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社会的処方を知り、まちに出る。【ケアとまちづくり、ときどきアート】


こんにちは。
金曜日で外科の実習が終わりました。
この3週間は本当に考えさせられ、自分の未熟さに気付かされた3週間でした。

手洗い一つとってもきちんと出来ていなければ患者さんの命を奪いかねない。
学生の間に出会ってそのまま医師になるまで出会わない疾患があれば今の向き合い方も変わりうる。

そんな経験を重ね、医師になる責任を今改めて考えることができて本当によかったと思っています。
この気持ちを忘れないためにもここに書き残しておきました。


さて、富山でも本格的に社会的処方プロジェクトが始動しました。
(社会的処方については社会的処方という本の中で述べられているのでこちらもよければ。)


イギリスで始まった社会的処方は国内でもその輪は広げ、富山でも人と人とのつながりをつくる活動のひとつ目としてモバイル屋台の制作が始まりました。

今年はCOVID-19の影響もあり、実際に地域に出て人と人のつながりをつくるのが難しい状況の中で


学生が主体となって地域につながりをつくる、“とやま型”の社会的処方をどのようにつくっていくのか。


これは大きな課題であり、同時にテーマでもあります。

なかなか通常通りに地域に出た活動ができない今だからこそ、
社会的処方の意義を問い直し、活動に反映していくためにも

今回「ケアとまちづくり、ときどきアート」が届くのを心待ちにしていました。

それでは早速…


・社会的処方と健康

そもそもなぜ社会的処方が重要なのか。

そこにはSDHという概念が関わってきます。

SDH(social determinant of heaith)は日本語に訳すと、

健康の社会的決定要因

であり、健康は自己の生活(自己責任)で決まる、というだけでなく、
社会的決定要因によって決まるということが言われています。

健康を決定づける社会的要因とは個人の所得や家族状況、社会的ネットワーク、社会的地位、国の政策などの社会環境を示し、これらから生じる格差が健康に影響しているのです。

例えば、同じような環境で生活してきた人でも全く異なる業種に就職すれば、給与も違い、社内で関わる人が異なり、周りにはお酒やタバコを好む人が多かったり、もしくは一緒に運動する仲間の存在が身近にいる環境にいるかもしれない。
さらには、職種によっては医療に詳しい人と関わる機会があることで健康意識が高まっている場合もあるかもしれません。

これらの状況を考えれば、健康が社会環境によって決まると言っても過言ではなく、この例のように、それぞれの社会的決定要因もまた他の要因と複雑に絡んでおりそれらを複合的に考えていくことが必要だと分かります。

このように結果的に様々な要因で生じる格差に対して我々ができることのひとつとして、つながりの処方(つまり、社会的処方)の重要性が窺えます。
(社会的処方についてもっと知りたい方は本書の著者の1人である西先生の「社会的処方」を読んでみることをお勧めします!)


・社会的処方の実践

今回は本書で紹介されている、より踏み込んだ社会的処方の形や各地で行われる実践例をもとに社会的処方の実践を考えていきたいと思います。

そもそも、つながりを処方する社会的処方ですがまずは我々が地域でつながりをつくる基盤を持っていなければなりません。

実際に私も大学1年生のときに医療ボランティアとしてインドを訪れる機会がありましたが、そこでこの基盤の重要性を痛切に感じました。

ボランティアはあくまで外部からやってきた人間であり、そこで予防の概念、健康について広めようとしても最初は当たり前ですが上手くいきません。
(そこで現地の教育を受けられない子どもたちに出会い、そこで教育の可能性を感じたインドでの経験についてはまたどこかのタイミングで…。)

そこで、まずは地域、そしてそこに住む人を知る必要が出てきます。

本書で紹介されている実践方法としての地域診断がヒントになるかも!
と思ったので紹介します。

地域診断とは、
地域の様々なデータ・情報を分析し、地域全体での取り組みや健康課題を分析し、政策立案につなげていく。

というもので、例として脳梗塞が多い地域の分析が挙げられています。

脳梗塞が多い地域で、その原因の高血圧の患者が多い
→高血圧の原因となる塩分が地域の食事には多く含まれる
→減塩食を勧めよう!

さらにここからフィールドワークやヒアリング、統計データを用いて課題解決を行なっていきます。
(社会的処方の重要性の中でも述べたようにそれぞれの社会的決定要因もまた他の要因と複雑に絡んでいることが考えられるため、それに加えて地域の貧困率や所得、家族、婚姻状況、人とのつながりなど多方面から分析して考えていくことが必要です。)

(課題解決についての詳しい流れについては、以前紹介した
「イシューからはじめよ」
がとても参考になると思うので一読をおすすめします!)

次に、地域を知り、そこから地域とのつながりを作っていくにあたって、我々医療に関わる人がつながりにくい


医療や健康に関心のない人


といかに繋がっていくか。
を考えていかなければなりません。

医療従事者が日常で人を診るのは病院の中で、多くは何かしら心や体に不調を抱えている、もしくは医療に関心を持っている人との関わりがほとんです。

地域には社会的に孤立してしまっている人や自由に外に出られない人、または健康であって全く医療と関わることのない人など様々に存在するため、そのような人たちにもアプローチできる社会的処方を目指さなくてはいけません。

健康への興味などに関わらず、つながり合える社会を創るには、第一に地域の人が興味を持って最初の一歩を踏み出し、つながりの輪づくりに参加してもらう必要があります。

そこで、その一歩の敷居を下げるのに我々の工夫として、本書でも紹介されている、「ポジティブな感情の利用」があるのではないでしょうか。

「おしゃれ」だとか「美味しそう」、「楽しそう」といったポジティブな感情を上手く利用した形をこれから模索していくことになりそうです。


・社会的処方の課題

ここまで社会的処方をプラスの面で捉えてきましたが、日本に広まってきている今、課題はまだ山積みです。

そもそも社会的処方はイギリスで生まれ、イギリスという国にある文化や社会の中で成り立っているものであって、それがそのまま日本で応用できるという訳ではありません。
実際、イギリスで重要な役割を担っている「リンクワーカー」という職業が日本には存在していないこともひとつの大きな要因です。

又、社会的孤立や健康問題を解決する手段として社会的処方がベストな選択肢であるかどうかという確立したエビデンスはまだ存在していません。

しかし、その中でも先日、厚労省でも社会的処方が話題にあがったように、日本でも着実に社会的処方は広がりつつあり、チャンスでもあります。

職業としてリンクワーカーが存在していないのであれば、本書にもあるように、みんながリンクワーカー的にはたらく社会を創ることもできます。

富山では我々学生がその中心となり、さらにはその活動の中で結果的に社会的処方の有用性が示されば今の日本が抱える課題の解決にもつながると思い、じっくり時間をかけながら進んでいければ、と思い、

本書「ケアとまちづくり、ときどきアート」がまた一歩背中を押してくれたような気持ちです。

最後に、社会的処方を行うにあたっては地域の人との関係性や利害関係のバランスなども考えていかなければいけません。そのような視点も持ちつつ、今後の活動に活かしていこうと思います。


・本の処方箋

本書「ケアとまちづくり、ときどきアート」の中では実際に行われているたくさんの社会的処方の形が紹介されています。

実際に社会的処方に触れ、行動しようとしている人はもちろん、地域の人とのつながりやコミュニティのあり方に疑問や悩みを持つ人にも大切なヒントを与えてくれるような本になっているので是非。

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