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手鏡 おひや
2024年5月15日 02:02
運命だ、と思った。____は此の偶然に感謝した。ざり、と音を立てて一歩を踏み出す。先刻迄鉛の様に重かった足は、信じ難い程に軽やかであった。眼前の化生が、怯えた様に細く声を漏らす。「誰、なの」声は掠れていた。滝の流れる音が響いている事もあり、もう左耳の聴こえない____は、殆ど其の声を拾えなかった。が、何を言いたいのか表情から読み取るのは容易かった。「忘れたのですか」____
2023年7月12日 10:09
想いは零れ螢の如く揺らめく。其の軌跡が首に纏わり、音も無く締めた。独法師でも彷徨い、踠く事は出来るから。永い旅路に捧ぐ餞は、貴方が私に呉れた言の葉ひとつ。「斃れ」
2021年11月21日 02:01
後朝、菊乃は政之助を大門まで送り届けていた。政之助さん、どうぞ又来ておくんなんし……と甘い言葉と腕を絡められ、政之助は満足気であった。「なあ、お菊。お前、こんな所――颯々と出て行っちまいたくねエかい」こんな所、で妓楼を仰ぎ見、政之助は尋ねた。「何を……おっしゃいんす、政之助さん。わっちは籠の中の鳥――外を夢見るなんて、疾うの昔に諦めてござりんす」眼を伏せ、本の少し力ない笑顔を向ける。其
2023年5月24日 22:19
貴方を恋い慕います。其れは何処迄も穢い感情で、私の心は何時迄も晴れないのです。貴方の視線の先に私が居ない事が苦しい。貴方の笑顔を私が見られない事が悔しい。貴方の心に、私の居場所が無い事が憎い。如何して?「……」貴方を乞い慕います。私には、貴方の幸せなぞ興味が無いのです。唯、其の優しい瞳を私に向けて……朗らかな声を私に聞かせて……私を愛して。私の為だけに生きて欲しい。其