見出し画像

【澤田辰徳先生:インタビュー第3回】若者に対する想い

世に氾濫する情報の取捨選択と学びの極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。4人目は,時代の移り変わりに対して鋭敏な感覚をもち,その時代に合った作業療法や教育を展開してきた東京工科大学 医療保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授の澤田辰徳先生にお話を伺いました。
さまざまな技術が開発され情報収集や学習の環境が変わるなかで,若者に求められる姿とは何か。
全3回シリーズ最終回の今回は,答えのないものとは何か,また澤田先生の若者に対する想いについてお話しいただきました。

人間の役割

——医療において答えのあるもの,答えのないものには何があるでしょうか。

澤田:
例えば答えのあるもの,つまりAIやロボットが代われるものとして,レビュー論文の執筆があります。
レビュー論文とは,過去に行われた研究を検証し,そのデータや論拠をまとめて結論を述べるものです。
実際の作業としては,数年かけて膨大な数の論文を検索し結果をみていくというものですので,いずれAIが一瞬でその作業を行う未来が想像できてしまいます。
そのほかにも,患者さんを評価するときに写真を撮ってそれをAIに認識させれば評価が完了し,さらに記録まで自動でしてくれるという時代が来るかもしれません。
このように,私たちはAIもできるようなことを機械的に行っていると,将来的にAIに取って代わられるかもしれません。
そのため,AIが担当できない答えのないものに対して,頭を使って仕事をしていかなければなりません。
作業療法士はただ上肢を動かすだけではなく,患者さんを丁寧にみて,本人の大切な作業のためにできることは何かを考えるようにすることが重要です。
作業療法では,身体機能はもちろん患者さん本人の気持ちや環境など,複合的に働きかけるため,エビデンスを構築しづらい分野です。
ですから,昔から作業療法士は何をやっているかわからないといわれてきました。
しかしそれは,裏を返せば作業療法の答えは数学のように1つではなく,複雑であることを示しているといえます。
これが作業療法士がAIに取って代わられる可能性は低いといわれる所以です。

若者への想い

——そういった時代の変遷のなかで,新人や若手セラピストはどのように学んでいけばよいのでしょうか。

澤田:
まず新人・若手として初めに行うべきことは,よいメンターを探すことではないでしょうか。
よいメンターを探すのは難しいかもしれませんが,現場で自分の興味のある分野において真摯に患者と向き合っているセラピストであればよいのではないかと思います。
そういったセラピストが入職した職場にいればよいですが,学生のうちに先生に聞く,近所の病院の先生に聞く,病院の業績や先生の紹介をみてみるなど,さまざま調べてもよいでしょう。
ただこれは,このインタビュー記事を読む人など,元々やる気がある人しか行いませんよね。
それはどうしようもないところです。
「今どきの若者は…」という表現は嫌いですが,あえて言わせてもらうと,今どきの若者は,最小限のエネルギーで最大の成果を出したがる人が多いと感じています。
確かに効率はよいですが,そううまい話がないのが社会だと思います。
やる気のある人は,積極的に就業時間以外でも自己投資をしています。
努力は報われるとは限りませんが,成功した人は全員努力をしています。
楽して成功することほど難しいことはありません。
今はよくてもいつかしっぺ返しが来るかもしれませんよ。

——つまり,この記事を読んでいる若者はこの記事を読んでいる時点で,将来成功するポテンシャルをもっているということですね。ところで,どうして「今どきの若者は…」という表現がお嫌いなのでしょうか。

澤田:
そういった表現が嫌いなのは,いつの時代でも「今どき」があったと思いますし,私が若いときも,江戸時代でもおそらくあったからです。
それに加え,「今どきの若者は…」という言葉の裏には,年配の人から若者への圧力や,個人的感情を感じます。
年配の人の主な優位性は,多くの知識を有しているところにあります。
アイデアの豊富さやタフさでは,むしろ若者に軍配が上がると私は感じています。
私たちが運営している学会「日本臨床作業療法学会」で,理事は50歳で定年としている理由も,そういったところにあります。
物を知っているだけならAIが代わることができますし,若者が好きにやってくれれば社会はうまくいくと思っています。
感情的になって若者を叩くというデメリットがない分,年配の人よりAIのほうが重宝される未来がくるかもしれません(笑)。
年配の人がやるべきことは,精力的な若者が間違えたときに,感情的にならずに修正してあげることです。
とにかく若者には,好きに動き回ってもらいたいです。
ただ好きに動くには責任が伴いますけどね。
また往々にして出る杭は打たれます。
打たれて打ちひしがれそうであれば,頼れる人に相談しましょう。
私の近くの人もそうしています。
人は一人じゃないので。

——最後に,このインタビューを通して伝えたいことをお願いします。

澤田:
たくさんの情報から,正しい情報を選び抜く能力が必要な時代になっていることは間違いありません。
具体的にどう選ぶかは,自分に合った方法でよいのではないかと思います。
ケースバイケースで状況に合わせて選択すればよいと思います。
SNSや原典に当たる,発信者を確認する,メンターに聞くなど,その場面に適したものでよいです。
それを繰り返しているうちに,情報に飲まれるのではなく,必要な情報を獲得できる能力がついてくるのではないでしょうか?
SNSもそうですが,情報ソースをうまく使えば,これまでよりはるかに楽に,有意義な情報を収集することができると思いますよ。
若さは可能性しかないのでぜひ頑張ってもらいたいです。

全3回のインタビューを通し澤田先生には,現代の情報収集の難しさに加え,人間が開発した技術と人間自身がどう向き合うか,また若者に望む姿についてお話しいただきました。
最近の趣味は,お子さんと山に登ることであるという澤田先生。業界の旗振り役として時代を先導してこられた先生は,その旗をあえて早期に次の時代の担い手に渡そうとしています。次の時代の担い手が,山道から滑り落ちないように見守ることを約束して。

(澤田先生のXより転載)

(了)


【澤田辰徳先生プロフィール】

<略歴>
1975年生まれ。岐阜県出身。東京工科大学医療保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 教授。管理運営・自動車運転・作業療法理論などを専門とし,2013年には日本臨床作業療法学会を立ち上げ,会長に就任した(現在は同学会理事)。Twitter(現X)においても精力的に活動中。
【経歴】
1999年 広島大学医学部保健学科作業療法学専攻 卒業
2001年 広島大学大学院医学部保健学科作業療法学専攻 卒業
2001年 グリーン病院(現 埼玉みさと総合リハビリテーション病院) 作業療法士
2006年 聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部作業療法学専攻 講師
2009年 イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科 技士長
2016年 東京工科大学医療保健学部作業療法学科 准教授
2021年 東京工科大学医療保健学部作業療法学科教授 現在に至る
【主な著書】
作業で結ぶマネジメント(医学書院)
作業で語る事例報告 第2版(医学書院)
作業療法とドライブマネジメント(文光堂)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?