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「子供を置いて出張にいく私の気持ちはあなたにわからない」新幹線の中で涙した話

真っ暗な夜、広島行きの新幹線ぞみN700にのっていた。夜の7時を回った時間帯だから外はすでに夜に包まれている。秋がやってきて日が短くなったのも感じられ、窓の外の灯りが僅かで、それがより一層暗く感じた。

私はある業務で広島に向かっていた。普段は出張といっても、東京など近距離が多く、大抵は日帰りだ。しかし、広島はちょっとちがう、日帰りは難しい。私の家は日本の東の端にあり、東京までの移動に2時間、さらにそこから新幹線で4時間かかる。今回の仕事は朝の9時半には現地に到着しなければならず、そのため前日からの移動が必要だった。そして、仕事が終わった後も新幹線を利用して帰宅することができず、1泊する必要があった。短期の仕事であるにもかかわらず、実質的に2泊3日の出張となってしまった。

車内で、真っ暗な車窓を見つめぼーっとしていたら、目に涙が溢れてきた。そして苦しみの言葉がこみ上げてきた。
「子供を置いて出張に行く私の気持ちはあなたにはわからない。」

新型コロナの影響を受けて、私は人生の大きな転換点を迎えていたた。私自身の価値観や生き方と向き合い、子供と共により充実した自分の人生を歩むことを選択し始めていた。そのなかで、自分の情熱に従い、行動の幅を広げていったが、心の中の葛藤はまだ解消されていなかった。

子供と共に過ごす時間が欲しい、でも自分自身の時間も必要というジレンマ。組織にいた頃、懇親会に参加しようもんなら、おじさんから「子供は大丈夫なの?」という気遣いの声や、「かわいそうだね。」時にはそんな批判の言葉も受けてきた。しかし、フリーランスとして活動を始めると、多くの人たちがジャッジメントなく私の選択を尊重してくれるようになった。ありがたいことに、いま私は応援してくれる人たちに囲まれている。それなのに、自分自身の中での葛藤は解消されないままだった。

一生懸命自分を生きて、一生懸命母を生きると、両方立場の人には理解されない。”あなた”とは誰でもない。誰にも理解されない。そんな孤独感だった。

新幹線が到着し、広島の街を歩きはじめた。新幹線の中で予約したアパホテルを探し歩き始めた。どっと疲れを感じながら東口を歩き橋を渡ると、やっとホテルの看板が視界に入り、安堵の気持ちがでてきた。チェックインを済ませ、部屋に荷物を置いてから、クローズ間近のホテルにある温泉に直行した。誰もいない湯船に飛び込み、温かい湯に頭までで潜って、死体のようにぷかぷかした。体の疲れだけでなく、心の重荷も少しずつ溶けていくように感じた。

浸かりながら、二つの葛藤してた思いが解けていくようだった。「子供との大切な時間を守りたい」という母としての強い思い。「自分自身の夢や情熱を追い求め、その心の声に耳を傾けたい」という、個人としての深い願望。この戦っているようなふたつの声、それを保留してみることにした。

どちらの思いも無視せず、同時に大切にする。一方を優先してしまうのではなく、両方の価値を認め、その中でのバランスを模索していくことにした。どちらの思いも私の心の一部であり、そのどちらもが私を形成する大切な要素なのだから。

温泉から上がり、部屋でゆっくりと休み、次の日の朝は、いつもの笑顔で一つ山を超えた私がいた。

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