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猫と引越しと距離感

猫は引越しに向かない動物らしい。本来野生の猫は自分のテリトリーを決めたらそこで一生を過ごす習性があるのだそうだ。だから家猫にとって住む家(=テリトリー)が変わるというのはけっこうなストレスになってしまう。

今回わが家は3ヶ月ほど住んだ仮住まいから離れ、7月初旬に新居に引越した。あんず、モス(うちで飼ってる猫)すまん。これは私の夢のマイホーム購入のためなんだ。もうこれ以上君たちが引越すことはないからどうか許してほしい。もしも次にここから動く必要がある時は私は1人で出て行かなければならないらしいし(妻に宣告された)。

引越しの日、猫たちを1匹ずつキャリーケースに入れて新居に移動させる。引越し当日はいろんな人がドタバタと家を出入りしてるので、一番出入りの少ない2階の寝室にキャリーケースを閉めたまま置いておくことにした。猫たちはしばらくあおーん、あおーん、と怖がる鳴き方をしていたけど、やがて景色に見慣れてきたのか静かにしていた。

大きな荷解きが落ち着いてきた夕方、キャリーケースを開けてみると、猫たちはそのまま寝室のベッドの下にささっと隠れてしまった。「おーい。念願のマイホームだよー」と声をかけてみたが当然無視である。無理もない。初めての環境が怖いのだろう。猫にとってはそこが35年ローンで買ったマイホームだろうが関係ないようだ。

しばらくはベッド下を生活拠点としていた猫たちだったが、夜な夜な家を探検し1週間もすれば自分のお気に入りの場所を見つけていた。あんずはいつものキャットタワーの上。そしてモスは玄関に落ち着いた。タイルがひんやりとして気持ちいいらしい。とりあえずは新居に慣れてくれたようで一安心である。

しかしなぜだろう。引越してからというもの、猫との距離が開いてしまったような気がしている。あんずは今までのように撫でさせてくれるし、モスもフゴゴゴゴ(猫のお腹に自分の顔をうずめ猫を味わう技、非合法ドラッグ)をさせてくれる。そこは今までと変わらないのだけど、でもなんとなくそばに来てくれる回数が減ったように思うのだ。やはり今年に入って2回も引越しをしたから家主である私に腹を立てているのか?

対して、猫たちは妻には相変わらずべったりなんである。妻が座るとモスがすかさず膝に乗るし(私にはたまにしか乗らない)、編み物をしてるとあんずがにゃーん(撫でて、の意)と近寄っていく。なんでだ。この違いはなんなんだろう……と思って、ハッと気がついた。

わかった。猫たちが私を嫌いになったのではない。元々猫たちは妻が好きで、「妻の近く・・・・」にいたんだ……!今までは家が狭かったから私と妻が同じ部屋にいることが普通で、だから私も猫が近くにいるように感じていたのか。新居に編み物部屋ができたことで妻がそこにこもる→猫が後追いをして編み物部屋についていく→結果としてリビングの私は猫がいないと感じるというトリックだったんだ。

家が以前より広くなったことで、なんとも切ない真実に気がついてしまった。そうだったのか。私はこんなにも猫が好きだというのに一方通行の愛だったとは。そしてもう一つ、それはつまり私と妻の距離が開いたということにも他ならない。そもそも妻は家にいる間ずっと編み物をしているので、編み物部屋なんか作ってしまったらそこにこもるに決まっているじゃないか。

ということで、読みかけの本を持って妻のいる編み物部屋に行ってみた。妻は私が部屋に来たことでまんざらでもなさそうである。やがて、リビングにいたこどもたちが親がいないことに気づいて「消えたかと思ったー」と言いながら部屋に入ってきた。妻の後追いをする猫と夫とこどもたち。5.5畳の部屋に4人と2匹。せまくてしょうがない。

階段からリビングを眺めるあんず。視線の先は妻。なでなでチャンスを狙っている。
近くを通りかかると必ず足をかけてくるモス。爪が伸びていると痛い。
あんずを探すモス

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