第5回 航空機内医療 ~日本はとっても遅れている?~
お久しぶりです。最近は離島における総合診療、都内におけるER/救急科での業務において学ぶことが多すぎて楽しい反面、課外活動に精を出せていないのがなんともいえないところです。
航空機内医療の普及活動は関係各所でスピードダウンしてしまっているのが現状ですが。。。今後は仲間を増やすためにイベントをやっていこうと思っています。とりあえず今回は海外事例とそこからの学びについて!
以前、note.で日本国内における航空会社のサービスを紹介しました。
機内における急患発生時に事前登録した医師が(特例を除いた場合に)対応することができるシステムです。そして医師らの懸念事項である有事(過誤なのか過失なのかに発展させると法的にややこしいので、とりあえずこう書かせてください)の際には、ある程度の保証/補償は航空会社によって賄われる(…?)といったものでした。ぜひこちらの記事をご参照ください!
海外航空会社における類似サービス
綺麗なお姉さんが大好きです。ブラックベースにイエローが挿し込むこの制服こそ、ルフトハンザドイツ航空です。同航空会社では、
The ‘Doctor on board’ programme というシステムが導入されています。事前登録した医師が緊急時に支援を要請され、機内セットを用いて処置、必要に応じて同機内にいる医師と力を合わせたり、地上の救急医と連携していく…といったおおまかな流れはJAL/ANAのシステムと同じです。以下に同システムを利用する際に享受できるメリットや、以前の記事でも主題となった賠償責任問題についてまとめます。
享受できるメリット
• Miles & More(ルフトハンザ航空独自のマイラーズサービス)において5,000マイルのプレゼントされる →ANAのシステムに似てますね。
• 「Handbook of Aviation Medicine: and In-Flight Medical Emergencies(航空医学・機内医療援助ハンドブック)」1冊もらえる →ちょっと気になる…!!
• プログラム参加者用にデザインされた特製のバッグタッグもらえる
• 50ユーロ分のプロモーションコードを1回分もらえる
(定期的な割引キャンペーンなども、もちろん適応される)
• ルフトハンザにてDeutsche Akademie für Flugmedizin(航空医学ドイツアカデミー)との提携による、ルフトハンザ医療サービスが提供するセミナーへ参加できる ※参加することで何かしらかの専門医維持するためのポイントget
→これ結構ナゾです。
前回も書きましたが、そもそもこのような報酬目当てで登録するわけではないのですが、とはいえ享受できるものは把握しておくべきと考えます!
賠償責任について
• 医療支援要請に応じた医師は法的に保護される(なんの法律なのか不明)
• (治療した)患者が訴訟を起こしても、ルフトハンザはそういったシチュエーションに備えて第三者機関(保険会社)と契約しており、医師の責任は問われない(ようにする)という決まりがある
• ただし、故意による過失は除外される
• 上記の免責は医師ならびに(熟練した)医療関係者にも適用される
あいまいな部分に関してルフトハンザ側に問い合わせているものの、有用な返答がない状況です。日本国内の2代航空会社も、故意と重過失以外は賠償してくれるとのことですが、細かい法的裏付けは一切記載なく、そもそも”故意"と"過失"は法的には全く異なるものであり、その解釈はCase by Caseになると思われます。第1回で書かせていただいた「善きサマリア人の法」も含めて、しっかりとした法整備が整うまでは安心して利用できるサービスではないのかもしれませんね。
登録方法について
①ルフトハンザドイツ航空のマイレージクラブに登録する
②医師登録をする(この際に医師証明および個人情報をFAXしないといけないというのが最大の手間…なぜFAX…)
これだけです!登録はココから!
実際にルフトハンザ航空機内で対応した
3人の医師の声を受けて
ドイツ人医師のファウストさん(総合診療医)は何とこれまで2度の経験があるそうで、直近では「クインケ浮腫」(たいていはアレルギー反応による局所のむくみ)の患者さんに遭遇し、機内で治療に成功したとのこと。また1度目はドイツからギリシャに向かう道中で「鋭い胸の痛み」を訴える85歳男性に遭遇し、狭心症~心筋梗塞を想定してニトログリセリン投与などを施したものの、その時点でまだ数時間の飛行時間が残っていたため"緊急着陸を機長に助言すべきか"という点でとても悩んだそうです。悩んだ最大の理由は、緊急着陸には多額の費用がかかり、また他の乗客に不利益を与えるためであるとのことでした。しかしながら、患者の命を優先すべきと判断し、機長はそれを受けてビエナに緊急着陸。その後、患者は近隣病院へ救急搬送され、3日後に元気に退院したそうです。良かったですね!
