見出し画像

今後「フリーのシェフ」が増える、きっと。

2015年に、デンマーク・コペンハーゲンにあるレストラン「noma(ノーマ)」が、
日本橋のマンダリンオリエンタルホテルに5週間の“長期出張”を果たした時は、
「シェフが出張するんだ! 店ごと出張するんだ!」と、
ものすごく驚いたのを覚えています。
「シェっ張」なんて呼んでたな。

あれから4年。
シェフが短期限定期間、働く場所を移したり、
ポップアップ的にユニークな場所(例えば離島とか歴史遺産的な場所とか)で営業するのは、
毎回、聞いた瞬間は驚くものの、それ自体はそこまで珍しいことではなくなりました。
「ノーマ」に至っては、名声を欲しいままにしつつ、
惜しまれながらクローズし、
さっさと近くにあるこれまた素敵な建物に新たなコンセプトでオープンしたしね。
しかも、クローズ直前にはメキシコに店ごと“シェっ張”したのも興味深いことでした。
当時、周りの食関係者たちはザワザワと導かれるようにメキシコを目指したものでした。

今や私たちは、あらゆる分野で繰り返されるコラボレーションにも、それほど驚いたりはしません。
歌舞伎役者がアニメや現代劇と合体しても「へぇ、やるね」くらいの落ち着きっぷりだし、
フレンチレストランのコース料理に、出汁や醤油が使われるのなんてもう、
まっっっっったくスタンダード。
和洋中、異国リミックス三昧の皿が続いた挙句に、食後、「フレンチはすごいなぁ」などと思ってしまった時の方が、
よほどその真髄に感動したりします。

これはいったいどういう現象か?

思うに、レストランで働き続けることに一生涯の価値を見出すシェフが減ったのではないでしょうか。
だって、考えてもみて。
今や人生100年時代で夢だらけ、サラリーマンも複業すべきだ、パラレルシフトだマルチタスクだと働き方が変わってきている時代です。
なのにシェフには、日がなじーっと厨房にこもり、料理の研究に勤しみ、
「自分不器用なんで」と、料理しか出来ないピュアな一途さを求めるなんてナンセンスなのかもな、と感じます。

だからこそシェフは新しい可能性を探しに“シェっ張”する。
自分の中にある知らない才能に気づくためにコラボする………のではないかなぁ。

もちろん、長く愛され続ける「この味ひとすじ系シェフ」の存在は貴重です。
が、少子化が続き、凄まじい数のレストランがひしめいている割には外食人口も働く人の数も減っていく今、
もし私が20代のシェフだったとしたら、やはり考えると思うんです。
活躍したいな。いろんなことやりたいな。
世界を見てみたいな
、と。

きっとこれからは、店舗を構えず、その時の気分やオーダーによって世界を巡る、
“フリーのシェフ”が台頭します。

例えば、内外の星付きレストランの厨房を渡り歩いた田村浩二シェフ(33歳)などは、
今では「シェフとしての料理は今後、趣味として続けたい」と語り、
自身が社会に果たせる料理人としての存在意義を、さまざまなビジネスの場で探りつつ活躍しています。
https://note.mu/koudy

今後、大好きなシェフや味を発見したとして、それらを堪能できるのは限られた時間になるかもしれません。
大好きなレストランだって、うかうかしてたらすぐにクローズしてしまうかもしれないのです。
このシェフが旬だ、好きだと思ったら
すぐに駆けつけないと間に合わなっちゃいます。
レストランに急ぎましょう。

#料理 #シェフ #レストラン

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。