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第14回 偉大なる改革者,Codmanの考える医療:Codman triangle

Ernest Amory Codman(1869〜1940)

調べものをしているときに「Codman」の名前が目に留まった。何の気なしにCodmanを検索してみると,ボストン生まれ,ハーバード・メディカル・スクール卒業,マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital;MGH)勤務の医師とのこと。若かりし頃,私もMGHに留学していたので,彼に時代を超えた親近感をもってしまった。私がいた当時,MGHのMusculoskeletal(MSK,骨軟部領域)セクションは病院内のビルの1フロアすべてを占めており,MSK専門のCT,MRI,超音波,透視,血管撮影室がゆったりと設置されていた。しかも,放射線科診断医(MSKの読影のみ行う)の数の多いこと! うらやましいなと思ったものである。

Codmanの最初の関心事は医学生時代に学んだ肩関節周囲に発生する関節包炎であった。関節包炎の発生部位やその原因などを研究し,腱板損傷および肩関節のリハビリテーションについても言及した『The shoulder』を執筆している。

われわれにとって有名な「Codman triangle」は,彼にとってはどちらかというとマイナーな業績なのか? そこで「Codman triangle」を最初に報告した文献を探すと,1914年に Ribbertが書いた論文であり,Codmanではないようだ。Codmanは興味深いことに,ボストンの小児病院で最初の「スキアグラファー(放射線科医!)」であった。想像するに,小児病院で悪性骨腫瘍を数多く診察し,単純X線像による観察も行っていたのだろう。この放射線科医としてのスキルをもって,彼は悪性骨腫瘍の診断基準に「X-ray」を盛り込んでいる。

彼の提言する悪性骨腫瘍の単純X線像の5徴は以下のとおりである¹⁾。

①腫瘍の分布(骨皮質・髄質・その両方かどうか,骨膜下に三角形の隆起したスペースの有無)
②骨破壊の存在(腫瘍によって破壊されていても本来の骨が存在している)
③腫瘍の浸潤性(辺縁が不整である)
④溶骨型・造骨型・混合型のいずれかのタイプに所属(悪性腫瘍であれば放射状の骨が見える)
⑤軟部組織の関与(周囲の腫脹の有無)

骨の悪性腫瘍は英語で「bone sarcoma」と表現されており,よく読むと骨肉腫もEwing sarcomaもgiant cell tumorなどもすべて網羅して書いているようだ。骨膜反応についても5徴のあちこちに記載があり,系統立っていない印象である。それでも「骨膜の反応で三角形の部分(Codman triangle)」や,「悪性腫瘍は腫瘍の部分に棘状の骨が形成される(sunburst appearance)」など,詳細に観察しているのがわかる。

Codmanの最大の功績は,医療の均一化と治療後の患者調査を行うことを医療従事者に働きかけたことである。当時,治療した患者がどうなったかは知る由もなく治療効果があったのかなかったのかフィードバックのない状態であった。Codmanはこれでは医療の発展はないと考え,積極的に患者のフォローを行った。当初は勤め先の病院によい顔をされず退職に追いやられている。彼は自分のクリニックを立ち上げ,そこで自分の治療が間違っていた(もしくは効果がない)場合はそれを記載・報告するようにした。現在では当たり前のことであるが,その基盤を作ったのはCodmanなのである。治療というものが一方通行ではいけないと彼は理解していたのである。

最後に「Codman triangle」は骨肉腫,Ewing sarcomaのほか,硬膜下膿瘍やときに結核性骨髄炎などでも出現する。悪性病変だけではないことに注意。

文献
1)Codman EA. The classic:Registry of bone sarcoma:PartⅠ. -twenty-five criteria for establishing the diagnosis of osteogenic sarcoma. PartⅡ. -thirteen registered cases of “five year cures” analyzed according to these criteria. Clin Orthop Relat Res 2009;467:2771-82.

(『関節外科2023年 Vol.42 No.9』掲載)



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