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【口が裂けても言いたい話】「狂気と感動は紙一重」

映画「そして、バトンは渡された」をネットフリックスで鑑賞。幼い頃から波乱万丈の人生を歩む女性の半生を描いた瀬尾まいこの同名小説を、永野芽郁、田中圭、石原さとみという豪華キャストで映画化。

物心つく前に母親を亡くし、父親ともワケあって離れて暮らすことになったみーたん。父の再婚相手であり、ひたすら自由奔放に生きる梨花に時に励まされ、時に振り回されながら成長するみーたん。3度目の再婚後、梨花は唐突にみーたんの前から姿を消してしまうが、母の奔放な生き方には、娘には決して知られてはいけないある理由があった……。

まあ、ひと言でいえば家族を題材とした感動物語。筋立ては全体としてテンポが良く、キャスト陣の演技も悪くない。何よりも、石原さとみの一見危なっかしい母親像が思いのほかハマっている。後半の展開によって前半の風景がガラリと変わっていく構成は、上質なミステリーにも通じるカタルシスがあると言ってもいいだろう。

……と、感動系の映画をただ「泣ける映画」としてレビューするのはいかにも芸がないので、ほんの少し、見方を変えてみることにする。

この映画、なかなかのホラーである。

病気により子供が産めない、というバックボーンがあるにせよ、勤務先で偶然見かけた女の子に心を奪われ、「自分の子にしたい」と思うだろうか。

そして、ただ願うだけでなく、梨花という女性はどこまでもしたたかに自らの計画を進めていく。見た目も中身もぱっとしない中年男を口説き落とし、結婚。しかし、彼から突如「ブラジルで一緒に暮らそう」と言われるとあっさりそれを拒否し、みーたんの親権だけはしっかりと死守する。その後も、暮らしが不安定になるとすぐにATM代わりの男を探し、これまた手練手管で口説き落とす。無論、3人の男たちには愛もなければ、情もない。いや、多少の情はあったのかもしれないが……。

もちろん、男を渡り歩いてきた裏側には治療費の確保とみーたんの生活保障という理由があるし、梨花自身も理想の母親になるべく一応の努力はしているのだから、まったくの無責任ではない。口説き落とした手段にしても置かれた状況を素直に明かしただけで、女としての魅力をフル活用したわけでもないだろう。

ただし、「自分の目的を是が非でも遂行する」という一点だけを見れば、紛れもないサイコパスである。

ある映画評論家は本作をファンタジーと称していたが、一歩間違えれば狂気じみたホラーになりそうな内容を王道の感動物語へとショウカサセタノハやはり、監督の手腕とキャスト陣の確かな演技力のなせる業だろう。

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