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群像新人賞・村雲菜月さんと同じ小説教室通ってるなうの件。

好書好日の連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」第三回は、群像新人文学賞を「もぬけの考察」で受賞した村雲菜月さん。
記事で書いたように、私と村雲さんは同じ小説教室に通う、いわば同門。
ということで今回は、数々の受賞者を輩出した根本昌夫先生の小説教室について。


根本昌夫先生の小説教室が、すごい。

根本先生は『海燕』『野生時代』と文芸誌の編集長を歴任。吉本ばななや小川洋子などを発掘・育成した名編集者です。
その小説教室が脚光を浴びたのは、2018年の芥川賞。「おらおらでひとりいぐも」の若竹千佐子さん、「百年泥」の石井遊佳さんが同時受賞し、お二人とも根本先生の小説教室の生徒だったことから、大人気に。予約の取れない小説教室となりました。

最近も、芥川賞の高瀬準子さん、太宰治賞2022の野々井透さん、今回の村雲菜月さんと毎年受賞者を輩出しています。

その授業の中身は

先生の授業は、「近代文学の名作を読む」と「人の小説を読む」「自分の小説を出す」の三つで成り立っています。

①近代文学の名作を読む
先生から指定された近代文学の名作短編を授業までに読んできて、それぞれ順に感じたことを話します。村雲さんはこの過程で、山川方夫に出会い、「もぬけの考察」の構想を思いつきました。

自分のセレクトでは選ばない作家との出会いで学ぶことは多い。私の場合は、小沼丹。先日公開した「大森さんちの家出」の「大森さん」「奥さん」という人物の呼称は思いっきりおぬまたん(かわいい)の影響を受けています。

②人の小説を読む

前回の授業で配られた、他の生徒さんの小説を読んできて合評をします。皆さん素人ですから、アラがあります。そのアラが人のだとよくわかる。実はほとんどのアラは自分もやりがちなことだったりする。

みんなの合評ののち、先生の講評もあります。自分の読み方と先生の読み方の答え合わせ(とはいえ、先生の読み方が必ずしも正解とは限りません)ができるのも面白い。

あとは、対面授業で授業の後に飲み会があったりもするので、ある程度生徒さんの人となりを知っています。そのうえで読む作品にはドラマがある。

長年、専業主婦をしてきた老婦人の書く小説には、働く女性(≒嫁)への嫉妬や嫌悪が見られたり、2000年代生まれの若者が書く恋愛には、新しい男女観とその限界が見える。

この教室自体が群像劇のようであり、面白い。

③自分の小説を出す

もちろん、自作を提出し、合評と講評をもらえるのが一番の勉強。
ですが完結した作品でないと提出できない決まりです。
これが、難しい。
たくさん読まれて、たくさん打ちのめされたいけれど、完結していないから出せない。授業は2週間に一回です。今日出せなかったら、講評を聞くのが2週間延びてしまいます。

小説は終わらせるのが難しい。体力がいる。
その練習を否応なくできるのが、この教室のいいところ。
村雲さんは最初は月1回のハイペース、その後も2か月に1作は出していたそう。

根本先生の「読み方」


先生は、どんな生徒の作品も4回は読むそうです。

1回目は、編集者の目で「これは傑作か否か」とざっと読む。ほとんどが「否」だそうです(笑)。

2回目は、よけいな一文、いらない展開、こうしたらよくなる……といった講評の目で読みます。

3回目は、授業の前に最終確認。読み落としはないか。この小説のいいところは?

そして4回目は、他の生徒による評を聞きながら読む。生徒の評によって先生の作品の捉え方が変わることもよくあるそうです。

先生&生徒からの評には、気づかされることがたくさん。自己陶酔なだけの文章、説明不足のところ、蛇足なのはわかってるけど思い入れがあって削れていない部分などが浮き彫りに。
小説を書く時に、「どう読まれるか」という他者の目を意識できるようになるのです。

村雲さんと清のちがいは……。

もちろん、この授業を受けたからといって、万人が小説家になれるわけではありません。じつは私が「深大寺恋物語大賞」を受賞したのは、この教室に来る前。また、「早稲田文学」に小説が掲載されたのも、この教室に来る前のことです。

じゃあダメじゃん。
という話でもないのです。小説の力はこの教室に来て、確実に伸びました。
私が受賞できたのは、やはり時の運もあったんだと思います。

では、なぜ村雲さんが受賞出来て、清が出来ないのか。
もちろん「才能」のちがいはあるでしょう。でもそれは、努力ではどうにもならないので、そのほかのもので。
①読む量 ②書く量 ここかな、と思います。

村雲さんの本棚

取材に伺ったとき、村雲さんにたくさんの小説をお勧めしてもらいました。どれも読んだことのないものばかりで、すぐ図書館で検索して読みました。私の普段選ばない、「構造的な面白さ」が際立つ作品。
2020年から本格的に小説を読み始めた村雲さんですが、すさまじいスピードで読んできたんだなと感じました。そのきっかけはやはり小説教室。近代文学の名作から、「じゃあこの人の短篇集を借りよう」とどんどん派生していったそうです。

根本先生の小説教室の紹介にもこんな文がありました。

吉本ばななや小川洋子など多くの作家を発掘してきた講師が、「読まなければ上手に書けないし、同時に、書かなければ上手に読めない」という小説の定理を、作品にそって解説していきます。良い作品に触れることは、自分の中の作品を書く力を伸ばすことでもあります。 編集現場での体験を交えて“読むこと”と“書くこと”の2つの角度から、優れた作品の魅力を解説していきます。作品が読者によってどう把握・受容され、評価されるか。書くという実践を通して、それぞれの力を伸ばしてゆきます。作品の質とは、良い小説とはということについて、それぞれが書き上げてきた作品について講評し、自分の小説が書けるように指導します。

朝日カルチャーセンターHPより

もっと読まなければ、もっと書かなければ、と思いました。

根本先生の教室は相変わらずの人気です。受けたくても受けられない人も多いでしょう。
「(書くことを意識して)読むこと」「(読まれることを意識して)書くこと」
小説を自習するひとたちへ、少しでもヒントになれば幸いです。

写真/武藤奈緒美




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