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【口が裂けても言いたい話】「差別と偏見の連鎖」

映画「his」をネットフリックスで鑑賞。岐阜の片田舎で偶然再会するゲイカップルと彼らを取り巻く周囲の衝突、偏見を日常風景をまじえて淡々と描いていく。主演は宮沢氷魚、藤原季節。

恋人である渚から唐突に別れを告げられ、傷心のうちに岐阜の田舎町に拠点を移した迅。物々交換を基本としたのどかな日常にもようやく慣れてきた迅だったが、ある日、渚が愛娘とともに町を訪れたところから安定が少しずつ崩れはじめる。身勝手に別れておきながら居候として迅のもとに転がり込む渚に若干の苛立ちを覚えつつ、新しい日常を受け入れていく迅。一方、渚は都会で結婚した妻と離婚協議中であり、娘の親権をめぐる長い裁判を抱えていたのだった……。

前半部分ではのどかな田舎町の日常が淡々と描かれるが、渚の妻が愛娘を連れ帰るために町を訪れるあたりから、物語は音をたてて動いていく。田舎町と裁判所の対比が視覚的にメリハリを生みだし、テンポを作っている。

本作で描かれるのは、ゲイカップルへの差別だけではない。ゲイの夫と離婚し、愛娘の親権を手にしたいと主張する妻に対して法廷で浴びせかけられる数々の指摘は、働くシングルマザーへの偏見そのものである。

しかし、それも仕方がない。ある面での差別・偏見を覆すことはつまり、もう片面の差別・偏見をあぶり出すことにほかならない。

法廷での闘いの末、渚は父として、元夫としてあるひとつの決断をする。その決断が現在のゲイカップルを取り巻く偏見へのこたえだとすれば、あまりにもやるせない。

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