創作怪談 『隣の部屋の子どもたち』

仕事が終わり、ヘトヘトになって自宅アパートへと帰ってきた。
残業続きで、最近まともに自炊できていない。
新社会人として新生活が始まり、気合を入れて色んな調味料や調理器具を買ったはいいものの、宝の持ち腐れ状態だ。

今日も疲れてコンビニで適当に弁当を買ってきた。
せめてスーパーの安い惣菜でも買えれば、節約にもなるのだが、今の時間までやっているスーパーがあるのは、正直面倒だなと感じる距離でなかなか足が向かず、帰り道にあるコンビニで買ってしまう。

最近のルーティン通り、風呂に入り、普段通りに夕食を食べていた。

すると、突然隣の部屋から子供の笑い声が聞こえてくる。
2人だろうか?キャッキャと笑いあって、随分と楽しそうだ。

隣か?そういえば、今朝引っ越し業者のトラックが止まっていたなと、思い出す。
家族連れが引っ越して来たのだろうか?
  今までお隣が居なかったから気が付かなかったが、結構壁が薄いんだな気をつけないと、そう思いながらレンジで温めた夕飯を食べる。


翌朝、仕事に行く時間だ。
多少憂鬱になりながらも、玄関を出て部屋に鍵をかけていた。

「おはようございます……」
遠慮がちに掛けれた声のする方を見ると、1人の男性がいた。
隣の部屋から出てきたところだったようだ。
自分とあまり変わらないぐらいの年齢に見える。

「あ、どうも」

軽い自己紹介をして、ぺこりとお互いに頭を下げながら、挨拶をする。

男性が私の前を歩いていくのだが、その時になってようやく男性の後ろに、にこにこした子どもが2人いるのに気が付いた。
え?と思ったが、納得した。
昨日の笑い声はこの2人だったのか。
子ども達は、男性の後ろをちょこちょことついて行く。
男性は子ども達の事は全く気にせず、スタスタと歩いている。
少しゆっくり歩いてあげればいいのに……
そんなことを考え、私もバス停まで急ぐ。

その日も帰宅が遅くなった。
なんなら昨日よりも遅くて、昨日よりもヘトヘトになっていた。
ぐったりとベッドに横になる。
そのまま眠りに落ちてしまった。

 喉の乾きで目が覚めた。
スマホを見れば、夜中の2時。
寝たからか少し元気になったので、スウェットに着替える。
多少空腹感もあるが、水を飲んで、またベッドへと向かう。
うとうとし始めた頃、また声が聞こえてきた。
子どもの笑い声だ。
楽しそうに何かを囁き合いながら、笑っている。
こんな時間まで起きているのか?
疑問に思いつつも、疲れているからかすぐに眠気は来る。
遠のく意識の中、何故か囁きの内容がしっかりと耳に入ってきた。
まるで、すぐそこに子どもがいるかのように聞こえる。

「いつにする?」
「いつにしようか?」 
「もう良いんじゃない?」
「まだ、まだだよ」
「えー、早く連れていこうよ」
「まだまだ、連れては行けないんだよ」

楽しそうに話しているが、何故か怖かった。
ゾワゾワと鳥肌が立つ。
布団を頭まで被り、寝ようとする。
まだケタケタと笑い声は聞こえるが、思ったより簡単に寝れた。

朝、昨日あれはなんだったのだろう?
考えながらも、夢だったのだろうとそう思い、朝の支度を始める。
時間になったので玄関を出ると、また隣の部屋の男性がいた。

「おはようございます」
「おはようござ…………!?」

男性の首にしがみつくように、子供が2人ぶらさがっている。

「「行こう!行こう!一緒!一緒!」」

子どもの顔は、ニタリと笑ってい男性の顔を覗きこみながら、そう叫んでいる。

男性は気がついていない様だ。

「あの……?」
男性は不自然に言葉を切った私に声をかけてきた。「……えっ……と」

私がとにかく何か言わなきゃと思い声を発すると、バッ!っと子どもがこちらを向く。
こちらをじっと見てきた。
無表情ながら、その目には喋るなとでも言うような圧があった。

「……いえ、すみません。おはようございます。」
そう言って私は足早にその場を離れることしかできなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?