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1592文字でサピエンス全史(上巻)

サピエンス全史は,イスラエル出身の歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書で,ビジネス書大賞2017の大賞に輝いている。

自分は理系だが世界史に興味があり,特に,中世から近代にかけて宗教が科学の発展に与えた影響について関心がある。

サピエンス全史は人類の起源から現代までを描いた本で,上下巻合わせると全20章,658ページもある。

読み進めているうちは「なるほど」と思うことばかりなのだが,なにせ内容が盛りだくさんなので,読了後には忘れていることも多い。

そこで,改めて読み返してみて,重要な流れだけを要約してみた。

認知革命

我々,現生人類はホモ属の一種で,ホモ・サピエンスと呼ばれている。

約250万年前には,我々サピエンスの他にもネアンデルタール人など多くの人類(ホモ属)が存在したのだが,約7万年前にはサピエンスが他の人類種を絶滅に追い込んだと言われている。

なぜ,我々サピエンスだけが現代まで生き残ったのか。

著者はそれが「虚構(空想)を信じる力」にあると指摘していて,それが突如可能になったきっかけを「認知革命」と呼んでいる。

最初期の虚構とは噂話や神話であり,それが大規模になると社会的な知識のネットワークになった。

虚構を信じる力のおかげで以前よりもコミュニケーション能力が飛躍的に上がり,大量の情報を容易に伝えることができるようになったと考えられている。

サピエンスは空想のお陰でこれまでよりも密にコミュニケーションが取れるようになり,結果としてより集団で行動することによって他のホモ属を容易に出し抜くことができた。

農業革命

約7万年前の認知革命後,サピエンスがどのような生活スタイルを築いてきたかはあまりわかっていない。

数十から数百人の小さな集団で生活し,狩猟採集民族としてそれなりに豊かな生活を続けていたようだが,残された決定的な証拠が少ないため,想像の域を出ない。

その後,約1万2千年前に2つ目の革命である「農業革命」が起こった。

いくつかの扱いやすい動植物種をより多く安定的に手に入れることを目的として,農耕が生まれた。

農業革命は人類の進化としてポジティブに捉えられがちだが,著者の見方はやや異なる。

小麦の栽培は非常に労力を要するし,栽培のために小麦畑のそばに定住する必要があったため,図らずとも人類の生活スタイルを大きく変えてしまった。

著者はこの点について「私たちが小麦を栽培化したのではなく,小麦が私たちを家畜化した」とユニークに指摘している。

農業の重労働によって個人の生活レベルは狩猟採集時代よりもむしろ下がった可能性が高い。

農耕は個人レベルでは不利益でしかなかったが,農業革命は食糧の増産を促したため,結果的に人口の爆発的な増加(集団の利益)には寄与した

社会の拡大

人口の増加によって集団は大きくなり,集団が密集して都市が生まれ,やがて都市を支配する帝国が生まれた。

何百万人もの集団がまとまる術として,やはりサピエンス特有の虚構が役立った。

一例として,約4千年前には人々はハンムラビ法典により統治された。

ハンムラビ法典は,「神々によって定められた正義のヒエラルキーを基にした法」であるが,神も,正義も,ヒエラルキーも,法律も,言ってしまえばすべて空想である。

今や当たり前過ぎて意識していないが,数千年前から現代まで,我々が編み出した虚構に基づいて「想像上の秩序」が保たれているに過ぎない。

貨幣

我々の生活に欠かせない虚構の一つが貨幣だ。

狩猟採集民や農耕民時代は生活のコミュニティが狭く親密であったため,相互の恩恵といくつかの物々交換で生活は成り立っていた。

しかし,都市化が進み集団が大きくなり専門性が増していくと,物々交換で交換する組み合わせは膨大になり,それぞれの価値(レート)を把握するのは実質的に不可能になった。

そこで生まれたのが貨幣であり,貨幣によって簡単かつ安価に富を他のものに変えたり保存したりできるようになり,商業ネットワークの発達に大きく貢献した。

著者は,「これまで考案されてきたもののうちで,貨幣は最も普遍的で効率的な相互信頼の制度である」と強調している。

宗教的ないがみあいが絶えない現代においても,貨幣に対する信頼は揺るがない。

宗教は特定のものを信じることを求めるのに対し,貨幣は他の人々が特定のものを信じていることを信じるように求めている

「アメリカの文化や宗教や政治を憎んでいたウサマ・ビンラディンでさえ,アメリカのドルは大好きだった」という事実はとても説得力がある。


サピエンス全史(上巻)は,サピエンスの進化について帝国の成り立ちまでをまとめたもので,宗教や科学の発展をまとめた下巻に繋がっていく。

とにかく独特の視点で読み応えがあるので,是非読んで見て欲しい。


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