【過去エッセイ】雨のにおい、ミミズのにおい
※2021-08-14/はてなブログ(ヒガシノメーコ記)で掲載したエッセイ。
だいぶ伸び、重く長くなった髪に再び活力を与えるべく、美容院を予約した。パーマをかけるときは、15年以上お世話になっている隣県の美容院にお願いすると決めている。そうして電車を乗り継ぎ、やってきた某駅。構内を抜け、ひらけたロータリーに出たところで、わたしは顔をしかめそうになった。”雨のにおい”がしたからだ。
べつに自分が特別”雨のにおい”が嫌いな人間だとは思っていない。雨が降ったときに、ほんのり木の香りなんかすれば、そのにおいを胸いっぱいに吸い込みたくなる。でもそのとき嗅いだにおいは、わたしの苦手な”雨のにおい”であった。
そのにおいを説明するのは難しい。そもそも、このにおいを自覚したのは小学生の頃。当時、通学ルートの一部に、林のような雑多に木や植物が生えまくった場所があった。そして雨が降るとその林からよく件のにおいがしたのだ。
同時に、夏季に雨が降ると決まって「ミミズ」が湧き出た。車に轢かれたりしてペチャンコになった状態のミミズもいれば、一命をとりとめウゴウゴと身をくねらせているミミズもいる。わたしはなぜか、この苦手な雨のにおいを無意識に”ミミズのにおい”だと思っていた。そして現にロータリーに出たときも「あ、ミミズのにおいだ」と思った。
つまり、わたしは”ミミズのにおい”が苦手なのである。しかし、繰り返しになるがこのにおいを人に説明するのは難しい。もっといえば、わたしが感じているこのにおいは恐らくミミズから発せられているわけではない。でも、あのにおいがするとやっぱり”ミミズのにおい”だと思い、息を止めてしまうのだ。
ちなみにこのにおい、林などの植物が多い場所から発せられるものかと思えば、ロータリーなど植物があまりない場所からも漂っているという新たな発見もあった。いったいあれは、なんのにおいなのだ。本物のミミズは腐敗臭らしきにおいがするらしいけれど…わたしが感じる”ミミズのにおい”はべつに腐った感じのようなものではない。謎はますます深まるばかりだ。
雨に濡れた街に出て大きく深呼吸をしたとき、あのミミズの匂いがしたら…と思うと、わたしはまだまだ「雨のにおいが好き」という人間になれそうにない。
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