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ポストコロナ時代の地に足のついた幸せとは【レポ】トランジション・タウン

はじめまして。3歳と10歳の男の子二人を育てるまゆです。

今回は、自然経営研究会の2021年2月Monthly Conferenceで、「トランジション・タウン」を日本に導入された榎本英剛さんのお話を聞いてきましたので、その内容をレポートしつつ、ポストコロナの時代において新たな生き方、幸せについて思いを馳せてみます。


読んでくださった方に、トランジション・タウンの存在を知っていただくとともに、少しでも現状について考え、握っているものに気づき、価値観をアップデートするきっかけになると幸いです。​

人生に手触り感を-榎本英剛さんという人について-

まずは、今回イベントに登壇くださった、よく生きる研究所の代表 榎本英剛さん、ヒデさんについてご紹介します。

兵庫県宝塚市生まれ。株式会社リクルートにて人事・営業・企画・研修開発などの業務を経験した後、米国サンフランシスコに留学し、組織開発・変容学を専攻、修士号を取得。
留学中、人の可能性を引き出すコーチングに出会い、日本人として初めてプロ・コーチの資格を取得。
帰国後、2000年にコーチング・リーダーシッププログラムを提供するCTIジャパンを設立し、本格的にコーチングを日本に普及する活動に取り組む。2005年に代表を退いた後、英国北部スコットランドに家族とともに移住、フィンドホーンというエコビレッジにて持続可能な生き方を経験。2008年に帰国した後、英国在住中に出会ったトランジション・タウンおよびチェンジ・ザ・ドリームという2つの世界的な市民運動を日本に拡げるべく、NPO法人を設立。2012年には、これまでの活動を統合したよく生きる研究所を設立し、現在に至る。
引用元 よく生きる研究所HPより抜粋 https://www.yokuikiru.jp/profile/

ヒデさんは、コーチングの手法を使い、ひとりひとりの可能性を十分に引き出す本当の仕事を作り出す手伝いなどをされている人材開発のプロフェッショナルです。そして、よく生きる研究所とは、1.自分がどうよく生きるか、2.他者とともにどうよく生きるか、3.地球上の全ての動植物種とともにどう良く生きるのかの3方向に対して、アプローチをされている組織です。
このうち、3番目の地球へのアプローチする活動の一つがトランジション・タウンです。

ご自身の直感に従い、海外留学やコーチング組織の日本支社立ち上げを経て、人が直感のまま生きる事が幸せに繋がると伝えるなかで、土台となる世の中の仕組が変わる必要があると痛感し、地球へのアプローチも始められたといいます。自分が普段食べているものや、使うエネルギーがどこから来ているのか、どう作られているのかわからない事実と、それに気づかず外部依存を強めていく社会に違和感が深まり、より手触り感があり、レジリエントな生き方を求めて、イギリスのエコビレッジを訪れ、その後トランジション・タウンの日本導入の考えに至ったそうです。

特に、ヒデさんが危機感を覚えたのが、2011年3月11日の東日本大震災が起きた時です。自分の生活リソースへの無知や強い外部依存により、災害時、食物物資の不足やエネルギー不測に対応できなかった無力感を強く感じ、自分自身が生きる世界で何かおこったときに、ある程度自分でなんとかできるという手触り感を持って生活すること、今後も起こりうる大規模な自然災害や不測の事態に対してレジリエンス力を持つことだといいます。

そしてこの自分の人生に手触り感を持ち、人生を自らドライブしていくことは、これまでヒデさんがコーチングを通して、人生の大部分を占める”仕事”に対して、直感をベースに自身で作り出そうと伝えてきた事と、まさに同軸であったのです。

実践的市民活動トランジション・タウン

2005年にイギリス南部の小さな町トットネスから始まりました。大量消費大量廃棄を前提とした現代の資本主義型システムから移行し、持続可能なまちづくりを人々の創造力やいまある資源を使って、市民主体で作り出す動きです。情報がオープンソースなことから正確な数は把握されていませんが、今や世界中で4000を超える地域にあり、日本にも約63地域存在します。

トランジションタウンの定義
市民が自らの「創造力」を発揮しながら、地域の底力「レジリエンス力」を高めるための、持続不可能なシステムからの「脱依存」を図るための実践的な提案活動

これまで、環境問題に対しては、気候変動への警告や、異議を唱える反対運動・マーチは多くありましたが、じゃあどうしたいいのよという代替案がない、もしくは個人ベースでの取り組みに留まっていることが多かった印象です。しかし、この取り組み自体がコミュニティの中での市民の自主性をベースに、目に見える実践的な持続可能なまちづくりの具体例を作り、共有しいくという行動だといいます。

