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1476文字で「運動脳」

「スマホ脳」の著者であるアンデシュ・ハンセンが,著書「一流の頭脳」を加筆・再編集したものが「運動脳」であり,2022年8月に刊行された。

この本を一言でいうと「有酸素運動は脳にとって良いことだらけなので,皆さんとにかく運動しましょう」というものだ。

それだけといえばそれだけのことを,366ページに渡って膨大なエビデンスと共に説明した説得力の高いものになっている。

少しくどい内容でもあるので,運動が脳に与える影響について,ざっくりと要点だけまとめてみる。

ストレスに対して

ストレスを受けた時には,コルチゾールと呼ばれるストレスホルモンが分泌されることが知られている。

運動して身体に負荷がかかると一時的にコルチゾールの分泌量が増えるが,運動を習慣化すると耐性が付くため,運動以外の要因によるストレスに対してコルチゾールが分泌されにくくなるらしい。

また,前頭葉は理性的な思考を司るので,対ストレス性の向上に影響するが,前頭葉の働きも運動によって強化されることがわかっている。

さらに,運動をするとストレス反応を抑えるアミノ酸であるGABAも放出される。

これらコルチゾールの抑制・前頭葉の強化・GABAの放出の3つが運動(特に有酸素運動)によって得られ,ストレスの抑制に貢献するとされる。

集中力に対して

ドーパミンは神経伝達物質の一つで,人はドーパミンが出る行為に対して集中力が発揮される。

それは,原始時代には狩猟であり食事であり性行為であって,それゆえ報酬系とも呼ばれる。

言い換えれば,目の前のことに集中するにはドーパミンが必要であると言えるが,現代社会では報酬系に直結しないこと(やりたくない仕事)に取り組む必要があるので,そういったことに集中力が発揮されないのはある意味で当然だと言える。

ドーパミンを増やす薬はADHDの治療に使われているが,運動した直後にもドーパミンが増えることがわかっている。

身体に与える負荷が大きいほど,運動時間が長いほどその分泌量は増えるらしい。

運動後しばらくの間は効果が続くので,仕事時に集中力を発揮したければなるべく朝に運動する方が良い。

鬱に対して

鬱に対しても運動は有効らしい。

有酸素運動によって,BDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれるタンパク質が分泌される。

BDNFは脳内細胞を生成し,意欲の低下や鬱を防ぐと言われている。

また,有酸素運動はエンドルフィンと呼ばれる脳内物質を生成する。

エンドルフィンは体内性モルヒネの略称であり,モルヒネと同様に多幸感をもたらす効果がある。

マラソン中に多幸感が包むランナーズハイと呼ばれる現象は,このエンドルフィンの分泌の結果であると考えられている。

脳は現代社会に対応できていない

狩猟採集時代のことを考えると,身体を動かすことで獲物を仕留めるための集中力と記憶力が向上することは論理的だ。

言い換えると,脳は移動するための器官であるともいえる。

反対に,座ってばかりいることを脳は新しい経験だと捉えないため,記憶力は高まらない。

なので,スマホでの脳トレでは脳は鍛えられず,実際に脳トレには効果がないことは研究により明らかになっている。

人間の脳が狩猟採集時代のままであり,現代社会の発展のスピードに付いていけていないとはなかなか信じ難い。

しかし,人類の誕生から現在までを24時間に短縮すると,狩猟採集時代が終わりを迎えた1万2千年前が1日のほぼ終わりである23:40,工業化されたのは23:59:40,インターネットが整備されたのはなんと23:59:59である。

こう考えると,脳が現代社会に対してアップデートされきっていなくても何の不思議もない

どんな運動が良いか

本書では,ウォーキングよりもランニングを推奨している。

何より心拍数を上げることが重要で,ランニングを週に3回,45分以上を習慣にすることが望ましい。

脳の構造が再構築されるまで,半年間ほど習慣化することが大事らしい。

最後に,筋トレはやらないよりはマシだが,脳への影響という意味では有酸素運動に劣るらしい。

筋トレは初めて3年以上になるが,正直有酸素運動は好きではなく,走る習慣はない。

それでも,有酸素運動に取り組まざるを得ないと思わせてしまう説得力が本書にはある。


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