#4 復活の帰り道
20代半ばで横浜のイベントで知り合った
ANIMAL-Xは同い年で、事故を起こす前からもクラブで、プライベートで遊ぶ仲間で
外見よりもずっとロマンチックな奴だ。
山行を通じて精神的に回復してはいたが
いざ!音楽!となると躊躇する弱気な俺に
「何言ってんだよ!いいからスタジオ入ろ!大丈夫だから!戻るから!」
そんな風に、多少強引にスタジオへ連れて行ってくれた。
久しぶりのスピーカー
聞こえる音量、出音の位置関係に
最初は違和感しか感じなかったが
フリースタイルから始めたセッションは必ず
「架空ラッパー大会」や「新キャラお披露目会」へと発展していく。
彼もシーズン1#6で描いた我々と同様に"好きモン"だ。
爆笑と反省で幕を閉じた頃には、
気にしていた音の違和感を忘れていた。
アニマルXとも自然への安らぎ、価値観を共有できたから
一緒に何度か山登りもした。
群馬の山を攻めたときは
GO TOナントカの初回に乗っかり
安宿で睡眠をとって朝一出発のプランをたてた。
まだ暗い朝、
宿からギラギラした目玉で出てきた彼は
「楽しくて寝とらんよ!寝とらん!一睡も!」
と先行きを不安にさせた。
今振り返ると一番面白いタイプの笑いを提供してくれた。
が、行中の岩場でフラッとするのは俺のほうで
「りん!心配させんなて!!こっちは寝てないんやから!!!」
と大声を出したかと思うと、林道を走り始める。
彼も俺と同じように
山に放出するタイプであり
ANIMAL Xというアーティストネームがしっくりきた。
この活動期間に、レコーディングこそ達成できなかったが
なぜかパニックホラー映画の予告だけ完成した。
最大出力をそこに出しちゃうんだ!
といった具合になかなか浪漫を感じる。
人生、やってみないと、わからない。
大をしようとして、小が先に出てしまうこともある。
この経験がステージ復活に向けた起爆剤になったのは間違いない。
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復活していく過程は仕事環境もそうだった。
職場のレコ屋のボスであるDJ KIMさんからも
「何言ってんだよ!いいから一回職場にこいよ!大丈夫だから!さきっちょだけ!」
音楽が流れる空間での接客業にもかなり不安があったが、
俺が音楽に対してブランクを感じない為に
配慮してくれたおかげで、無駄に期間を空けることなく職場復帰もできた。
じゃあ、そろそろクラブにいくか。
と、俺はまず吉祥寺cheekyに遊びにいった。
めちゃくちゃ重い扉に肩を入れて中に入ると
目を丸くした沢山の人がハグで迎えてくれた。
スピーカーからの音を聞き
動物Xとのスタジオ練習を思い出た。
「…あっ、これチャレンジでやったやつだ!」
ばりに進研な感覚になった。
それに、cheekyの環境は
どこにいても低音がお腹に届くのに、会話がしやすい素敵な作りで
人との会話もしやすくて安心した。
すっかり上機嫌な俺は、皆んなにちょうどよくいじられながら
ベビーパウダーが撒かれたフロアでツイストしてやった。
しっかり車に注意を払いながら
光が伸びたような帰り道。
家に着いたら、久々にあのトラック聴いてみよう!
いつかと同じようにワクワクしていた。
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