エコビレッジとの違いは、ゼロから作るのではなく、日々の暮らし方をほんの少し変えながら、地域を通してコミュニティをより楽しく、心を豊かにしていくと同時に、災害に強く、地域の資源を枯渇させない、誰もがワクワクリーディングできる草の根活動なのです。

トランジション藤野は自律分散型組織の理想のかたち

2008年に榎本さんの働きかけで立ち上がったトランジションタウンは神奈川県の端に位置する藤野にて開始されました。そこには、まちづくりに必要な、食物、経済、健康、医療福祉など色々な分野を持続可能にするための様々なワーキンググループがあり、部活のような感じで、この指とまれ方式で活動が始まるそうです。

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その中でも特に私が特に感銘をうけたものを2つ説明します。

1.地域通貨よろづ屋

藤野で使われている地域通貨は、単位を「萬(よろづ)」とした通帳型です。使い方は、AさんからBさんに作業を依頼したいとき、当人同士の話し合いによって金額を取り決め、作業を行い、結果を通帳に記載するのです。ほんとシンプル!

面白いのが、通帳がマイナスかどうかは関係ない!ということ。マイナスということは自分の持っているリソースを提供する機会を使い、地域の経済を上手く循環させコミュニティの役に立っているという証拠なのです。むしろ通帳上にプラスもマイナスも取引数が少ない方が地域経済への貢献していないものとして考えられるということです。この考えは通常の経済循環とは真逆ですが、まさに貨幣は物々交換の根拠となる信用取引を具現化したものに過ぎず、本来もっていた、そして私達が戻るべきお金の概念なのだと思っています。

更に、過去の取引が一覧化されている通帳は自分が持っているリソースの見える化ツールでもあるといいます。
あの人って実は中国語話せるのね。この人はパソコンのスキルがあるのね。と、学歴や職歴の表面上ではわからないその人自身のリソースが通帳上には現れてきます。これは、人の創造力が一番の再生可能エネルギーであるというヒデさんの考え方に沿っており、どんな人も地域を持続可能にするためのリソースを持っているという、すべての人の多様性を許容するトランジション・タウンの文化が表れており、お話を伺いながら感動してしまいました。

2.藤野電力

東日本大震災をきっかけに立ち上がったこのグループでは、ミニ太陽光発電システムのワークショップを全国で行っているそうです。ワークショップを実施すると、電力という一見自分ではどうにも出来ない、と諦めかけていたものに対して、もしかしたらなんとかできるのかもしれないという、自分が持っている見えない価値観の変容が起こるといいます。電力なんかはまさに最たるものですよね。外部に依存しすぎていて、自分でなんとかできるかどうかということを考えもしませんでした。

トランジション活動の哲学

ヒデさんがリーダーとなるのではなく、やりたい人が適切なタイミングで声を上げ、人を募り、事が運んでいく。そんな自律分散型組織の運営のベースには、ひとりひとりの創造力は豊かなリソースである、そしてこの世界は実験だ、好きなことをやろうというヒデさんの多様な人が許容されるお考えがあり、コミュニティの活性や個人それぞれが幸せに楽しく過ごせる場として活きているのだなと思います。総括として伝えてくれた哲学は、まちづくりの、組織運営の、そして環境問題に対するヒデさんが長年ご自身で実行・行動されてきたからこその言葉達なのだと思います。

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諦めかけていることに気づき、手繰り寄せる

ここからは、私がお話を聞いて考えたことをつらつら書いてみます。ふと考えてみる、自分が無意識に外部に依存していて、自分にはどうにも出来ないと諦めかけてることってなんだろう、と。

自分の住む街がイケてないことへの諦め、原子力発電再稼働への諦め、女性が会議に出ると時間を無駄にすると思われている組織内文化への諦め、自分の一票がなんの影響力もないという政治への諦め、プラ袋有料化など法律や行政からのトップダウンでないと環境問題は解決しないのではないかという諦め、個人行動はハチドリのしずくにもなりえないのではないかという諦め。諦めていることが沢山ありますね。

これに対して自分の意見を持たず、誰かの意見に賛同することがその環境で上手く自分を取り繕うための所作だったはずなのですが、その副作用として自分の声が聞こえづらくなってしまっているのに気づきます。

自分自身がつくってしまっている枠に気づき、本当に諦めなきゃいけないことなのだろうか?と再度自問自答し、諦めていることを手放し、一つ一つ分解していくことで手触り感のあるところまで問題を手繰り寄せる事が必要なのかもしれないですね。

