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製品開発を進めるには“おもしろい”と思うことが大切

私は機械メーカーで30年間設計をしている。
転職歴が1回あり、生まれ育った地へのUターンで、大企業から中小企業への転職である。正確に言うと、転職した企業が吸収合併され、勤務先は3社目となるが、いずれの会社でも業務は機械設計をしている。
設計業務の中で開発にも携わったことがあり、特許も出願したことがある。幸いなことにその特許は成立し、製品もわずかであるが売れているため、辞めた会社から今も特許料を年間に1万円程度もらっている。ありがたいことだが、これも元日亜化学工業社員の中村修二氏が起こした青色発光ダイオード特許訴訟(2001~2005年)の影響が大きいと思う。(中村氏のやり方が良かったのかはわからないが)

最近、会社の上司から、
製品開発を進めるには“どのような仕組みが必要か”
という問いが設計担当者全員にあった。
問いかけるのはいいのだが、上司は自分なりに“何が悪くて開発が進んでいないのか考えているのだろうかろか”と言いたくなる。まあ、立場上、自分の意見を先に言う訳にもいかないのだろうから仕方がないかもしれないが、上司のマネジメントが問題だとは思っていないのだろうか。

他の人の意見を要約すると以下のようなものだった。

・顧客ニーズ、市場動向を収集する仕組みの確立と共有化
・関連部署(製造、営業)との連携強化
・開発担当者の時間の確保(選択と集中)
・成果報奨制度の創設
・開発設備と予算の拡充

どれもよくある意見だったので、私はあえて技術者としての気持ちの問題を提起してみた。(こんなことを言っているから出世もロクにできないのだろうが、これが自分である)

この問いに対する私の考えは、以下のような内容だ。

“仕組みの問題ではなく、技術者の気持ち、意欲、プライドの問題”
ではないかと思う。

数十年前に先輩方が開発した過去の資料を見ると、「よくもこんなことをやっていたな」と感心することがある。それも、パソコンやCAD(手書きではなくコンピュータでの製図)が無い時代に。
現在と違って、高度経済成長期で、“なんでもやってみる”そして“失敗しても次がある”という世の中だったのだろうが、経営者の思いが技術者に伝わって、プライドを持って“やってやろう”という雰囲気があったように推測される。
時代が違うと言えばそれまでなのだが、
要は“自分がおもしろいと思う仕事をできる風土”を作り出すことがまず先かと思う。人間は“おもしろい”と思ったことに興味を示し、エネルギーを費やすものである。“おもしろくない”と思っている仕事は先には進まない。

目先の利益は出ないかもしれないが、「10年後、20年後に何か“おもしろいもの”ができればいい」という、経営側の勇気と覚悟が必要ではないだろうか。上に立つ人が志をもって“こんなものを作りたい”と言い、それがおもしろいと思った人が実行する仕組みを作るというのも1つの手段かと思う。(提案者は誰でもいいのだが)
ただ、実行するのには時間の余裕は無くても、心の余裕が無いといいものはできないと思う。“タイムリーなリリース”とか“売上いくら”とかを度外視してやってみてはどうだろうか。縛られてしまうと自由な発想はできないと思う。

先日、回転寿司チェーンの新宿店オープンの裏側をテレビ番組でやっていた。普段、テレビはあまり見ないのだが、おもしろかったので見続けてしまった。
番組の中では、店舗探し、システム開発、商品開発、接客、従業員指導のそれぞれの担当者が、仕事は大変そうだったが、プロ意識を持ち、その店の寿司が好きで、お客さんを喜ばせるという意欲を持って行動していた。テレビ番組は編集次第でどのようにも見せることはできると思うが、おもしろかった。こういう人たちの志が今の会社にも必要だと思った。売上が伸びていく会社は違うなと。

前述で辞めた会社から今も特許料をもらっている話をしたが、この時の開発を自分が意欲を持ってやっていたかというとそうでもない。どちらかと言えば“イヤイヤ”やっていた。
では、なぜその開発が成功したかと言うと、お客さんの“これを作って欲しい”という熱意がすごく、その熱意に動かされた感がある。開発にはかなりの時間を要し、トラブルは数知れず、その度毎にお客さんには責められ、かなり辛かった。しかし、若い時のこの経験が大いに役立っているのは間違いない。
今になって思えば、“イヤイヤ”やることになったのは、この辛さに耐えることができず、心に余裕が無くなっていたからだと思う。心に余裕が無くなればうまくいくこともいかなくなる。

逆に開発させる側の立場から見ると、心の余裕が無くなるような責め方や要求をすると開発が進まなくなる可能性があるとこを心得なければならない。ほどよいプレッシャーを掛けながら開発を進めさせる必要がある。

自分が“おもしろい”と思う開発は速く進むし、成功することも多いと思う。
“おもしろい”と思うと、人は夢中になるものである。

『夢中は努力に勝る』という言葉もあるが、
“おもしろい”と思うことは“好き”になり、“好き”になるから人に言われなくても行動し、開発がどんどん進んでいくようになる。
そして、その開発からいろいろなことを学び、また、次の開発に生かすことができるようになる。

これからの私の役割は、若い人たちに仕事のノウハウだけではなく、このような考え方も伝えていくことだと思っているが、それには自分が“おもしろい”と思い、楽しく仕事(開発)をやっている姿を見せることが大切ではないかと思う。

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