映画「パーム・スプリングス」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第69回
同じ日を何度も繰り返せるとしたら?
2020年「パーム・スプリングス(Palm Springs)」
文・〝美根〟
楽しい日や幸せを感じる瞬間は、あぁずっと今が続いたら良いのにな、と思ったりして、涙が出ちゃったりする時ってない? 年越しの時に、家族みんなと過ごして、そんなこと思ったんだよね。自分や家族、周りの人たちが年齢を重ねていくのが怖くなって、ずっと今なら良いのにと思ったりもするし、でも、今のまま年取っていくのかな、今の状態がずっと続いちゃうのかなと逆に怖くなったりもする。
時間は平等に進んでいくのに、私たち次第で無駄にも有効にもできちゃうのって、難しい。今年最初に紹介するのは、ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた、ある1日が永遠に繰り返すループに迷い込んでしまう映画です。
Wake Up!
リゾート地パーム・スプリングスで結婚式の準備が行われていた。ナイルズは、新婦友人の彼女に付き添ってここへ滞在していた。執り行われる結婚式。新婦の姉サラは、付添人として参列していたが、スピーチをすることを忘れてワインをすでに数杯飲んでしまっていた。
スピーチの順番が回ってきて焦るサラ。そこへ突然ナイルズが乱入し、代わりに素晴らしいスピーチを披露した。盛り上がるパーティーに一人浮かない顔のサラの元へ再びナイルズが現れ、外へ誘い出す。二人きりになったところで突然矢が飛んできて、ナイルズの肩にぐさり! えええっ! 血まみれのナイルズを追ってサラは洞窟へと迷い込む。すると不思議な光へ吸い込まれ、気づくと同じ日の朝に戻っていた・・・というお話。
何をやっても”無意味”!?
この二人が迷い込んでしまったループ、眠っても死んでも同じ日の朝に戻ってしまう! 「何をやってもここでは無意味なんだ」と先に何度もループしていたナイルズがいう通り、抜け出せない代わりに、言ってしまえば、何をやらかしてもみんな覚えていない、無かったことになるのだ。
ループから抜け出すために、最初は色々やってみるサラだったが、途中からヤケクソになって、ループライフを楽しみだすところは、私も一緒に楽しい! 死んでも元に戻るだけなので、お構いなし! なんでもあり! お酒を飲みながら飛行機を操縦したり、誰彼構わず誘惑してみたり、結婚式をめちゃくちゃにしたり・・・。
絶対にやっちゃいけないことをやれるって最高すぎる・・・あれ、ループライフいいなぁと思ってしまったぞ。げっそり浮かない顔をしていたサラがハツラツとしだす表情の変化も、良い。サラがあるサプライズをする時の、目元のメイク(下まぶたのラメが超可愛い)や表情が大好きなんだよね。
立ち止まって見えるもの
ループに迷い込んだ二人の素性があまり明かされないのに、ここまでこちら側にグッと身を乗り出させて飽きさせない構成と演出はすごい。散りばめられた謎や伏線がしっかり回収されていくので、引っ掛かりがなく楽しめる。そしてループのルールもきちんとしていて、場面もナイルズ視点、サラ視点と転換もあるのに、違和感なく進んでいくのも巧妙すぎる!
明日が来ない世界は、地獄のような天国? あなたならどう思うだろうか。もしずっとループしていたら?そしてもし、ループから抜け出せる方法を見つけ出したとしたら? ループの中で忘れていた向き合わなきゃいけないこと、何が起こるかわからない日々、死んだら終わりの人生を選ぶか、永遠に同じ日を生き続ける人生を選ぶか。ぜひ、この二人にどんな結末が待っているのか、観て確かめて欲しい。
3日くらいなら、ループしてみてもいいかも?
もし、ループの世界に入ってしまって少し過ごして楽しんだとして、元の世界に戻れるってなった時に、「わぁあ、これが待ってる、あれをやんなきゃ…」って思うことが、多分今やらないといけないことなんだろうと思う(笑)。あと、初対面でもう今後会わないだろうなって人とは上手く喋れるのに、これから付き合いがありそうな人とは緊張して良く思ってもらいたくて逆に上手く喋れない、みたいなあの現象も思い出したよ。なんか通じるところを感じた。
時間が進む切なさか楽しさか、変化への期待か恐怖か。大人になった私たちのためのSFファンタジーです(実際色々と大人向けなので留意)。
冒頭で矢を放った謎の人物や、他にも色々、私全然詳しく話してないので、もう他には何も見ずに、鑑賞してください、レッツゴー! 90分なのでサクッと、ふふっと笑えて、えも言われぬ余韻も楽しめる、新年にぴったりの映画だよ。ポスターを見て「夏が舞台?」と思ったら11月のお話で、今の季節感と色々違いますがそこは許すのだ。指輪もプールの上でくつろぐナイルズです。プールの中もよーく観てみてね!
2023年を私たちは生きていくよ
映画って本当に面白いね。現実の毎日の生活が揺るぎなく自分の目の前にあって、でも映画を観て、体験できないことを一緒に体験して、自分に置き換えてみたりして、日常では思いもよらない感情を知れたり、こっそり思ってたことを認めてもらえたりする。
私もそういう世界を届けたいな。私が作るのは映画じゃないけど、私のライブに来たら、私の曲を聞いたら、そんな楽しさを感じてみんながそれぞれの場所でまた歩みを進められるように、今年も地道に、でもそれは飛躍のための地道さで、じりじり進んで参ります。そして素敵な映画ともたくさん出会って指輪にするぞ! 今年もよろしくね。
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モチーフ:プール:ピザの浮き輪、ナイルズ、矢、お酒の缶、ウェディングケーキ、車、浮き輪
音楽:カバー「When The Morning Comes」Daryl Hall & John Oates
BGM:「Turn It On」Chester Moore II
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