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6冊目 氷の木の森 

挨拶

 どうも、12日後までに10万字を書かなければならないmaziceroです。
 私事ですが、小説大賞に応募したいなと思い、書こう書こうと日々思っています。先週はいろいろ忙しかったという言い訳をここに残して、さっそく本の紹介に行きたいと思います。

題名など

 ということで、いつも通り、題名などの作品情報から話していきたいと思います。今回紹介するのはハーパーコリンズ・ジャパンから出版された、ハ・ジウンさん作の「氷の木の森」です。ジャンルとしては、ファンタジー主体のミステリー小説です。

 作者名から分かる通り、翻訳されたものなので、訳者の人によっても変わってくると思います。主に文体というか、言葉選びですね。なので、今回のレビューでは、言葉選びという点については無視します。あくまで、作品全体の雰囲気や流れ、出てくる情報についてお話ししたいと思います。
 
 とはいえ、出版権を勝ち取っただけあって、かなりいい訳をあてがっていると思います。少なくとも、話全体の雰囲気を壊すようなものではないと思います。

 それではさっそく行ってみましょう!

あらすじ(ネタバレしない程度に)

 音楽の都エダン。そこに住むある貴族の三男に生まれたゴヨ・ド・モルフェは音楽院に入学し、そこで天才バイオリニストのアナトーゼ・バイエルと、その友達のトリスタンに出会う。彼らは三人でつるむようになった。だが、ゴヨはバイエルと、彼とトリスタンのような関係になれていない自分に疎外感のようなものを覚えていた。そんなゴヨに、バイエルは彼の演奏を聴いてくれる「唯一の人」に出会いたいという心の内を漏らす。

 時が経ち、バイエルが天才バイオリニストとして名を馳せ、演奏旅行に出ていってから三年。バイエルとは音信不通でありながらも、彼が戻ってくるのをゴヨはまっていた。そんな折、伝説的な楽器製作者のJ・カノンが作ったバイオリン〈黎明〉がオークションに出される。それを高値で買い取ったのは、バイエルだった。だが、そのバイオリンには「弾いたものを数日のうちに腐ったように死なせてしまう」という噂があった。

 ゴヨは彼の求める「唯一の人」になりたいという欲望を抱き続けてきた。それとは別に、ゴヨはバイエルにお世話になっている夫人の夫の最後に、一曲聞かせてあげられないかという提案をする。だが、バイエルは「唯一の人」のために、その人を探すために弾いているのであって、そうではない人のために弾くことはできないという。そうして、ゴヨとバイエルは一度友人をやめた。しかし、ある時からよりを戻した。その後、バイエルに連れられてエダンのはずれの森に来る。そして、彼が〈黎明〉を取り出して弾き始めた。あまりにも美しい音色に何もできずにいたゴヨ。彼らはエダンを作った演奏家のイクサ・デュドロが愛したとする木、それが森となった「氷の木の森」を目の当たりにする。
 
 バイエルが演奏旅行に行くきっかけとなったコンクールは三年に一回行われる。バイエルは既に二回連続で優勝していた。そして、バイエルが戻ってきたのは、そのコンクールが行われるためだった。
 そのコンクールまでの日々で、殺人事件が起こる。それは少なくともその日の朝までは元気にしていた少女のもので、遺体の肉は腐っていた。
 真っ先に疑われたのバイエルだった。なぜならば、彼の持つバイオリンによって死んでいった音楽家と同じような死に方をしていたからだ。
 しかし、その後も殺人事件が行われていく。殺される人は、徐々にバイエルに近づいていく。……

おすすめポイント① 圧倒的なファンタジー

 さて、あらすじを読んだ人も読んでいない人も、とりあえずここからの文章は必ずお付き合いください。
 まず、この物語が圧倒的なまでのファンタジー世界で構築されているということです。訳も相当慎重に言葉を選んでいるように思いましたが、物語自体も相当気を遣っています。それでいて、変に浮いた物語ではない。現実的な部分をちゃんと持ち合わせていながら、まるで、歴史家の紡ぐ伝記のように、ひと昔戻れば実在したかのような世界が広がっています。その点が一つ目のおすすめポイントです。

