【京極 真先生:インタビュー第3回】本を読もう
情報を関連付けるコツ
——学習のつなげ方のコツを教えてください。例えば,解剖学から運動学,運動学から各疾患の病態など,情報をどのように関連付けると頭に入りやすいでしょうか。
京極:
知識を自分のものにするには,基本は自分でやってみることでしょうね。
例えば筋肉の起始・停止を習ったら,まずは自分で動かしてみることです。
これは解剖学から運動学への連続ですね。使わない知識は存在しないも同じです。
私はこのようにして身体を使って体験学習することが大切だと思っています。
実際に体験することで,知識が記憶に定着しやすくなりますし,理解も深まります。
私は学生時代に解剖学の勉強をするときに,自分の身体だけでなく,友人や家族の身体も触らせてもらいました。
筋肉や骨格の位置や動きを確認したり,触診したりして体験的に覚えました。
養成校教育では,知識の習得から実践まで,自主学習というより教育のなかで行ったほうがよいでしょう。
授業設計として,教えたことを実際に使うところまで組み込むことをおすすめします。
しかし現在,PT・OTの教員になるには教員免許は不要で,教育に関する知識を全員がもつわけではありません。
なので,それぞれの講義でどこまでしっかり授業設計ができているかは不透明ですけどね。
強く深く考える
——SNSで情報が溢れる状況のなかで,若手はどうすればよいのでしょうか。
京極:
僕の答えは,本を読んで,知的体力を付けましょうということです。
これまで世界を変えてきたような文章は,本のなかにありました。
プラトンもアリストテレスも,硬派な本にまとめられているでしょう?
SNSのようにワンフレーズで勝負できて手軽に情報を得ることができる媒体もよいですが,「強く深く」考えるためには,複雑に混み入った議論がなされている書物を読みましょう。
ここでいう知的体力とは,理解や思考を深める能力のことです。
知的体力は筋力と同じです。
重い物を持ち上げるためには筋トレが必要なのと同様に,理解や思考を深めるには,硬派な本から情報を読み取る練習をしないといけません。
例えば竹田青嗣先生の『欲望論』(講談社)という本がありますが,これは僕にとっては世界の見方にかかわる重要な哲学書です。
この本では,意味や価値の共通了解可能な本質と原理を論じています。
このように得るものが非常に大きく,世界の見方を変えることさえできるような情報が載っている本を読むことによって,知的体力を高めていく必要があると考えています。
知的体力がある状態になれば,強く深く考えることによって情報が溢れるSNS社会に翻弄されたり,強い言葉にとり憑かれて意図せぬ方向に進むことは減るかもしれません。
逆に,知的体力がない状態であれば,「強く深く」理解して考えることが難しくなり,SNSから流れてくる膨大な情報に溺れたり,強い言葉にとり憑かれてしまい,おかしな方向に進むかもしれません。
だからこそ若い人にとっては,混み入った議論がなされている書物を読んでほしいです。
医療関係者は,そのような書物で知的体力を付けるとともに,その領域の全貌を把握します。
より専門的に学びたいのであれば,それに加えて論文を読んでいけばよいです。
ただし論文だけ読んでいると,枝葉の情報しか得ることができないので,ベースは本としたほうがよいです。
またさらに,それに加えてSNSを利用すると,最新の情報を得ることができます。
僕はこの使い分けが非常に重要だと思っています。
——最後に,このインタビューを通して伝えたいことをお願いします。
京極:
SNSが発展しさまざまな情報が氾濫していますが,こういう時代だからこそ,自分なりの規範をもって生きていきましょう。
誰かが決めたルールに盲従することなく,自分の頭でしっかり考える,自立した思考をもつことが大切かと思っています。
例えば若手は,自分にとって重要だと考えていることがあれば,周りから変だと思われても気にせず,どんどんチャレンジしてほしいですね。
僕を含む若手でない人は,過去の成功体験や昔からある習わしによって,自立した思考を奪われることなく,新しいアイデアや技術に対してオープンマインドで臨んでほしいです。
自立した思考という点では,「科学的にはこうだ」とか「哲学的にはこういえる」などといったところで思考停止しないことも重要です。
科学的あるいは哲学的にはそういえるかもしれないけども,それはいかなる条件のもとで成り立ち得るのか,と自分でしっかり考えてほしいですね。
今回は僕の個人的な見解をお話ししましたが,もちろんこれはすべての人に当てはまるわけではありません。
読者の皆さんには,自分自身で考えて行動することを忘れないでほしいです。
それでは,またどこかでお会いしましょう。
(了)
【京極 真先生プロフィール】