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タカノシンヤ「マグネティック」/心地よい情けなさ

J−WAVEの帯番組のパーソナリティを務める彼は表の人である。
表の人なので、今日どんな仕事をしたか家族じゃないのにわかる。
フジロックで公開収録したとか、CMソングの作詞したとか、お昼から夕方まではラジオの仕事だわ、とか。
そんな毎日が追っかけてなくても目に入ってくる。

そして私は知っている。
そんな表の毎日も彼は必ず小説を書く。どうしてそんなに書けるんだ、というくらいかなりの枚数を書く。手を変え品を変え書く。書き終わったら、またすぐ別のを書く。

「マグネティック」はそんな毎日の中で書かれた。
人材派遣会社の営業をしつつ、副業で曲を作っているダイが、初対面でいきなり刈り上げに触らせたアオに執着する話だ。

この主人公、かなりかっこわるい。アオに惹かれているのになぜかアオの友だちと付き合うし、そのことも後ろめたくて逃げ出したくなって、出会い系アプリで別の子と付き合うし、アオとイチャイチャした男に異常な嫉妬心を抱くわりに行動に移さないし、すぐゲロを吐くし。

情けなさを生き生きと描いている。

その情けなさが心地いい。
決して「男はつらいよ」の寅さんのような愛すべき情けなさではないけれど、くせになる情けなさだ。

これを読んで、なぜタカノシンヤがあんな忙しそうな毎日に小説を書くのかわかった気がした。
彼は小説を書くことで、情けなさの帳尻を合わせてる。見せている部分と見せていない部分のバランスをとっている。
そしてそれは、J-WAVEの帯番組をやってない人間にも、必要なことだ。

だから「マグネティック」の情けなさはこんなにも心地いい。これは必要成分だ。

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