【山田 実先生:インタビュー第1回】情報の収集・発信における目的の重要性
目的を明確にするアウトプットの重要性
——先生が情報収集をされる際,意識していることはありますか。
山田:
目的をしっかりともって情報収集をすることが大事だと考えています。
例えば,PubMedで論文を検索するときに,いきなり「sarcopenia(サルコペニア)」という一単語だけで検索すると膨大な文献が無限に出てきてしまいますよね。
自分が何に興味があるか? 何を調べるべきか? を把握せずに,手当たり次第に100本の論文を読んだ場合,頑張ったという満足感は得られますが,必要な情報整理には至っていないということも多くあると思います。
これではせっかく論文を読んでも,対時間効果が非常に小さくなります。
——明確な目的をもつためにはどのようにすればよいのでしょうか。
山田:
自分の頭の中で考えていることをアウトプットして,具体化・言語化する必要があります。
自分の考えをノートに書き出したり,職場や研究室の先輩・後輩に話してみると,自分の興味があることや疑問に思っていることが絞られてきます。
先ほど例として挙げた「サルコペニア」というテーマのなかでも,興味があるのは対象者の予後なのか,関連因子なのか,対策方法なのか,によって,必要な情報は変わってきます。
また,特に最初の頃は自分1人で考えていても限界があります。
他人から意見をもらうことによって,自分が知りたい「何か」が少しずつ見えてくることがあります。
このようなプロセスを経ることで,自分の情報収集の目的が明確となり,必要な情報を選び取ることができるのではないかと考えています。
ただし,学部生のうちは目的をもつ前段階で苦労すると思います。
——前段階というと,自分の興味や疑問がまったく思いつかないという状況でしょうか。
山田:
その通りです。
臨床経験がないなかで,自分の興味・関心,そして研究テーマを絞っていく作業はかなり難しいと思います。
最初から「自分はこの研究をやりたいです!」という学部生がいたら驚きます(笑)。
——確かにテーマを考えるのは大変そうですね。何かきっかけをつかむ方法はあるのでしょうか。
山田:
自分の興味のある分野を見つけるためには,学術大会に参加するのも1つの方法だと思います。
学術大会ではテーマごとに発表やシンポジウムがプログラムされているので,学部生に限らず,よいきっかけになると考えています。
大前提となるのは英語論文を読めること
——英語論文を読んで情報収集する際のコツはありますか。
山田:
そうですね…。
「論文を全編にわたってしっかりと読み込む,読みこなせる」ということが大前提,この点は誤解しないでいただきたいと思います。
そのうえで,最初から全編を読もうとせず,ここでも目的に合わせて一部を重点的に読むのがよいと考えています。
論文の全体像を把握したければ「概要」,研究のバックグラウンドを知りたければ「背景」,自分が研究に取り組む際のデザインの参考にしたければ「方法」,どのような結果が得られたのか知りたければ「結果」を読めば,最低限必要な情報が得られます。
勿論,ミスリードを防ぐためにも全編をしっかり読み込むことは大切です。
ですが,それではハードルが高すぎるという方は,まずはハードルを下げたところから始めてみてはいかがでしょうか。
——先生自身は読まれた論文をどのようにまとめていますか。
山田:
パワーポイントのスライド1枚に論文の図表と簡単なメモを記載してまとめています。
また,毎週行っている研究室の論文抄読会では,結果の図表を中心にプレゼン資料の作成をしてもらうようにしています。
もちろん発表者は論文全体の内容を把握していて,緒言や考察などプレゼン資料にはない情報に関する質問にも答えられるように準備しています。
このようなスタイルが正解なのかはわかりませんが,論文の要点をつかむには適しているのではないかと思います。
ほかにも,エビデンステーブルを作成したり,文献管理ソフトを使うこともあります。
ただ,論文の著者とタイトルがわかれば内容を思い出せる人もいますが,僕は苦手です…。
そのため,印象的な図表を整理しています。
SNSに対するスタンス
——先生はSNSの情報については,どのように活用されていますか。
山田:
正直に言いますと,僕は他人のSNSをほとんど見てないんです。SNSの情報には,どうしても一部の偏った情報が紛れ込むので,鵜呑みにできない部分があると思っています。
また,SNS上で話題となっている情報が,世の中で関心度の高い情報かというと,必ずしもそうではない場合もあります。
だから,他の人と話しているときに,SNSでこんなことが話題になっているよと聞いて,初めて情報を知ることもあります。
基本的にはオリジナルの情報を調べるようにしています。
とはいえ,そのオリジナルの情報へアクセスする「きっかけ」という点では,SNSなどを活用するのはよい方法だと思います。
——先生はSNSをほとんどご覧になっていないということですが,ご自身はSNSで情報発信されていますよね。
山田:
X(旧Twitter)は当時の学生のアドバイスもあって,研究室の広報という意味合いで始めました。
投稿する際のスタンスとしては,個人的な偏った意見とプライベートな話は控えるようにしています。
投稿内容や各地で実施されている介護予防やサルコペニア・フレイルに関するニュース,論文の紹介が中心です。正直,僕の投稿を見ていてもおもしろくないと思います(笑)。
メディアを通じた情報発信の取り組み
——広報といえば,先生の研究室のホームページ(https://www.yamada-lab.tokyo)はかなり目を引きますよね。
山田:
業者の方と相談しながら,トップページに全力を注ぎました。
実は内容をよくみると,ほかの研究室のホームページよりも劣っている部分が多いんです(笑)。
——「Web版集いのひろば」というメールマガジンも配信されていますが,どのような取り組みなのでしょうか。
山田:
介護予防やフレイル対策に興味のある高齢者を中心に,毎週月曜午前10時に研究室からメールを送っています。
内容は僕からのあいさつと,研究室で作成している介護予防や転倒予防などをテーマとしたYouTube動画で,質問することも可能にしています。
この取り組みの目的は,週に1回メールが届くことで,登録者に介護予防へ意識を向けてもらうことにあります。
極端に言うと,メールの内容は一切読んでもらわなくても構わないので,とにかくメールを受信したことで「介護予防」について思い出してもらえたらと思っています。
なので,あいさつの内容も,介護予防に関係ない高校野球とかアイスとか,その時々で私が興味のある身近なことを書いています。
——さまざまなメディアを活用しつつ,情報発信をされている印象を受けました。メディアの多様化については,どのように感じていますか。
山田:
SNSに関しては,どんどん新しいものが登場していて複雑化している印象を受けています。
もともとSNSに苦手意識があったこともその要因かもしれません。
またコロナ禍を経て,学術大会の開催方法として現地だけでなくオンラインも浸透しましたが,現在はどちらの方法がよいのか,模索している状況だと思います。
個人的には,オンラインでは発言に注意を払うようになりました。
対面であれば,発言のニュアンスについて周囲の反応をみながら表現方法を修正したり,講演後に直接話し合って正しく伝えることができます。
ですが,オンラインではそういった修正が難しく,一方的な情報発信となるところが難しいと感じています。
これは発信時に周囲の反応を見ることができないメディア全般に共通する難しさだと思います。
SNSでも情報が誤解されることがあります。
文字数などの制限があるなかで,発言や行動の一部を取り出し,正しいニュアンスが伝わっていないことが多いのではないかと思います。
前後の文脈まで正しく伝えられないということをしっかりと認識し,情報発信に努めたいと思います。
【山田 実先生プロフィール】