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東京お散歩日記#3(上井草①)

お散歩日記(上井草①街のコーヒー屋 SLOPE)

・・・1月○日 晴れ ・・・

ちひろ美術館へ行くため、上井草の駅で降りた。
展示内容が年に数回入れ替わるちひろ美術館は好きな美術館のひとつで、ときどきふらりと訪れている。今は「石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語」を開催中で、今月(一月)一杯で展示終了となるため、急いでやってきた次第である。

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上井草の駅に到着したのは午前十時頃だった。
西武新宿線の、各駅停車しか停まらないこの駅に降り立った人はまばらで、少し古めかしいホームには太陽の柔らかい光が差しこんでいた。

年に数回しか降り立たない駅だけれども、毎度思うのは静かだなあということだ。駅前に大きな店があるわけでもなく、高い建物があるわけでもなく、小さな商店や住宅が建ち並ぶこの街にはとてものどかな雰囲気がある。
よそ者の感想ではあるけれど、上井草には内側から優しく発光しているような明るさがあるように思う。

ちひろ美術館に行くならばこのまま北口改札を出て、駅前の通りを左手に進む必要があるのだが、その前にちょっと寄りたい場所があるので右手に進み、線路を渡った。

そのまま道なりにまっすぐ進んでいくと、ほんの五分もしないうちにその場所はあらわれる。

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SLOPEという、街のコーヒー屋さんだ。
ここは以前からずっと気になっていたカフェで、だいぶ前にも一度足を運んだことがあるのだけれど、そのときはあいにく満席だったため、あきらめて帰ってしまったことがある。それで再度やってきたのだが、今日は時間が早かったおかげもあってか、空いている席がいくつかあった。

まずは席に着く前に注文とのことで、お店入ってすぐのところにあるスコーンやマフィンがずらりと並ぶカウンターに目をやった。種類がたくさんあるうえ、どれもおいしそうで目移りしてしまい、なかなか決められない。
そうこうしているうちに次のお客さんがやってきて、ああどれにしよう!と焦りながらも選んだのは、紅茶といちじくのスコーンといちごカスタードのマフィン、それに温かいカフェラテである。

支払いを済ませてから、カウンター近くの死角ともいえるテーブル席に座る。店内には外国の女の人が歌う曲が流れていて、奥に座っていた先客の女性はノートのようなものを広げ、一人のんびりお茶時間を楽しんでいるようだった。

なんだか良い雰囲気だなあと思った。
打ちっぱなしのコンクリート床に白い壁、使い込まれた木製の椅子と黒いスチール脚の四角いテーブル、そして控えめなライト。シンプルなそれらすべてがこの落ち着いた空間を演出しているように思えた。そしてカウンターにはお菓子に使う食材なのか、あるいはディスプレイ用なのかは分からないが、黒いワイヤーバケットに入った小さな紅い林檎が入っていて、それすらも店の雰囲気に彩りを加えているように見えた。

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しばらく待っていると、温められたスコーンとマフィン、そしてカフェラテが運ばれてきた。なみなみ注がれたカフェラテは一口飲むと、なめらかな口当たりでとてもおいしい。そしてスクエア型のスコーンを食べると、外はさっくり、中身はしっとり。そして生地に練り込まれた紅茶の香りが口のなかにふわりと広がり、いちじくの果肉がねっとりと甘くてとてもおいしい。
本当ならお行儀よく食べたいところだけれど、気づけばさっくりしたところがポロポロ崩れ落ちて、お皿のうえに遠慮なく粉が散らばってしまう。

続いてマフィンを食べる。   
甘酸っぱいいちごの果肉と、とろりとしたカスタードが合わさって、そんな組み合わせはもちろんおいしいに決まっている。幸福感が上昇してしまい、思わずひとり密かににんまりしてしまう。

お店には、そのあいだも続々とお客さんが来店していた。
テイクアウトする人もいれば、自分のように店で食べていく人もいる。
入ったときにはいくつかあった空席は、気がつけばそのほとんどが埋まっていた。けれど席と席とのあいだには程よい間隔があるので、となりに人がいてもさほど窮屈さは感じず、ゆっくりくつろげるのが嬉しい。

