創作怪談 『呪いの絵』
私の実家には『呪いの絵』があった。
見た目は別に怖い訳では無い。
変なものが書かれている訳でもない。
暖かい日差しが差し込んでいるような明るい絵、大きな枝垂れ桜を眺める着物の女性が描かれている。
何となく日本風の題材だが、絵の雰囲気はなんだか西洋風な気がしたのは、私が絵に詳しくないのと、それが油絵だったからかもしれない。
そんな絵がリビングに飾ってあった。
誰か有名な画家が描いた絵とか、そう言うことでは無いらしい。
祖父と祖母が旅行に行って、その旅先で買ってきたもので、物心着く頃にはその絵はそこにあった。
イタズラ好きの祖父は私にその絵のことを
『呪いの絵』だから大事にしなさいといっていたのだが、
成長していくにつれて、それが祖父の嘘だということに気がついた。
その話を祖母にすると、祖母は祖父のことをパチリと叩いて怒っていた。
「物を大切にするように教えたんだ」
祖父はそんなことを言いながら笑っていた。
その絵が『呪いの絵』だと思っていた時は、怖くてあまり見れていなかったが、祖父の嘘だとわかってからは、普通に見れるようになった。
今では家族の笑い話になっている。
笑い話だったはずなのだが……
大学生になった現在、成人もして友人たちと遊んで呑んで帰ってきた。
結構酔っていて、とりあえずキッチンで水を汲んで、リビングの椅子に腰掛けながら飲んでいた。
スマホをいじりながら、ぼーっとしていたのだが、ふと、その『呪いの絵』をみた。
あれ?女性が居ない。
瞬きをする。
すると女性は居た。
相当酔っているらしい、そう思い部屋に戻った。
部屋に戻ってベッドに入り寝ていたのだが、30分ほどで喉の渇きのせいか、目が覚めてしまった。
面倒さもあったが、どうにか起き上がり、キッチンへ向かう。
キッチンからもリビングの様子が見えるのだが、やっぱり先程のことが気になって『呪いの絵』の方に目を向ける。
少し遠いのでよく見えないのだが、また女性が居ないように見えた。
また近くに寄って絵を見てみる。
やっぱり居ない。
絵の中にあるのは、枝垂れ桜だけだ。
枝垂れ桜はいつもと変わらない。
けれど、女性が居ない。
流石におかしいと目をこすってもう一度見てみる。居ない。
その異常さにゾクッとした。
ふと、後ろに気配を感じ、ハッと振り返る。
もちろん、誰もいない。
気の所為のはずだが、気の所為だとは思えなかった。
なぜなら、振り返る視界の端に、絵の中の女性が着ている、それこそ絵の中の桜のような、淡いピンクの着物の袖が見えたから。
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