岩手の気候風土、歴史をアイデンティティに自社製品をデザインするサーキュラーデザイン事例

3.3.1 岩手一関市 生命の営みをブランディングして循環を生み出す 京屋染物店

岩手県に拠点を構える「京屋染物店[1]」は、自社の中でデザインから染め、縫製、販売を一貫して行っている、100年続く染物屋です。彼らは自然の営みから生み出される廃棄から循環の仕組みを作り、伝統文化になぞらえてブランディングした製品を作っています。自社ブランド「en・nichi[2]」では、日本で古くから着用されてきた割烹着(日本で見られる料理をする際のエプロン)や、東北地方の野良着・猿袴(さるばかま/さっぱかま)などがあります。歴史や文化を振り返り、その性能や精神性を現代の生活の中に溶け込ませた商品開発を行うからこそ生まれる、新しい地域文化経済の循環や再生は多くの他領域・サブシステムへの大きな影響を及ぼします。

山ノ頂は、地元の祭り「鹿踊り」をモチーフにした暮らしの道具であり、地域の課題を解決するために作られました。近年、鹿や他の獣害による農作物被害が年間4億円以上あり、狩猟されても捕獲頭数約26,000頭のうち90%以上が廃棄されており、結果、皮加工業者や縫製加工業も縮小していました。そこで、害獣駆除によって確保された鹿の皮を使用し、デザインされたプロダクトを製造・販売しはじめました。

鹿踊りは、寒冷で農作物が育ちにくい東北で貴重な食材だった鹿(=山の生命)をいただくことへの感謝と供養を示すお祭りです。その伝統文化のストーリーを感性価値に訴えてブランディングすることで売上をあげました。この循環により生み出された売上をバリューチェーン全体に等分配することで、製品製造に関わる業者が活性化するだけではなく、害獣が減り農作物の収益が増加するとともに、売上の3%を伝統芸能に寄付することで文化保全にも貢献しています。また、ユーザーにむけた文化体験やものづくりの体験イベントを継続的に開催することで、関係人口や移住者の増加にも繋がっています。また製品を入り口に、ユーザーが生命の循環を知り、人とものや動物自然など全てが優劣なく対等関係にありエネルギーを循環させていく日本の精神性や宗教観を感じてもらうことこそが、サステナビリティを意識する人が増えることにも繋がります。

 

昔ながらの知恵を使った技術による長く使い続けるためのユーザーインターフェース

全ての商品には、「永久修繕」サービスがあり、破れ穴が空いたものは、当て布をして可愛く仕上げる刺し子修繕も行っています。また、洋服タグには、衣服を裁つ際にでる廃棄を活用して、布を裂いて紐状に戻し、裂いた布を織る「裂き織」で製作しています。岩手は昔から寒冷で飢餓も続く貧しい土地でした。綿花が育たたなかったということもあり木綿が貴重で、ものを大切に長く使い続ける文化が根付いています。「刺し子」や「裂き織」は江戸を起源とした東北特有の文化で、衣服を最後まで大切に着る知恵です。文化からデザインされた仕組みだからこそ、消費者に使いやすいインターフェースとなり、京屋染物店の製品は東北の多くの方々に愛されています。 

 

アイデンティティをもった自社製品がサーキュラーデザインの始まり

染物を専門とする企業が、歴史を通じて製品に命を吹き込み、デザイン、製造、販売、回収とサプライチェーン全体を自社で管理されていることに、物質だけではない再生循環デザインにむけたヒントがあります。

一つは、自社、または近隣企業と繋がりを持って作りあげることで、Slowing down the loopのビジネスモデルを生み出しやすくなります。自社製品があることでユーザーが長く着続けるための入り口をデザインすることができます。そして、縫製企業への新たなビジネスの創出も同時にできています。

江戸時代には、着物を繕い、サイズ調整をしてくれるリフォームの専門家“御物師“(おものし)と呼ばれる縫製スキルの高い職業や、下駄や草履、陶器など長く使うための修理屋がビジネスとしてありました。

二つ目は感性価値経済の活用です。ファッションは、人の価値観や感情に触れて経済を動かすツールです。製品のアイデンティティがその地域に根付いていることは、歴史を遡り、地域全体を見渡すことで、時間軸、空間軸が広く形成され、人の感性に触れ、循環の意識が想起されるサーキュラー製品になるのです。そして、アイデンティティがあることは企業とのコラボレーションにも優位です。

日本では、スノーピーク社などとのコラボレーションにもつながりましたが、海外のハイブランドが取り組むリジェネラティブファッションに非常に親和性が高いと考えます。

 

PICTURE 35:The Regenerative Circularity by Kyoya Dyeing Shop


[1] https://kyo-ya.net/localwear_iwate/

[2] https://ennichi.jp/ 

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