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"growing a garden" 父からの2022年のメッセージ

こんにちは。中田真弓です。
新年いかがお過ごしでしょうか。
久しぶりに帰省し、家族や親戚との時間を過ごされた方も多いのではないでしょうか。

以前の記事でも触れましたが、うちは少し風変わりな一家です。

今年も帰省叶わず

両親が70代で田舎暮らしのため、都会に住む私はすでに病原菌扱い。ここ数年はそんな時世もあって、帰省を控えていました。
今年こそは年末年始に帰省しようと、年の瀬に両親に電話したところ、

「もうお互いにやり残したこと、言い残したことはないと常々思っている。お前は健康かもしれないが、無症状でもウイルスを保有していることもある。もしうちにウイルスを運んできたら、父さんと母さんは歳だから、万一のことがあるかもしれない。そしたら、お互い思い残すことになるだろう。だから、帰って来んでいい。」

そう言われ、
「たしかになぁ。自分の身は自分で守るしかないもんね。お互い健康でいることが一番の親孝行、娘孝行だよね。私は元気にやってるから、お父さんとお母さんも体に気をつけて、ぼちぼちやってね。何かあれば、すぐ連絡してよ。」
と返すしかありませんでした。

そう言えば、淡泊な家庭だった

小学生の頃ぐらいから、薄々気づいてはいたけれど、とても冷静沈着で淡泊な一家なのだ。
夕食の団欒の席では、もし今お父さんが死んだら、もし今お母さんが死んだら、もし今真弓(私)が死んだら、というのを常々話し合っていた。

都会で生まれ育った母はいつも、
「もし今お父さんが死んだら、こんな田舎の薄ら寒い一軒家はさっさと売って、デパートも大きな病院も歩いて行けるぐらいの都会の暖かいマンションに引っ越すわよ。」
と言って、やっとのことで念願のマイホームを建てた父の気持ちなんか、一切お構いなしの様子だった。
父も悲しそうな顔一つせず、母の発言を完全に無視していた。

父は父で、母に浪費癖を指摘されると、
「俺は家族と世界に平等にお金を使っている。日本経済、いや、世界経済を回しているんだ。ところで、お前はパレスチナ問題についてどう思う?」
と、家庭と世界の問題を同列に並べ、語っていた。

人の生死や世界情勢について話すのが食卓の会話の日常風景。
正直に言って、会話についていくのに必死で、今日学校であった出来事などを報告している場合ではなかった。

英語教師だった父の早すぎた英才教育

だいぶ話が逸れてしまったが、そんな父は英語と芸術をこよなく愛し、本当は芸術家か革命家にでもなりたかっただろうに、家族を養うために、英語の教員(公務員)という苦渋の選択を受け入れていた。

父の早すぎる英才教育のお陰で、私は英語を聴くだけで吐き気がするようになり、それなのに学校で英語の教科書を読み上げると、発音が良すぎてクラスメイトからいじられるほどだった。(発音良く読めるだけで、意味はまったくわからない。聴き慣れるとは恐ろしいことだ。)

大人になってから海外に一人旅に行ったり、洋楽を聴くようになって、ようやく吐き気はしなくなったものの、申し訳ないが英語嫌いは未だつきまとっている。

父との会話を大切にしたくて引いた英文みくじ

そんな父も今年の1月に喜寿を迎える。
家族の会話の中で毎日殺されていたのに、反骨精神からかまだ健在だ。

たしかに、今の私があるのは両親のお陰だし、私の生き方を見てもらえれば、両親への尊敬は十分伝わっていると思う。
そして、両親も私のことを娘というより、一人の人間として尊敬していることも十分に伝わってくる。
今死んでもお互いに後悔はないし(できればもうちょっといい暮らしをしているところを見せて安心させたかったが)、言い残したこともなく、おそらくとても清々しい気持ちで送り出せることだろう。

とは言え、離れて暮らすようになって15年以上経ち、あと何回電話をしたり、LINEのメッセージをやりとりするんだろうと思うことが増えてきた。

それで、私は毎年近所の氏神様へ初詣に行ったときに、外国人向けの英文みくじを引いて、写メを父に送っている。
おみくじの内容たるや、日本語でも意味がわからないことがあるのに、英文となると、私にはさっぱりわからないこともしばしば。
父が和訳を返信してくれる。

ただ、今年の英文みくじには、
Work hard, or you will fail.
と書かれてあった。さすがにこれぐらいは何とか理解できた。

「一所懸命働いているから、そろそろうまくいくってことですかね?」
という一文を添えて、写メを送ったところ、父からこんな返信があった。

父からの表現力が豊かすぎるメッセージ

Work hard, but relax yourself once in a while.
これは父なりの気遣いの言葉だ。
簡単すぎるからか、照れ臭さからか、和訳はついていない。

そして、続けて、
You will keep growing a garden of beautiful ideas this year.
(今年もあなたの豊かな発想が周囲に波及し続けるよ。)

これには参った。
"growing a garden of beatiful ideas" という表現と、それを「あなたの豊かな発想が周囲に波及する」と訳せるのが、父の英語力と翻訳力の真髄だ。

英語にはこんな美しい表現と、それを日本語に翻訳するときの言葉選びのセンスという奥深さがある。
私自身、一人のライターとして仕事をする中で、言葉選びのセンスというのは、その人が過去に使ってきた言葉や経験がにじみ出るものだと、つくづく思う。

父がまだまだ生涯現役でいることを知り、もう少し父からちゃんと英語を学べばよかったかな、と初めて後悔を感じた2022年のスタート。
時間には限りがあり、人には寿命があり、あと何度、父と英語の文通ができるだろう。
ライターになった今だからこそ感じられる父の偉大さを前に、もっと修行を積もうと心に決めたのだった。

最後に

皆さんは、どんな家庭で育ち、普段どんな会話をしているでしょうか。
人それぞれに生まれ育った背景があり、だからこそ自分にしかできない表現というものがあります。
表現者の端くれとして、これからも背景を個性として表現できるよう、そして、それが誰かの心に届き勇気づけとなれるよう、これからも言葉を紡いでいきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今後も私の大好きなもの、暮らしへのこだわりについて発信していきます。
今日もあなたにとって素敵な一日になりますように。

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