 どういうことか。

 ファンタジー世界でありながら、今自分のいる世界と地続きの世界のように感じる。だからこそ、物語に没頭できます。ですが、現実的であることは評価される作品としては必須の条件だといえます。
 評価される作品というのは、その現実の上に、現実をも凌駕する独自の世界観がなければ成り立ちません。少なくとも、僕はそう思います。
 
 そのような見事な世界があるからこそ、そこで行われている何もかもが自然に行われます。ほころびのある世界では、何かしらが不自然になるのは自明でしょう。

 ファンタジー作品を読みたい人に迷いなく薦めることができます。

おすすめポイント② 話の流れ、そして、情報の巧みさ

 あらゆる場面で、度の順番で情報を出すかという問題が付きまといます。例えば、ミステリーなのに、犯人が誰か分かっているのは面白くありません。何かの発表で結論から話し始めるのであれば、聴衆はその後の時間を寝て過ごします。
 この物語はファンタジー主体です。ですが、それにミステリーが絡んでくる。ということは、出される情報の順番が大事だということです。
 
 ネタバレを避けるために紹介できませんが、犯人となる人物は意外な人です。しかし、ゴヨという観察者の目を通してみると、それはいたって当然のことのように映ります。
 
 そして、あの人の死は確かに必要だと感じさせます。

おすすめポイント③ ゴヨから見たバイエルという存在

 このような書かれ方は20世紀最高のアメリカ文学と名高い「グレート・ギャツビー」でも用いられています。かの作品ではニック・キャラウェイという人物を通して、ギャツビーという存在が描かれていきます。

 今回でいえば、ゴヨを通してバイエルが描かれていることになります。ちなみに、外伝の物語はバイエルの視点で描かれます。
 
 さて、文学的にどのような効果があるのでしょうか。

 一つは目線を合わせるという効果です。
 ゴヨはバイエルを見上げています。後から追っています。ということは、物語において読者と一番近い視点になるということです。

 ここで、中には「第三者的視点の方がはるかに近いだろう」と思うかもしれません。ですが、作者の描きたい物語を正しくとらえられる人物という意味では、今回の物語ではゴヨとバイエルしかいません。読者が目線を合わせられるのは、間違いなくゴヨです。だから、ゴヨという視点を通して、バイエルを描きます。
 言うなれば、バイエルは案内人です。

 二つ目は、バイエルという人物に奥行きを持たせることができます。
 人は他人から完全に理解されることはありません。だからこそ、他人から見た時、人には奥行きがあります。完全に分からないからこそ、その人の行動に「なぜ?」という疑問が付きまといます。
 そのような仕組みは、バイエルのことを理解しようと努めた、あるいは、特別な思いを抱いていたからこそ生じます。その意味でも、ゴヨはバイエルを見る視点としてうってつけでした。

まとめ

 ということで、今回は三つのポイントからこの作品を紹介してみました。ハ・ジウンさんのほかの作品もぜひ読んでみたいです。
 さて、おすすめポイントではないので触れませんでしたが、本編を読んでいると、唐突に出てくる設定に戸惑うかもしれません。安心してください。大体外伝に書いてあります。
 だからと言って、外伝から読まないでください。あくまで外伝は説明を補うための物であり、それが物語の本質ではありません。だからこそ、本編から読んでください。
 
 そして、もう一つ、謝らないといけないことがあります。それは、あらすじでいくつかの重要な場面を飛ばしているということです。僕自身、飛ばして紹介するのはもったいないと思います。ですが、飛ばさないと読んだ時の楽しみを奪いかねないので、あえて飛ばしました。ほかの方はどうか分かりませんが、このあらすじで抜けている部分を確認して、そして、最後まで読んだときに、なんで飛ばしたか、その部分がどのような深みを与えてくれるのかが変わると思います。ですので、この点についてはご了承ください。

 長い謝罪は終わりとして、今回はこのあたりで終わりたいと思います。ある程度硬い文体でも読める方には本当にお薦めの作品です。ぜひ、ご一読ください。

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