【要約】『恐れのない組織』と心理的安全性
こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!
マガジン『本を読んだら鳩も立つ』での本のご紹介です。
前回の記事はこちらです。↓↓↓
今回は、『恐れのない組織』を取り上げます。
近年話題となっている「心理的安全性」について、この概念の提唱者であるハーバード大学のエドモンソン教授自らが解説した一冊です。
1つの記事あたり、だいたい5分で読めますので、お気軽にスクロールしてみてください!
心理的安全性とは
さて、「心理的安全性」については同書でもたっぷり解説されているほか、
この手のご多分に漏れず、TEDでも取り上げられています。
ではさっそく、『恐れのない組織』の中で「心理的安全性」がどのように紹介されているかを見てみましょう。
・みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化
・対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境
=意義ある考えや疑問や懸念に関して率直に話しても大丈夫
・失敗しても支援を求めても、他の人たちが冷たい反応を示すことは無く、むしろ率直であることが推奨されている
極端な話、経営会議で社長がとんちんかんなことを言っていると思ったときに、平社員の鳩だろうと「ちょっと何言ってるかわからない」といった発言を許してもらえる……。
そんな文化を指しているのだろうと理解しています。
「優秀なチームには、率直に話す風土が根付いている」と同書は指摘しています。
優秀なチームは、ミスの数が多いのではなく、報告する数が多い。
こうして失敗を多く認識することで、そこから多くの学びを得て、成功につなげている、というわけですね。
「失敗できないことが本当の失敗」とあなたは言えますか?
『恐れのない組織』ではたびたび、
「職場の心理的安全性の実現はリーダーにかかっている」
と強調されています。
心理的安全性は、リーダーが生み出せるし、生み出さないといけない
心理的安全性を作り出せるリーダーとそうでないリーダーがいるが、これは職種の差異ではない
というのが、同書の主張です。
さて、リーダーが「良い知らせしか歓迎しない」タイプだと、リーダーは段々、裸の王様と化していきます。
設定したストレッチ目標をチームが達成したことを喜んでいたつもりが、実は、部下が不正を重ねて用意した数字かもしれない。
しかし、心理的安全性が欠けていると部下は正直に「できません」と報告できないため、リーダーは「うまくいっている」と錯覚してしまう、というわけですね。
沈黙の文化は、すなわち危険な文化である。
と同書でも指摘されています。
不安によるモチベーションアップは、長い目で見ればその不安がチームの学習を妨げるとともに、メンバーを不正に走らせるため、チームにとって逆効果です。
仮説検証による失敗を重ねながら新たなイノベーションを起こしていこうというときには特に、「失敗できないことが本当の失敗である」というわけです。
リーダーが知っておきたいワード ①状況的謙虚さ
ここからは、心理的安全性が保たれた職場づくりを担うリーダーのために、知っておきたいワードを紹介してきます。
1つ目は、『恐れのない組織』でも紹介されていた「状況的謙虚さ」です。
単に「謙虚である」ということに加えて、状況的謙虚さには「好奇心」、すなわち学ぼうとする姿勢が合わさっています。
また、変に取り繕って、
「みなさんはすごいですから。私なんかはまだまだで……」だとか、
「私は何も知りませんから……」と、
控えめに振る舞ったり嘘をついたりする必要はありません。
自信と謙虚さは対義語ではない
というのが同書の指摘です。
「私はリーダーとして自信を持ち、責任ある振舞いをしたいと思っている」
「しかし、全知全能ではないので、積極的に学んでいきたい」
というリーダーの姿勢こそが「状況的謙虚さ」というわけですね。
「私は全知全能ではないので、いろいろ教えてほしい」
という姿勢をリーダーが持っていると、部下としても報告がしやすくなり、結果、チーム全体として学習していけるようになる、というわけですね。
『恐れのない組織』では、好奇心という積極さのほかにも、
自分の過ちや欠点を認めることで、信用を失うどころか、逆に信頼を得ることになる。
というポイントが強調されています。
リーダーが知っておきたいワード ②ナイーブリアリズム
「状況的謙虚さ」の対極にあるのが「ナイーブリアリズム」です。
なんだか、声に出して読んでみたい響きがありますが、これは、
「向上心が高ければ高いほど、自分は世界を正しく客観的に理解できていると考えてしまう傾向」
という、悲しい認知バイアスです。
ここには、状況的謙虚さのような学ぼうと姿勢はどこにもありません。
いま起きていることを自分は「わかっている」と思ってしまう
主観に基づく現実ではなく、現実そのものを見ていると思い込み、他の人にはどう見えているのかという思いを巡らすことができなくなってしまう
自分が無知・無能になるのを恐れて、「わからない」と表明できなくなってしまう
という、残念な特徴を備えています。
「部長、またいつもの、”ナイーブリアリズム”が始まってませんか?」
といった発言が許される職場であれば心理的安全性は抜群ともいえるでしょう。
もっとも、そんな発言を許してくれる職場の上司は"ナイーブリアリズム"を備えているとも思えないので、この発言は二重の意味でありえないのでしょうが……。
せめて、自分自身に日々、
(あれ、自分いま、”ナイーブリアリズム”入ってないか……?)