手始めに、お米を近くの農家さんから購入し、食べる野菜達をできるだけ地元のものを選択するということをやってみると、自分で農作物を作るところまではいけないけれど、遠いだれかつくり運んできてくれる存在だった食べ物が、2次情報くらいまで近づき、より美味しさや家族の健康への思いが強くなりました。
また、組織を一度抜けてみると、選べないと思っていた自分の仕事を選択する事ができるようになりました。

自分の元に手繰り寄せるというひとつひとつの行動が主体的であるからこそ、自分自身と対話しながら選択し、決定する行為は、自分の人生を生きていると実感することに繋がっていると感じています。

サステナビリティは人間目線のエゴでしかない

このイベントの質疑応答でも出たのですが、ここまでくるとサステナビリティという言葉に対しても違和感が出てきます。コロナによって、世界全体が経済活動を縮小したことによりCO2排出量が前年比7%減少した事実があります。これは、人が経済活動をする、もっというと生きること自体が自然の摂理とは反していることと同義だといえます。つまりサステナブルとは人間の立場で、人間が自身の生活を持続したいがためのエゴであるということに気づくのです。

しかし、エゴも一種の誰かの価値観というエネルギーの塊でしかないと考えると、宇宙レベルの視座を以てでも世界がどうなるのかわからない今、もはや自分の価値観でエゴを主張することこそが、主観でものを考え、伝え、生活をサステナブルにする行動自体に意味が出てくるのではないでしょうか。

テクノロジーや資本主義の恩恵も、丁寧と効率のバランス

ここまで書いてみて、文章を俯瞰すると、まちづくりの人でもない、組織の人でもない私が何を語ってるのか、ほんと誰目線やねん!と自分で突っ込みたくなってしまったので、ここらで私の主要属性であるワーママとして語ってみます。

ワーママ歴10年、限られた24時間の中で家電や外注に頼りつつ、不要なタスクを手放しボリュームを減らし、効率化の鬼として、パズルのように家事、育児、家族、仕事をはめ込み、そして残った時間を自分時間として確保することが出来たのは、まさにテクノロジーの恩恵を受けたからに他なりません。お出かけ中にお掃除してくれるルンバさま、干す時間を吹き消してくれた洗濯乾燥機はほぼ神だし、帰宅後子供とのゆっくり時間を確保してくれるホットクックはもう手放せません。

都会の中で、自力で子供を育てる、自分が生き延びるために、人に頼るよりもお金のちからで”便利を買う”という、人の温かさとはちょっとかけ離れたものと対峙し、必死にやりくりしてきた結果の幸せも今はあるけれど、もう少し周りを見回すと、頼ってもいいよと言ってくれる人はたくさんいて、テクノロジーを使わなくても、人と繋がり、自然とつながると豊かな時間を生み出す方法はあるのだなと最近感じています。

かといって、私達は江戸時代の生粋のエコな生活に戻る事はできないし、戻る必要もないと思っています。まさに属性、生き方に適した丁寧と効率化のバランスは人それぞれなのでしょう。その前提として知っておきたいのは、母親として女性としてこうあるべきという自分自身が握り、縛ってしまっている枠や概念を一度はずして考えてみた新たな気付きにたどり着くことなのかなと改めて思いました。

最後に、懐かしい未来への自身の変容(トランジション)は手触り感のある幸せを自分で選択することにあるのかも

東日本大震災から10年経過したいま、当時3ヶ月だった息子も10歳になりました。あのとき感じた大きすぎてハンドルできない原子力への危機感と、災害への無力感をもう一度思い出すときなのかもしれません。ポストコロナの時代、そろそろワクチン接種が始まり、もしかしたら10年前の様に大部分の人にとってはもとの生活に戻るだけなのかもしれないです。しかし、新しい時代へのニューノーマルは自分で決めることができます。自分自身の幸せのものさしを以て、自分ごととして情報をとりにいく、価値観の違う相手と対話する、そんな機会をつくりたい。自分の考える手触り感のある幸せを考え、小さな一歩を踏み出し、未来の子どもたちへこの危機感をできるだけ和らげる行為をしていきたいなと思うのです。

改めて、この様な考える機会をいただいたヒデさんに感謝します。トランジション・タウンについて3月中旬にクラウドファンディングで本が出版されるそうです。より詳しく知りたい方はぜひリンク先をご覧くださいね。

僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる
~トランジション・タウンという試み

https://ttfujino.net/book/product/bokukawa-ttbook-01/

そして、今年中には実際に藤野にお邪魔したい!
今回ご紹介した以外にもシュタイナー学園や森のようちえん「てって」など興味深々な取組みをされている藤野に直接伺うことで、感じ、自分のさらなる価値観の変容を楽しみたいなと思っています。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。


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