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【恋愛小説】夢現❁5mins short love story❁

「ほら、早く早く!」

あなたが私に笑いかけながら手を振る。
見慣れた光景なのにどこか寂しく切なかった。

『待ってよー』

2人の行きつけのカフェに向かう途中だった。
重めの扉を押すと、少し年季の入ったような落ち着いた雰囲気の店内が目の前に広がる。
私達の大好きなナポリタンハンバーグの食欲そそる香りがふわっと香ってきた。

「お好きな席へどうぞ〜」 

アルバイトと思われる若い女性店員が快活に声をかけてきたので、入って右奥のソファー席が向き合うように並べられたボックス席に向かった。
私達のいつもの席だった。

「じゃぁ、やっぱ俺はいつもの!」
『私も一緒〜!』

席について、先ほどの店員が水とおしぼりを持ってくるやいなや、メニュー表を開くこともなく、定番安定の鉄板ナポリタンハンバーグを注文した。



ナポリタンハンバーグは二人共ペロリと平らげた。
食後のデザートのプリンが、これまた格別だった。少し固めのプリンで、口の中でなめらかに溶けていく口溶けが最高だった。

「…あのさ」

いつものように大学の授業や単位の話、アルバイトの話などの他愛のない話をしていたところで、急にあなたが真剣な面持ちで口を開いた。

「俺達付き合ってもうすぐ2年だよな。
 だから、これ。」

そう言ってあなたがテーブルの上に置いたのは、あなたの家の合鍵だった。

『え、これって…』

なんの前触れもなく、突然の出来事に狼狽えてしまう。

「一緒に住まない?ってことなんだけど。」

鍵に目線を送りながら、少し緊張で顔がこわばったあなたが目線を上げて目が合う。

ドキッとして、顔が熱くなった。

『え、住みたい!嬉しい…』

「よかったぁぁ。なんかめっちゃ緊張したんだけど」

あなたの方へ目を向けると私が大好きな笑顔がそこにあった。

『突然のことでこっちも緊張したよー』

「あははごめんね、改めてよろしくね」

『こちらこそだよ』

あなたから合鍵を受け取ると、あなたはそのまま私の手に自分の手を重ねて優しく包みこんでくれた。


❁❁


ー♪


聞き慣れた音楽が鼓膜を起こそうと繰り返し響き渡る。眠気眼をこすりながら、音のする方へ手探りでスマホを探し出すと、慣れた手つきでアラームをオフにした。

『なんだ、夢か…』

声になるかならないくらいの微量な声で呟くと、隣で掛け布団が少し動いて、私の腰元に手が回ってくる。

「おはよう。」

耳の後ろからまだ半分寝ているような声がした。

『おはよう。目覚ましうるさかったよね、ごめんね。』

「…ううん、大丈夫だよ…」

私の腰に回した腕にギュッと力を入れると、言い終わるか言い終わらないか位のところで、寝息が聞こえてきた。

回された手をそっと撫でると、起こさないようにゆっくりとほどいて、改めてスマホに手を伸ばして画面を確認すると、午前7時16分。

ロック画面にいくつか通知が来ている。

みんな夜ふかしだなぁなんて思いながら、サラッと確認をしていると、ふと一つのメッセージの通知に目が止まった。

インスタグラムでのメッセージだったから、アカウント名が表示されていたが、私にはそれが誰なのかすぐに分かってしまった。



[ひさしぶり!元気?]            昨日 23:45


夢は記憶の整理だと聞いたことがある。
私は夢は願望の現れなんて、思わない。

まだ寝ぼけてるんだな、なんて都合よく解釈してまた温かい両腕に包まれながら瞼を閉じた。

回された私よりも一回り大きい手に自分の手を重ねると、貴方が指を絡めてきてお互いの薬指にはめられた指輪が当たった金属音は私達の耳には届かなかった。


『夢現(ゆめうつつ)』-FIN-




最後まで読んでくださったことをとても嬉しく思います。 またあなたが戻ってきていただけるように、私なりに書き続けます。 あなたの一日が素敵な日になりますように🌼