と問いかけられる人間でありたいと思う鳩です。
リーダーが知っておきたいワード ③話す文化、問う文化
ここまでを見ると、リーダーは、
「全知全能の自分が導き出した答えを教えてやる!」ではなく、
「知らないことは謙虚に学んでいこう」という姿勢が重要だ、ということでした。
前者は「話す文化」、後者は「問う文化」だと言えるでしょう。
そして、他人の発言に心から関心を寄せて「探究的な問い」を発せられるリーダーのいる職場こそ、職場の心理的安全性が保たれていくのだと『恐れのない組織』は説いています。
話す文化は問う文化とは異なる
自分が話す文化に力を入れると、相手に問うことが難しくなってしまう
自分が話す文化では、尋ねることが軽視される
というのが、同書の指摘です。
自分が話している間は、決して相手に問うことができない、というわけですね。
リーダーが知っておきたいワード ④リーダーのパラドックス
さて、どんなに自分が優れていると思っているリーダーでも、悲しいかな、「裸の王様」「お山の対象」となってしまいがちです。
この理由を『恐れのない組織』は、次のように説いています。
リーダーは周りの要求に応えずとも自分の考えを実現しやすいため周りの反応に疎く、集団圧力にも抵抗しやすいので全体から逸脱した行動が可能
社会的地位が低いメンバーは、空気を読み周りと歩調を合わせるため、自然と周囲の言動や職場の動向に目を向けて観察し、正確に職場の雰囲気を察知できる
リーダーとメンバーとの間には、この認識のずれが生じるため、メンバーたちが心理的に安全でないと感じても、リーダーは共通の感覚を持てないという構造的な傾向がある
「なぜ、私の会社のことを言っているのだろうか」
と鳩は恐れおののいたのですが、いかにも日本の伝統的な組織の抱える病のようにも見えるこの特徴は、世界共通で見られるものなのですね。
さて、組織に心理的安全性を植えつけようとリーダーが考えても、そこにはチームのメンバーのサポートが不可欠です。
しかし、組織とは構造的に、リーダーとメンバーの間に認識のずれが生まれるようになっています。
この構造的な問題を「リーダーのパラドックス」と同書は読んでいるわけですね。
「恐れのない組織」を作る
さて、ここからは、実際に心理的安全性を醸成するためのポイントを見ていきましょう。
『恐れのない組織』では、次の3つのポイントが指摘されています。
①土台をつくる
●仕事をフレーミングする
②参加を求める
●状況的謙虚さ
●発言を引き出す問い
③生産的に対応する
●感謝を表す
●失敗を恥ずかしいものではないとする
●明確な違反について処罰する
まず、「①土台をつくる」について。
ここでは、既存の価値観をリフレーミングしていく重要性が説かれています。
リフレーミングとは、「用語をつけ足したり変更したりすることで、仕事の意味付けを変える」ということです。
同書では、「失敗を恥ずかしいものではない」とするためのリフレーミングが、次のような表でまとめられています。
これは、単なる言葉遊びでしょうか?
それとも、考え方を変えるための、言語面からのアプローチでしょうか?
リーダーの捉え方一つで、リフレーミングへの道が開かれます。
次の「②参加を求める」については、これまで説明してきたとおりです。
「状況的謙虚さ」をリーダーは常に持ち続けること。
そして、「話す文化と問う文化」の違いをわきまえて、メンバーに探究的な問いを投げかけること。
こうすることで、メンバーも積極的にチームへ参加しやすくなっていくはずです。
最後は、「③生産的に対応する」です。
●感謝を表す
●失敗を恥ずかしいものではないとする
●明確な違反について処罰する
報告型の文化を醸成していくには、報告をしてくれたメンバーに対し、まずはとにかく、
「声をあげてくれてありがとう!」
と伝えるところから始まります。
また、普段からチームに対して、
「人はミスを犯す生きもの」
「ヒューマンエラーは結果であって原因ではない」
「個人の責任ではなく、原因を追究していく姿勢を大切にしよう」
といったアプローチを投げかけることで、「失敗は恥ずかしくない」と強調していく試みが必要です。
とはいえ、あらゆる失敗がOKとされるわけではありません。
ルール違反は「過失」と「故意」に分かれます。
このうち、「故意」のルール違反に対しては明確にNOを突き付けることもまた、リーダーの仕事だと言えるでしょう。
以上、心理的安全性の保たれた「恐れのない組織」について見てきました。
「失敗できないことが本当の失敗」であり、失敗を報告してもらえる「畏れのない組織」こそ、学習し、イノベーションを起こせます。
そのためにリーダーは、
「状況的謙虚さ」
「ナイーブリアリズム」
「話す文化、問う文化」
「リーダーのパラドックス」
といった概念を知っておく。
そして、「①土台をつくる」「②参加を求める」「③生産的に対応する」といったリーダーの姿勢が、心理的安全性を醸成し、恐れのない組織を作り上げていく、というわけですね。
さて、次回は『西欧近代を問い直す』を通して、
現代社会の市民の精神を西欧近代から見ていくとともに、
「価値観のアップデート」という言葉に潜む不寛容さについて考えていきます。
お楽しみに。
to be continued......
参考記事
組織における失敗や組織事故に関する記事をまとめています。
「心理的安全性」を理解するための補助線として、ぜひご覧ください!
参考資料
エイミー・C・エドモンドソン、野津智子訳(2021)『 恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(英治出版)
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