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デザインのディレクションをきちんと行うために! 『デザインディレクション・ブック』著者まえがきを特別公開

製品・商品のデザインの適切さは、その製品の成功に大きく関わります。製品のデザインをディレクションする立場になったビジネスパーソンが、デザインを発注、管理、評価するための、基本的な考え方とルール、方法論を実践的にまとめた橋本陽夫・著『デザインディレクション・ブック』(マイナビ出版)が2023年8月に発売になりました。
クリエイティブディレクターとしてデザインのディレクションに長く関わった来た著者による「まえがき」を特別公開します。


『デザインディレクション・ブック』橋本陽夫・著、マイナビ出版

本書の目的

みなさんはデザインを難しいと思っていませんか。
この本を手に取ってくれたビジネスパーソンのみなさんは、ビジネスにおいて自身の企画を製品化する過程でデザインについて意見を求められたり、さまざまな経緯でデザインを担当することになった際に、デザインのスキルを持っていないため困った経験をされた方も多いのではないかと思います。

製品がハードウエアの場合に必要となるデザインは、製品そのものであるプロダクトデザインを始め、操作系としてインターフェースデザインやパッケージのデザイン、さらに販促のためのグラフィクデザインやウェブデザインなど多岐に渡ります。

ビジネスにおける製品開発プロジェクトでは、ビジネスパーソンが責任のある立場として企画を取りまとめ、クリエイティブ関連も含めて社内を束ね推進することを求められることが多いと思います。そのため製品にまつわる様々なデザインに関しても責任のある意見を求められます。
ビジネスパーソンから見ると、デザインとは門外漢には扱えない専門職であるデザイナーだけのスキルであるため、デザインのことはデザイナーに頼るしか方法がないと感じている方も多いのではないでしょうか。
プロジェクトの成否を決めるデザインが、デザイナー次第になってしまうことに潜在的に不満は持っていても、デザインはデザイナーの選定により決まると考え、デザインそのものについて意見を差し挟むことは諦めているビジネスパーソンは少なくありません。

ビジネスパーソンがデザインをデザイナーに頼らざるを得ない理由は、三つあります。

 ・デザインの具体的なインプット方法がわからない
 ・出来上がってきたデザインの評価方法がわからない
 ・特別な感覚やデザインに対するセンスが自分にはない

デザインに普遍的な正解を求めることができないことはビジネスパーソンも理解していると思います。理由はビジネスと同じで、全く同じビジネス条件の元でデザインだけを変えた実験を行い検証するということが不可能なためです。
しかし企画者としてプロジェクトを束ねることが仕事である以上「デザインを上手く説明したい」「デザインを納得できる仕上がりに導きたい」さらに適用範囲を限って「プロジェクト限定という条件のもとであってもデザインにアカウンタビリティが欲しい」、もっといえば「自分に確固たる自信が持てるデザイン案が欲しい」と切望していると思います。

このように自身の企画案を具現化するデザインをデザイナー任せにするのではなく、主体性を持ってディレクションできるようになりたいビジネスパーソンは多いはずです。

この現状を打開すべくデザインを学ぶために本を探してみた方もいると思います。しかしデザインのノウハウに関してグラフィックデザインやウェブ関連は多数が刊行されているものの、プロダクトなど製品開発については著名デザイナーの発想術や、アイデアの強制発想術、デザインを知識として広く浅く紹介した教科書的な書しかなく、デザインディレクションを行う上で最も知りたい「デザインを表現する方法」や「デザイン依頼時のインプット方法」と「デザインの評価方法」というビジネスパーソンが知りたいポイントに言及した書は見つからないのではないでしょうか。

本書の概要

デザインディレクションを実行できるためには、デザインの条件についてデザイナーへ明確に指示を出し、様々な場面でデザイナーと対等にデザインの議論を行い、デザイナーを始めとするステークホルダーが納得のいく評価を行うことが必要です。そのために以下の三項を明確にすることが必要になります。

 ・手順の明確化|デザインプロセスをコントロールする
 ・依頼の明確化|デザイナーへ情報を整理して依頼する
 ・評価の明確化|提示した評価方法に基づいてデザインが変更・修正・決定される


本書はこのような要望に応えるために以下の内容を記しました。

本書の目標

アカウンタビリティのあるデザインディレクションが目標です。

デザインディレクターは個人の嗜好によりデザインを決定してはいけません。なぜそのデザインが適切なのかデザイナーが納得する評価方法を提示し、その方法に従って評価・決定する必要があります。

企画者であるビジネスパーソンは製品開発の起点を作るために、製品についてデザイナーや他のステークホルダーの誰よりも多くのことを考えてきた自負があるはずです。
この誰より広く深く考えた結果から生み出した「プロジェクトの存在理由」や「製品コンセプト」を製品開発におけるデザインディレクションを行う際の論拠として活用する方法を記しています。

