見出し画像

【恋愛小説】きっと、恋しくなるから❁5mins short love story❁



明日には、貴方はもう此処にいない。



その事実は、
先の見えない螺旋階段を下り続けるように
私の頭をついて離れない。



貴方は今、私の目の前に居るのに。


  


23時25分、貴方とふたりでベッドに横たわりながら話をしている。


隣から香るシャンプーの香りも
もうこれが最後なのかもしれない、と思うと
私の胸が傷んだ。





話しているのは、二人の話だった。




出会ったこと。




貴方への気持ちに気づいた事。




貴方が私と同じ気持ちでいてくれたことを
知った事。





短い時間なのに、



貴方と一緒に居た時間はこんなにも色鮮やかに
刻まれている。

   

  


こんなにも早くに別れが来るなんて
思っていなかった。




それなら貴方と過ごす一瞬一瞬を
もっと大事にしたのに。




そう思うけれど、




私はどの時間もこれ以上無いほど
大切にしてきた。





それでもまだ足りない、と
私の心が小さく叫んでいた。





『眠たい?』




私の顔にかかる髪の毛を掬い上げながら、
微笑む貴方が尋ねた。


私は貴方の方へ目を向けた。




貴方は今私の目の前にいるのに。



目を閉じてしまったら、
いなくなってしまうのではないかという
不安な気持ちが込み上がる。



今この時間を大事にしたい。




貴方の存在が、
此処にあるということを確かめたかった。





「うーん、少しだけ…眠いかな…。…だけど…」




目を閉じれば貴方はそこにいないから。



今目の前にいる貴方を
少しでも長く目に焼き付けたいと思った。





私は、伝えきれない想いを
頭でまとめようとしたけれど、
考えれば考えるほどに、余計に絡まっていく。
 



視線が落ち、伏し目がちになる。




この気持ちを言葉で表すなんて、
私の語彙力では到底敵わない。




切なくて悲しいような、恋しいような
一言で纏らない気持ちが
奥から奥から溢れて出てくる。




こんなにも貴方が大切なのに。

何故これほど痛いんだろう。





そんな私の気持ちを汲んでか、

貴方は私の瞼に優しくキスをした。




貴方を見上げると視界がぼやけてくる。

ぼやける視界の先で、同じく目を涙を溜めながら、
精一杯微笑みかけてくれる貴方が見えた。




あの日、私達に別れる日が来ると聞いたとき、
泣かないと決めたのに。




貴方がそっと私の身体を抱き寄せた。



少し硬い胸元に頬を寄せると 
貴方の香りがした。



私を包んで安心させてくれる好きな人の香り。


忘れたくない。






『僕は此処にいるよ。だから、安心して。』



貴方は、私をさらにギュッと強く抱き締めて、
微かに震える声で言った。

まるで私が心の中のそれを全て伝えたかのように、私の想いを受け止めてくれていた。



そして、私の髪を梳くように頭を優しく撫でた。

貴方も私の存在が今此処にあることを
確かめるように。







私の瞼が次第に重くなっていった。














『おはよ』


「うーん…。おはよう」



カーテンの隙間から陽の光が細く、
一直線に部屋に差し込んでいる。

私は眩しくて開けたばかりの目を細めた。




もう、明日ではなく、今日なんだ。





「私、知らない間に寝ちゃってた。よく寝れた?」





私は、彼の腕に頭を預けたまま尋ねた。




『君の少しだけ後に寝たよ。寝るのが惜しくて…』




貴方はそう言うと、泣きそうな笑顔を私に注いだ。

私の身体と貴方の身体が向き合う形で近づく。




『寝ちゃうとすぐ朝になっちゃうから、少しでも君の側に居られる時間を大事にしたいなって思ったんだ。』


「起こしてくれたら良かったのに…。」

あと僅かしかない貴方との時間を逃してしまったような後悔に似た気持ちが湧き上がってくる。


そんな私の後悔をかき消すように、貴方はにっこり微笑みながら言った。

『気持ちよさそうに寝ていたから、起こさなかったんだよ?』

「確かによく寝れたけど…」

我ながら子供っぽいと思うけれど、
少し拗ねてしまう。

貴方はそんな私をなだめるように、
頭を優しく撫でてくれた。

『僕の目の前に君がいるうちに、ちゃんと君のことを見ていたかったんだ。』




昨日の夢に貴方は居なかった。



そして今、私の目の前にいる貴方の



笑顔は、




声は、




匂いは、





全て私がこれから先も 
毎日見たくて、聞きたくて、感じたいものなのに。




貴方は此処にいるのに、
既にどうしようもなく恋しい。





お互いの存在を確かめるようにして、
向き合った目線が交差する。






私と貴方だけの合図で
どちらからとも無くキスをした。









貴方との時間が全て夢のようだったと、
私はもう朧げにしか憶えていない。




だからせめて今夜だけは 
貴方の夢を見れたらと願って、
私は瞼を閉じた。


『きっと、恋しくなるから』  FIN

Inspired by
"I Don't Want to Miss a Thing" song by Aerosmith

最後まで読んでくださったことをとても嬉しく思います。 またあなたが戻ってきていただけるように、私なりに書き続けます。 あなたの一日が素敵な日になりますように🌼