ギリシャ人医師のヴェレニスさん(内科/糖尿病内科/救急科)は、フランクフルトからマヨルカ島へ行く道中に、自身の隣に座っていた乗客が急に眼球が上転し、舌根も沈下して今にも気道が閉塞しそうな状態となりました。咄嗟に「てんかん状態」と判断して気道確保し、一命をとりとめることができました。
ヴェレニスさんは搭乗以前からルフトハンザ航空の同プログラムに参加しており、過去に数回遭遇し、多くの患者を救ってきた経験がありました。そのうちのほとんどはインフルエンザ感染による小児の発熱でしたが、糖尿病患者のインスリン打ち間違えによる低血糖(それも意識障害になるほどの)で呼ばれたことが2度あったそうです。(その理由として興味深いことに、時差等々の影響で、いつも定時にインスリンを打っている患者が適切な時間/タイミングで打つことができなかったそうです。)
いずれもグルカゴン注射で事なきを得たそうです。良かったですね!
上記の2名は日頃から対応している範疇でのイベントでしたが、次に紹介するフランク医師はドイツ人の放射線科医で、日常診療において急患対応の経験が極めて浅い医師でした。ドイツからアメリカ合衆国に向かう道中で、トイレから席に戻る際に足がもつれて明らかに衰弱し、嘔吐までしている女性に遭遇しました。結果的には食事や水分をロクに摂らなかったための脱水状態であったようですが、その女性は「自分のせいで飛行機が進路変更したらどうしよう」と動揺しており、フランクさんが自分が医師であることを伝え、もう大丈夫だよ、と声をかけると安堵し、次第に表情も明るくなっていったそうです。良かったですね!
以上、3名の医師の経験談でした。日本よりも遥かに早期にシステムが開始していたこともあり、他にもたくさんのエピソードがあることでしょう。
ファウストさんの話からは、緊急着陸に伴う様々な弊害(コスト、他乗客の不利益など)と患者の命(といっても誤診で軽症の可能性も充分ある)を天秤にかけることの困難さを改めて感じました。実際に国内のシステムでそのあたりどうなの?!某航空会社に問い合わせたところ、『お答えできかねます』との返答!(真っ赤に燃えてるのに情熱はないのか?!)
ファウストさんもヴェレニスさんもER対応ができる医師で良かったですが、フランクさんのように慣れていない医師も多いですので、その際に地上の救急医と連携して対応したエピソードも聞いてみたいと思いました。同時に、自身(伊藤)が地上待機する医師として勤務するのもすごく勉強になりそうだな、と感じました。
フランクさんの話から、機内での医師の存在意義として、単に医学的に対応できることだけが重要なのではなく、患者さんに安心感を与えてあげることが極めて重要であると感じました。平素からの外来診療においても、医師が診ることや医師が大丈夫と声をかけることで非常に安心してくれる患者さんがたくさんいることを肌で感じています。機内においてはより一層なのだろうと思います。
海外事例を受けて国内システムへの期待
海外航空会社におけるシステムが抜群に良い!というわけではありませんが国内航空会社のシステムよりも良いと思った点は以下です。
①登録のハードルが低い
JALは日本医師会に登録しないといけないので論外。ANAはANAマイレージクラブに入会(無料)するだけなのでハードルはすごく低いです。英語が苦手な方にとってはANAの方が遥かにイージーですね。結局、JALをどうにかしてほしいという思いが前面に出てます、すいません!
②補償するための第三者機関(保険会社)と契約している
法的な細かいことは回答待ちなのでわかりかねますが、賠償してくれる保険会社の存在は医師らにとって極めて大きいと思います。結局、日本人医師の腰が重い理由のほとんどはそこですから。
③熟練された機内スタッフ
こちらについては今回まとめませんでしたが、ルフトハンザ航空機内での対処に従事した医師のコメントなどを読み漁っていると、機内スタッフwithメディカルキットの働きが想像以上に素晴らしいそうです。訓練の賜物なのでしょうか?
国内の航空会社においても4半期に1度程度のペースで訓練されているそうですが、実際の患者を想定して医師を招聘して訓練したことはないそうです。やはりなにごともリアリティ。私、どこまででも行きますので是非訓練に参加させてください!(もちろん無料で笑)
今後の予定
・機長、客室乗務員のリアルな声
・医師たちの思い
・看護師、救命士などはルール外なの?
・イベントのお知らせ(未定)
お願い?
国内のみならず、航空会社関連にお勤めの方や、もちろん医療関係者の方で、一緒にこの問題を解決したい!という方がいらっしゃいましたらコメントをお願いします!
航空会社の方は、機内訓練の際にぜひ呼んでください!一緒に訓練させていただきたいです!
「私、機内で助けられました!」という経験がある方もぜひお話をきかせてください!!!!
では皆さん、快適な空の旅を!
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