旅の目的はローカルガストロノミー
近い将来、
ハイエンドなレストランが、次々と都市部から出て行っちゃうんじゃないか
と感じることが多くなりました。
理由は単純。
地名を聞いて一瞬キョトンとするような場所に、
なんだかすごく素敵なレストラン、
ローカルガストロノミー
が続々とオープンしている。……ような気がするんです。
お店の方々にしてみれば、
唯一無二の自身の店を、トレンドの一端のように言われるのは心外かもしれません。
(ごめんなさい)
しかしこれは、明らかに過去には見られなかった現象に思えます。
私の独断と偏見で、
我々の胸をざわつかせてくれる、ローカルが舞台の素敵なレストランを挙げてみると……。
・monk(京都・哲学の道)
銀閣のほど近くにある小さな店。大きな窯があり、京の野草や地野菜、ピッツァと呼ぶにはあまりにも思想に満ちたピッツァが極上のワインと共に味わえる。
・maruta(東京・調布深大寺)
調布駅からも三鷹駅からも車で10分ほど。23区内ではなかなか叶わない広さ、天井の高さ、空間の美しさ。庭を見下ろす大木を眺めつつ、店内の薪火で調理される料理を堪能できる。
・ユカワタン(長野・軽井沢)
軽井沢にある老舗「ホテル ブレストンコート」のメインダイニング的レストランながら、ホテル内ではなく森の中にある。
ジビエから山草まで、「ザ・森のガストロノミー」らしい食材を卓越したフレンチに昇華させた料理。食材はほぼ長野県産という地産地消の精神も素晴らしい。
これらはほんの一部です。
「ナショナルジオグラフィックトラベラー誌」で「魅力的なデスティネーション」で世界1位に選ばれた瀬戸内エリア、
昨今「日本のサンセバスチャン」と称される京丹後エリアなどでも、
おそらく、魅惑的なローカルガストロノミーが誕生しているのではないでしょうか。
ところで、元々地方にも「愛される名店」は各地に多々あります。
だとすると、ここで言う「ローカルガストロノミー」って、それらと何が違うんでしょうね?
私はこの分岐点となるのが、
客層のターゲットをどこに見据えているか
ではないかと思います。
以前に書いた
ローカルこそ戦略を持たなくちゃ
という記事でも触れたんですが、
シンプルに「みんな、きてきて!」と訴えやすい都心部のレストランに比べ、
地方にハイエンドなレストランを築く場合、
食の好奇心に富んだフーディーを狙うなら
・誰からも愛される「ザ・王道」な料理
・ベタなメニュー、あるいはドリンク構成
は、ある程度諦めて他のカードで勝負する必要も生じます。
地方におしゃれ感覚が無いと言っているのではないんです。
問題はそこではなくて、
遠方から訪れる旅人や、ローカルに対して何らかの“非日常的な発見”を求める客に出す料理と、長きにわたって地元密着型として愛されることを目指す店で出す料理とでは、
その表現には違いが生じてしまうんじゃないかな、ということです。
以前、一人でシンガポールまで行って訪れた話題店の料理が
wagyu、yuzu、miso、などジャパン食材のオンパレードだった時の悲しさったら、なかったですもん。
とても美味しいのに満足できないというのは、明らかに旅人である私は、この店の料理に“旅情”や“驚き”も求めていたんでしょうね。
前述した調布深大寺「maruta」の石松一樹シェフが、印象的なことをおっしゃっていました。
彼はオーストラリア・メルボルンにある「Brae」というローカルガストロノミーの名店で修業した方です。
僕が修業していた時代のBraeは、世界中のフードジャーナリストやフーディーの間でもガンガン店の評価が高まっていった時代で、毎日が猛烈にエキサイティングでした。
店は広大な自然の中にあり、宿泊出来るオーベルジュとしても営業していた。
はっきり言って、来るにはとても不便なんです。なのに、旅の途中の1日をここBraeで過ごしたいという方々が、ひっきりなしに訪れてくださっていました。
まだmarutaは若い店ですが、東京を訪れる方が、「この日はmarutaで過ごす日だ」とわざわざ滞在中の1日を割いてくださるような、そんな店に出来たら最高です。
来週は久しぶりに京都を旅します。
目玉の1つが、7月9日に東山で産声を上げた小さな町家ガストロノミー「LURRA°」です。
新たな発見が、今から楽しみでなりません。
フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。