返さなくてもいい、愛。
もうずっと昔のことだけれど、
愛と恩返しの関係について考えた。
私は、バリバリの末っ子体質で、
周りの人間にどっぷり甘えて、
ちゃっかり生きてきた。
当時一緒にいた人は、
私とは正反対の、
弟と年の離れた妹のお兄ちゃんだった。
離れて暮らしていたので、
久しぶりに会えたたまの休み、
さぁこれから二人して出かけるぞ!
と、ほくほく楽しみに、
バイクのエンジンをふかした瞬間、
末の妹から、駅まで迎えに来て(いや、来いだったか)と、連絡が入った。
家から駅までは、車で30分かかる距離だ。
「もーあいつは、しょうがないな〜」とこぼしながらも、
彼は少しのためらいもなく、エンジンを止めてヘルメットを外した。
私はえーっ!!と内心叫び、絶句して、
「もう高校生なんだから、自分で帰ってこさせないよ!」と
バイクから頑として降りず、自分のことを棚にあげて、
「甘やかしすぎなんだよ、いっつも。
あいつらいつも甘えっぱなしで恩返しもしないし。」
と悪態をついた。
弟にだってそうだ。
あいつだって、もういっちょまえの社会人として働いてるのに、
いつもおごってやってるし、
あいつは上京して一人気ままにやってるのに、
実家に残って家族の面倒を見てるのだって彼だ。
人の家のことながら、不服そうな表情をヘルメットの下に隠して、
バイクにまたがり続ける私を見て、
やれやれという表情でこう諭した。
「俺に返さなくたっていいんだよ。
あいつらが、お世話になった誰かや、
出会った人たちに親切にしてくれればそれでいいんだから。
俺だって、いろんな人にいっぱいお世話になってきたもん。」
ぐずぐずの甘ったれの私は、驚いて、
思わずヘルメットを外すと、
はらはらと目から鱗が落ちていた。
私はその時、
愛することの意味を学んだのだと思う。
とても恥ずかしいことだけれど、
未だかつて、そんな風に考えたことがなかったのだ。
自分がしてあげたものに対しては、
自分に返してもらって当然だと思っていたし、
自分がしてもらったことについては、
きっちりお返ししないと気持ちが悪かった。
だから、育ててくれた親には、
ちゃんと親孝行される権利があると思っていたし、
そうしなくちゃいけないものだとも思い込んでいた。
親だってそれを望んでると。
けれど、
愛や親切をギブアンドテイクで考えている限り、
いつもどこかにストレスが発生する。
あれだけしてやったのに、あんなにしてもらったのに…
自分が当事者のときはもちろん、
人様の話にだって、一緒になって腹を立てたり、
不憫さを嘆いたりしていた。
しかし、彼の言葉を受けてからというもの、
随分と楽になった。
返さなくてもいいんだ。
返されなくてもいい。
彼とはもう、
離れ離れになっれしまったけれど、
(もうしっかり一児のお父さんです。)
彼からもらったたくさんの愛は、
今まで出会ってきた人たちや家族、
そして息子へと
しっかり伝えて(返して)いっている。
そして私も、
息子をぎゅうっと抱きしめながら語りかける。
お母さんにはな〜んにも返さなくたっていいんだからね。
お母さんは、あなたのこと好きでしてることなんだから。
させてくれてありがとう。
あなたも、これから出会う大事な人たちに、い〜っぱい愛を注いであげてね。
そのために、今、いっぱいお母さんの愛をあげるからね〜。
少しおしつけがましいでしょうか。
それに、いざとなったら、
少しは寂しいかもしれません。
でも、頭ではそんな風に思って、
毎日、息子をぎゅうぎゅうしています。
麻佑子
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?