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第8回 百の頂に百の喜びあり:深田久弥と結核と百名山

深田久弥(1903〜1971)

「深田久弥(ふかだきゅうや)」という名前で「お,百名山を選定した人」とわかる方,登山してますね?

深田久弥は石川県生まれの小説家・登山家である。小学生のときに登った富士写ヶ岳をきっかけに登山に興味をもったとされる。彼の代表作『日本百名山』¹⁾は,1959〜1963年にかけて『山と高原』という山岳雑誌で連載を行っていた文章をまとめて出版した本であり,彼が登って印象的で景色の良い山を選定している。

百名山のうち「雨飾山」という山がある。頂上から「女神の横顔」が見え,夏なら花の咲き乱れる美しい山である。深田が妻と何度もトライしてようやく登頂できた山とされるが,彼が一緒に登ったこの妻,実は2人目の妻である。深田の最初の妻は,深田の作家としての基盤を最初に作った才女であり,脊椎カリエスになり寝たきりになってしまった悲劇の妻でもある。もしも健康であれば深田と一緒に山へ行っていたのは最初の妻だったのかもしれない。

脊椎カリエスは結核性脊椎炎のことである。骨関節結核の約半数を占め,胸腰椎移行部に好発する。進行が緩徐であるため,自覚症状に乏しい。単純X線像でも椎間板腔の狭小化は晩期になってから発生するため,病初期での異常の発見は困難である。結核に伴う膿瘍は前縦靱帯に沿って進展し,多椎体に炎症をもたらす。この所見は5%程度の頻度であるが,特異性が高い。膿瘍は造影MRIで平滑で均一な厚みの壁を伴う。血行性感染であるため,肺結核が必ずしも合併しているとは限らないのも興味深い。画像上,他の原因菌である化膿性脊椎炎との鑑別が問題になるが,膿瘍壁の形態,病悩期間の長さ,炎症を起こしている椎体の骨濃度,泌尿器系の炎症の合併(腎盂腎炎など)があるか,などで総合判断は可能である。

深田はその最期も山の中である。深田久弥は筆者のふるさと,山梨県にある茅ヶ岳の登山中に脳卒中で倒れ,仲間に担がれ 5時間かけて下山したとのことである。この山は八ヶ岳に似ている形状から「ニセ八ツ」とよばれる。頂上は狭いが富士山,八ヶ岳,甲斐駒ヶ岳などが一望できる。興味がある方,ぜひ登って!

文献
1)深田久弥.日本百名山(改版).東京:新潮社;2003

(『関節外科2023年 Vol.42 No.3』掲載)



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