を改ざんした”と名指しで事実無根の情報を流されたルビー・フリーマンさん、ワンドレア・モスさんによる民事訴訟にも発展した。(いずれもトランプ陣営側が敗訴。ジュリアーニ氏は自己破産に追い込まれた)
備考:連邦の起訴案件と管轄や適用した法律、罪状などが異なるけれど、本質的には一緒。

「トランプ・オーガニゼーション」の脱税及び事業不正申告問題 【民事裁判】

訴訟提起日:2022年9月21日
裁判初日:2023年10月2日
原告:ニューヨーク州司法省
原告の要求:会社の不正申告にともなう追徴課税分及び制裁金の支払いと、被告のニューヨーク州での事業展開禁止
概要:トランプ氏が大統領就任直前までCEOを務めていた「トランプ・オーガニゼーション」が、不動産価値の水増しや経費の不正計上など、数十年に渡って会社の資金繰りを偽って申告したとする問題。これにより、本来受けられない銀行の融資を受けたり、納税額を減らしたりと、不当に会社の利益を増やしていた。トランプ氏以外に現CEOで長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏、エリック・トランプ氏も被告となっている。審理の結果、すでに不正経理が事実と認定され、原告側は被告に3億7000万ドルの支払いを要求した。
今後の展開:今月11日に最終弁論、今月末に判決言い渡しの予定。
備考:当初は州司法省と州検事局がそれぞれ刑事事件として扱うことも検討していたが、最終的に民事に落とし込まれた。

30年以上前の性的暴行問題 【民事裁判】

訴訟提起日:2019年11月に名誉毀損で提訴。2022年11月に性的暴行を追加
原告:E・ジーン・キャロルさん(ライター)
争点:トランプ氏の性的暴行に伴う賠償責任と、メディアで罵倒したことに対する名誉毀損
概要:原告のキャロルさんによると、1996年にマンハッタンのデパートの試着室で、トランプ氏がキャロルさんを性的に暴行した。2019年にニューヨーク・マガジンのコラム及び自著内で初めて告発。これにトランプ氏が真っ向否定した上、「彼女は私のタイプではない」などとキャロルさんを罵倒したため、名誉毀損でトランプ氏を訴えた。性的暴行については時効が成立していたが、2022年、ニューヨーク州知事が性被害者の時効の一時的な撤廃措置(措置は2023年11月24日に終了)を取ったため、性的暴行についての訴えを加えた。
判決:原告の勝訴。2023年5月9日、性的暴行についての賠償金額が500万ドルに決まる
今後の展開:名誉毀損について、今月16日に賠償金額を決める裁判が開始予定


今後のブログで、トランプ裁判シリーズとして、それぞれの詳細をじっくり見ていきます。

次回はまず、今日にも関連事項の審理が行われる連邦の選挙結果覆し事件について、流れをキャッチアップしたいと思います。

(Cover Photo by Dave Lowe on Unsplash


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