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国際社会は、日本の創作児童ポルノをどのように見ている? ~AI時代に子どもをどう守るか⑤

創作児童ポルノ(漫画やアニメ、ゲーム等)をめぐる日本の政策は、国際社会から、どのように評価されてきたのか。子どもの性的搾取について、世界各国の政府や国連機関、NGOが対策を議論する場が、「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」である。ここで国際社会は日本を、創作児童ポルノを製作する主要な国として名指し、それらの違法化に踏み切っていないことを批判した。その批判は生成AI時代を迎え、さらに高まっている。(解説: 渡辺真由子/シンクタンク『メディアと人権研究所MAYUMEDIA』代表)


日本の児童ポルノ禁止法制定のきっかけに

「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」の第1回は、1996年にスウェーデンのストックホルムで開催された。同会議では、日本人男性によって東南アジア諸国での買春ツアーが横行し、日本が児童ポルノの国際的な発信源と化している実態が指摘され、それらを規制する法律がないことに批判が集中した。これを受け、日本は1999年に児童ポルノ禁止法を制定した経緯がある[i]。

過去最高規模のリオ会議

第2回は2001年に、日本政府と国連機関等との共催により横浜で開催された。さらに第3回は2008年、「子どもと若者の性的搾取に反対する世界会議」との名称でブラジルのリオデジャネイロで開催された(以下、「リオ会議」)。世界約140ヵ国からの各国政府代表を始め3000人以上が参加し、過去最高の規模となった。日本からも、外務省、警察庁、法務省からなる代表団が参加した[ii]。

日本製の創作児童ポルノが、海外の性犯罪で使われる

リオ会議で設定されたテーマの1つが、「子どもの性的搾取の形態と新たなシナリオ」である。討議では、スコットランドの心理学者であるエセル・クエール教授(エディンバラ大学)らが、「子どもポルノとオンラインでの子どもの性的搾取」について報告した。

報告ではまず、欧州評議会が2007年に採択した「性的搾取・性的虐待子ども保護条約」[iii]が、実在しない子どもを描写したポルノの犯罪化に一部留保事項を設けたことにつき、
「バーチャルな児童ポルノの問題に対しては、国際的な枠組みにおける取り組みが著しく不十分で、それらを犯罪化する必要性についてほとんど理解されていない」
との懸念が示された。

その上で、マンガやアニメ、CGなどの形態により、実在しない子どもの性搾取的な表現物を創作している主要な国として、日本が名指しされた。以下のように批判がなされている:

「日本の国会議員は、これらを違法とすることが表現の自由を侵害したり、より深刻な性犯罪を引き起こしたりする可能性を懸念し、違法化に踏み切っていない」

報告は、日本の子どもポルノ政策が停滞している結果、日本製のバーチャルな子どもポルノは世界中に出回っているとし、一例としてオーストラリア連邦警察による調査結果(2008年)を紹介した。それによれば、同国における子どもへの性犯罪50件の内10件で、加害者が子どもの性搾取的な素材を所有していたことが明らかになり、その大半は日本製のマンガだったという。

「そうしたマンガには、子どもが大人や他の子どもと性行為をしている様子が非常に生々しく描かれていた。奴隷のように拘束されている子どもや、そのような状況で苦痛に悶える子どもを描く、暴力的な内容のものもあった。一部の漫画は、子どもと母親や父親間の近親姦を表現していた」

そのように調査担当者は述べている。

「実在しない子どもが登場する描写物に対しては、その有害性をわれわれはなかなか理解できない。だが、子どもを性的に虐待するようなバーチャルなポルノの流通が増え続けることは、実在する子どもも虐待可能な対象とみなされる見込みを高めかねないのだ」
と、報告では結論付けられた[iv]。

日本製の「ロリコン」や「ショタコン」についても……

このほか、同会議では「ネット上における子どもの性的虐待に対する法執行対応」について、子どもの性虐待を専門にした英国の警察組織Child Exploitation and Online Protection(CEOP)のビクトリア・ベインズ主任分析官より報告が行われた。

報告では、実在する子どもの画像をコンピューター上で性的に加工したり、実在しない子どもをコンピューター上で写実的に創作したりする行為は、英国とカナダで違法化されていることが紹介された。一方、性犯罪をめぐる法執行分野で新たに浮上している問題として、デジタル画像以外の、実在しない子どもの描写物に関するものが挙げられた。

例として、日本製の「ロリコン」や「ショタコン」(少女少年に対する性的な虐待を描く内容)の漫画やアニメが、性犯罪に使用されている点が言及された。近年のCG技術の発達などによって、バーチャルな子どもの性虐待描写物の創作や頒布がなされるようになり、そうした描写物をめぐる需要と供給を満たしている可能性も指摘された[v]。

「どのように規制するか」と日本政府

創作児童ポルノをめぐり、リオ会議で国際的な批判にさらされた日本政府は、どう対応したか。

政府側は同会議において、子どもの性的搾取問題に対する日本の取り組みを紹介したものの、「課題もある」として次のように述べた:

漫画、アニメ、ゲーム等ではしばしば児童を対象とした性描写が見られます。これは現実には存在しない、コンピューター等で作られた児童が対象ではありますが、児童を性の対象とする風潮を助長するという深刻な問題を生じさせるものであります。このような描写をどの様に規制するかが法規制上の論点となっています。

CSEC IIIハイレベル政府間対話・我が国政府首席代表ステートメント
テーマ1.「児童の商業的性的搾取の形態と新たなシナリオ」(外務省、2008)

日本政府は、創作児童ポルノが「児童を性の対象とする風潮を助長する」と認めた。その上で、それらをどのように規制するかが課題であると明言したのである。

近年は生成AIを使って、児童の性的虐待画像を創作・売買する動きが日本のソーシャルメディアなどで広がっていると、海外メディアに報じられた。「日本では、性的な漫画や子どもの絵の共有は違法ではない。」と、改めて批判されている。

新たな技術の悪用が先行するなかで、日本政府は、子どもを性被害から守る取り組みを前に進めることが出来るのか。児童ポルノ禁止法の第2次改正から10年が経ついま、国際社会が注視している。

渡辺 真由子 (X)
(出典:『メディアと人権ジャーナル』2023 Vol.1 No.1、pp.11-12 /一部加筆修正)


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[i]西垣真知子(2013)「子どもの性的保護と刑事規制:児童ポルノ単純所持規制条例の意義と課題」『龍谷大学大学院法学研究』第15号:72頁。この動きが、日本が開催国となった横浜会議(2001)へとつながった。
[ii]甲斐田万智子(2009)「第3回子どもの性的搾取に反対する世界会議inブラジル」『部落解放』第614号増刊
[iii]子どもの性的搾取及び性的虐待からの保護に関する条約(ランサローテ条約) Council of Europe Convention on the Protection of children against sexual exploitation and sexual abuse
[iv] Quayle, E., et al. (2008) “Child pornography and sexual exploitation of children online”, Thematic Paper of the World Congress Ⅲ against Sexual Exploitation of Children and Adolescents, Scotland. pp. 17-20.
[v] Baines, V. (2008) “Online child sexual abuse: The law enforcement response”, Thematic Paper of the World Congress Ⅲ against Sexual Exploitation of Children and Adolescents, United Kingdom.

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