さらにデザインについて一定のスキルを身につけなければなりません。スキルといっても写真と見間違えるような絵が描けることを求めているわけではありません。デザインディレクションを行うにはデザイナーやステークホルダーとデザインに対する認識を合わせるために、デザインを言葉で言い表し、議論できるスキルが求められるのです。
このため本書ではデザインの評価方法だけでなく、デザインの構造や表現方法についても、分かりやすく説明していきます。

本書の特長

ステークホルダーとの関係性を考慮

デザインを決める際のステークホルダーは、プロダクトの開発ステップ毎にビジネスパーソンが直接関わる経営・事業企画・商品企画・マーケティング関連の上司・同僚・部下がいます。また専門のデザイナー・エンジニアなどクリエイティブ関連スタッフ、営業先として販売・流通関連のスタッフなど多岐に渡ります。製品開発ではこれらの立場の違いによる意見の衝突がジレンマを生み、判断を難しくしています。この様々なステークホルダーと折り合いを付けるために考えておくべきポイントを、デザインディレクターの
立場から記しています。

さまざまな製品開発に対応

プロダクトデザインは業種により作り出す製品は多種多様です。プリミティブな道具から大規模システムといった機能の幅広さ、民生品からプロフェッショナルユースの産業機器というユーザーの違い、コモデティ品からプレミアム品という感性価値の違い。
このように製品カテゴリーやポジションによって製品に求められるミッションが大きく変わるため、開発時に大切にする優先順位も全く違ったものになります。こうしたあらゆる業種・製品に適合させられるようノウハウを概念化して記しています。

さまざまな製品開発の組織形態や規模に対応

製品開発のためデザインディレクションを必要とする組織は、デザイン部門を含むあらゆる製品開発機能を自社内に有する企業から、ファブレスではあるものの研究開発部門を持ち企画と販売を行う企業、また研究開発などは行わず企画と販売を行っている企業、デザインを請け負うデザインファ−ムなどその形態は多岐にわたります。
また製品開発の規模による開発リソースの差異はさまざまですから、全てのプロジェクトに適応した開発ステップを記すことはできないため、通底する考え方とノウハウを記しました。

これらを特長として、デザインディレクションをビジネスパーソンが自ら考え実践できる力がつくように記しました。

本書の時代性

現在は様々な価値が錯綜しています。従前の伝統的な価値や、経済合理性による価値判断の変化に加え、異常気象を引き起こす地球温暖化などによるサステナブルの重要性の高まり、またパンデミックや不安定な国際情勢などにより、将来はさらに不確実になっています。ビジネスパーソンは将来の打開に向け、新たな価値の創出に日々挑戦していると思いますが、これら価値の複雑化や社会の不安定化は製品の顔となるデザインの決定を更に難しくしています

このように価値が錯綜している現在こそ、製品の存在理由から製品コンセプトを考えた企画の発信源であるビジネスパーソンが、デザインを自主的かつ能動的にとらえ率先してデザインディレクションしていく事がビジネス成功の可能性を高める鍵として求められています。
デザインを先天的な才能を持つ者だけが占有出来るスキルと感じてひるむことなく、誰もがデザインの適切さを判断できることを理解し、デザインに積極的に関わっていくことは、ビジネスの成功だけでなく社会全体の文化・産業の発展にも必要不可欠です。
ビジネスの成否は企画とデザインで決まります。その両輪を自分でディレクションすることで、納得できるビジネスの実現を目指していきましょう。

●本書の概要
『デザインディレクション・ブック ~「的確なデザイン」のために、 ビジネスパーソンがディレクションをきちんと行えるようになるためのガイド』
著者:橋本陽夫
定価:2,490円+消費税10%
出版社:マイナビ出版
発売日: 2023年8月28日

●著者紹介
橋本 陽夫(はしもと はるお)
橋本陽夫デザイン事務所代表。
セイコーインスツルで時計設計を行った後、商品企画部としてブランド企画、事業企画を担当する。また新しい事業部を作りプロデューサー、クリエイティブディレクターとして新たなUX商品の開発に携わる。
その後、株式会社良品計画 企画デザイン室にてデザインディレクションを担当したのち、2011年から株式会社伊東屋にてクリエイティブディレクター。2014年から2022年10月まで、株式会社伊東屋研究所にて取締役、チーフクリエイティブオフィサー。千葉大学で非常勤講師を務める。
公益財団法人日本デザイン振興会リエゾンセンター研究員としてさまざまなプロジェクトに携わった。

●目次
第1章  デザインを決定できるビジネスパーソンになる重要性
第2章  デザインディレクションという仕事
第3章  デザインの構造
第4章  プロジェクトのプロセス
第5章  プロジェクト条件
第6章  デザインと製品コンセプト
第7章  デザイン条件
第8章  デザインの依頼
第9章  デザイン評価の手順
第10章  アイデア選別
第11章  デザイン評価
第12章  デザイン修正から決定
第13章  アイデンティティ評価
第14章  ユーザビリティ評価
第15章  デザインクオリティ評価
第16章  デザイン評価の実際