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街ものどかだけれど、お店のなかで見られる光景もまたのどかに思う。
小さな子供を連れたお父さんがやってきて、子供と向かいあって一緒にマフィンを食べている。常連らしいお客さんたちがやってきて、店員さんと和やかに談笑している。一人でやってきた人はそれぞれ静かに、思い思いの時間を楽しんでいる。

おしゃれな雰囲気のお店でありながら決して気取った感じはなくて、ショップカードにも記されているとおり、「毎日通える、街のコーヒー屋です。」といった感じがする。本当に近くにこんな店があったなら、毎日通いたくなるだろう。

店の片隅に置かれてあったスチールラックには絵本やエッセイ本などの古本がたくさん並んでいて、気になって見てみると、それらはすべて売り物だった。古本一角文庫と札がついていて、どうやらセレクトされた古本が売られているらしい。知っている本もあれば、見たことのないような本も並んでいて、購入はしなかったけれどそのとき気になったのは「パンダ育児日記」という本だった。ぱらぱらめくると愛らしい赤ちゃんパンダの写真があって、パンダといえば黒柳徹子さん、徹子さんといえば窓ぎわのトットちゃん、トットちゃんの表紙といえばいわさきちひろと連想されて、不思議とこれから行く予定のちひろ美術館につながっていく。いや、多少自分でこじつけた感もあるけれど。

一時間ほどのんびりカフェ時間を満喫してから店を出た。

お店をでるとき、「ごちそうさまでした」と言うと「ありがとうございました」と店員さんの感じの良い声が返ってきた。また来たい店だなと思った。いや、またぜひとも来ようと思う。そしてそのときには、あんこをはさんだスコーンを食べたいと思っている(選ぶときにこれと迷ったのだ)。

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外は晴れていて、気持ちのよい青空が広がっていた。
来た道を戻るようにして、これから今日の目的であるちひろ美術館へ向かう。途中、踏切で警報機が鳴ってすぐに足止めを余儀なくされ、遮断機の前でしばし待つ。

青いラインを入れた銀色の電車が通り過ぎ、そのあとすぐに、黄色い電車が目の前を通り過ぎていく。遮断機があがり、線路を渡り、まっすぐ歩いていくと、右側にカリーナという手作りサンドイッチの店があらわれる。

通りに面したショーケースには、いろんな種類のサンドイッチが所せましと並んでいて、具がみっちりと詰まった昔ながらのサンドイッチはどれもとてもおいしそう。人気店のようで、お昼前にもかかわらず数人が列をなして待っていた。

そんな様子を横目にカリーナを通り過ぎ、まっすぐ歩いていくと交差点にさしかかる。横断歩道を渡って右折し、千川通りというマンションが建ち並ぶすこし広めの道を歩いていくと、ちひろ美術館の案内板が目に入る。
その矢印に従いながら、閑静な住宅街に入っていき、道を曲がり曲がり行くと、赤茶色の外壁が印象的なちひろ美術館にたどり着く。

❀今回のお散歩日記は次頁(上井草②ちひろ美術館東京)に続きます。

◇◇◇ 今日のお散歩写真① ◇◇◇

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上井草の駅に到着

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静かなホームに差し込む冬の柔らかい光

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改札近くにあるちひろ美術館の案内板がかわいい

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青空のした、SLOPE目指してまっすぐ歩く(お店は左手)

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紅茶といちじくのスコーン、いちごカスタードのマフィン

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なみなみ注がれたカフェラテもおいしい

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しあわせな気持ちでお店をあとにする

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駅には青いラインの入った電車が停まっている

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遮断機で足止めされて・・・

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窓に空を映した黄色い電車が走っていく

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ひとけのない千川通りをまっすぐ歩く

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ところどころに案内板があるので道には迷わない

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住宅街を通り抜けていくと・・・

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けやきの木が目印のちひろ美術館に到着

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❀今回のお散歩日記は次頁(上井草②ちひろ美術館東京)に続きます。

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