人生で一番お金をかけるとき
出産を機に仕事をやめた。
正規雇用として、働かない生き方を選んできたのだから、すごく当然の成り行きなのだけれど、
時間ができてよく目を通すようになった新聞やウェブ上の記事では、
いかに仕事と育児を両立するか、
待機児童の問題や、
育休後の働き方を指南するアドバイザーの存在やら、
働きながら育児する事が大前提になっているんだと改めて痛感し、
わかってはいたけれど、
どこか疎外感を感じて寂しくなった。
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先日、2つの興味深い研究に出会った。
1つは、教育と経済学の研究で、
ジェームズ・ヘックマンによる「ペリー就学前計画」というもの。
(門外漢の私が、という前提で)簡単に説明すると、
人生のどの時期に一番お金をかけるのがいいか、というのがこの研究の目的だった。
1960年代初頭から、現在もアメリカのミシガン州で継続中だという。
※詳しく、そして正確に知りたいという方は、ぜひ調べてみて下さい。
貧困層の子どもを対象に、
3歳から2年間、幼稚園に通い、初歩的な幼児教育を受け、定期的な家庭訪問を受けたグループと、
特になにもしないグループを、
40歳まで追跡調査した結果、
前者の方が、高校卒業後の収入や持ち家率などが高く、
後者に比べて離婚率や犯罪率、生活保護需給率が低い傾向があったそうだ。
つまり、乳幼児期における教育への投資効果が大きいということになる。
2つのグループに差をもたらした要因を平たく説明してしまうと、
IQではなく、アタッチメントであるという。
幼稚園に通い、カリキュラムに沿った教育を受けた結果、
IQが上昇したからというよりも、
特定の他者(この場合は幼稚園の先生)との関係性を築くことができたかどかが、その後の人生において生活レベルに差をもたらしたのではないかと強調されている。
実際、IQの差は成長するにつれて縮まりほとんどなくなったそうだ。
IQなどの認知的能力の獲得よりも、
アタッチメントによって得られる、非認知的な心の力、
たとえば、自制心やねばり強く頑張る力や、人の心を理解する思いやり、自律心、協調性や道徳性などを引き上げることが、
生涯にわたる経済的にも安定した生活をおくる可能性があるということ結論づけている。
もうひとつの研究は、
ウォルター・ミシェルによる「マシュマロ・テスト」というもの。
4歳児にマシュマロをひとつ与え、すぐに食べてもいいけれど、
15分待つことができたら2個あげるよと伝え、一人にし、15分間、マシュマロを食べずに我慢できたら合格という、
自制心を測定するテスト。
全体の1/3の子どもが、合格し、
合格者は、学業成績や社会的成功、健康面などにおいて、
大人になってから好ましい人生を送る傾向があるそうだ。
この研究も、ヘックマンの研究同様、
IQ以上に非認知的な心の力である、自制心の獲得が、
その後の人生において重要であるという結果を示している。
ということは。
アタッチメントの質を向上させること、
すなわち、子どもが急に恐怖や不安におそわれた時、
ぎゅっとくっつくことができる大人が、いつもそばにいて、安心できることがキーである。
だとすれば、
お金をかける、とは、単にダブルインカムで稼いだお金を、高額な保育料を支払い、様々に用意された早期の幼児教育に当てることばかりではなく、働かずして、子どものそばにいることだって、ある意味、お金をかけていることになるのではなかろうか。
もちろん、母親自身の人生におけるライフプランなどを見通せば、
そう簡単な問題ではないかもしれないが、
そんな視点もあってもいいのではないかと考えてみる。
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自分に都合よく解釈して、
私の疎外感や漠然とした不安は、
少し和らいだ。
(ちなみに、前回紹介した、池谷裕二さんの「パパは脳研究者」においても、
4歳の時点で、マシュマロ・テストに合格できる力を養うことが、一つの目標としてあげられていました。詳しく知りたい方は、ぜひ読んでみてください。とっても面白い!)
麻佑子
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