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【見学レポ】復興と新しい生活のためのデザイン展


10年前の3月11日、午後2時46分、みなさんは何をして過ごしていましたか。

私はその瞬間、偶然にも空の上にいました。バルセロナに向かう飛行機。高校の留学プログラムでした。地震が起きたのは離陸から30分ほど後だったそうです。

押し寄せる津波に家や車が流されている様子を、クラスメイトと担任の先生と、ホテルのテレビから呆然と眺めていました。

今日、ニュースには「宣言解除」「ワクチン」「まん防」「不信任決議案」「五輪」…の文字。

立ち止まって10年間を振り返ると、私たちは予測不可能な自然災害・パンデミックに見舞われ続けていました。悲しみや苦しみをどのように乗り越えてきたのでしょう。


今回は、デザインの視点で復興の軌跡を辿る「東日本大震災とグッドデザイン賞」をご紹介したいと思います。

東日本大震災とグッドデザイン賞 @東京ミッドタウン デザインハブ
~復興と新しい生活のためのデザイン展~

東京ミッドタウン・デザインハブ第91回企画展「東日本大震災とグッドデザイン賞 復興と新しい生活のためのデザイン」(5/18~7/5)は、東日本大震災の発災から10年にわたり、東北6県および茨城県からグッドデザイン賞を受賞した521件のデザインをグラフィックで紹介するとともに、そのうちグッドデザイン・ベスト100以上を受賞したデザイン(および関連するデザイン)を前後期に分けて紹介。(参照:東日本大震災とグッドデザイン賞

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私が見学した前期のテーマは「つながり」「知恵」「備える」。

つながり
住宅、学校、公園、広場などの新しいプラットフォーム、暮らしの情報や多くの人々の声を伝えるフリーペーパーやメディアによる活動

知恵
災害時に役立つ道具や避難ために工夫されたこと、そして災害そのものを考える活動

備える
自然災害へ備えるために提案されたデザイン(東北6県、および茨城県以外からのグッドデザイン賞に焦点)


デザインと聞くと「…製品かな?」と想像しがちですが、仮説住宅やインフラの整備、地域の繋がりの強化など多岐に渡ります。民間企業やNPO法人、設計事務所、医療施設など、受賞者も様々。

医療に関わる事例も含め、ピックアップして紹介させて頂きます。


1.大間町・あおぞら組のまちおこしゲリラ活動

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【概要】大間はマグロ一本釣り漁が自慢のコテコテの漁師町。【マグロ一筋】を旗印に、本州最北端という地理的ハンディを突き抜け、町民総スター参加でのゲリラ的な世界発信を仕掛ける。大間を発信するためのメディアであり、ふるさとを威張るためのツールであり、縁をつくる仕掛けとなるのが、われわれの商品である。この商品を触媒として、カラ元気と笑いをもって、人と人、人と大間の結びつきを増殖させていくプロジェクトである。(引用:受賞対象の概要

👉インターネットを介せば、ハンディが反って強みになる。そんなありのままで無理のないブランディングが素敵。「マグロ一筋テーシャッツ」(笑) この世界感が好きです。

2.ウマジン

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【概要】ウマジンかぶればみんな友達!見た目の異様さ、可笑しさ、かぶった時の恥ずかしさはその場に大きな高揚感と連帯感を生み、これまで見えていなかった街、人間関係、自分を発見することができる。ウマジンは人と人を繋ぎ、人と街を繋ぎ、街と世界を繋ぎ、それら全てを元気にする。ウマジンかぶればみんな平等。年齢性別職業国籍関係なし。ウマジンは世界を平和にする。「Umagin」には「Imagine」のI(私)からU(あなた)へ伝えたい、eが取れているのはego(エゴ)は捨てようみんな友達になろうよという普遍的なメッセージが込められています。(引用:受賞対象の概要

👉第一印象は世界史に登場したKKK。でも中身は正反対。そして足湯?写真のツッコミどころが多いです。照れ笑いでコミュニケーションが生まれる、ってなんか良いですね。

3.石巻・川の上プロジェクト

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【概要】約400世帯が住む川の上地区は2018年に防災集団移転により沿岸部から約400世帯が移り住む。異なるバックグラウンドをもつ人たちが一緒になるため、新旧の住民が親睦を深める場が求められ、2015年に「川の上・百俵館」が開館した。開館から3年がたち、地域の多様な世代の人たち集まり、新旧住民にとってのサードプレイスになりつつある中で、新たな課題も見つかった。課題を丁寧に拾い上げ紡ぎだした「耕人館」および「たねもみ広場」は、子供も大人も、ハンデのあるひともないひとも、お年寄りも赤ちゃんも、地域の人たちが共に学びあい、支えあい、伝承するための「地域の学び舎」となっている。(引用:受賞対象の概要

👉「社会性」や「コミュニケーション能力(察する力・会話の間…)」は人と関わる中でしか生まれない。何歳になっても色々な世代・職種・考え方の人と関わり続けられる環境があるのは幸せなことだと思います。

4.地域貢献型シェアハウス +ITオフィス「コクリエ」

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【概要】「コクリエ」は,茨城キリスト教大学の地域活動サークルHEMHEMを母体とし「みんなの集まる場所が欲しい」という夢から始まりました. 茨城県北エリアの若者と地元住民や地元企業が交流する活動拠点としての地域貢献型シェアハウスです.企画運営は,茨城大学工学部発のITベンチャーを起した株式会社ユニキャスト.建築デザインは,住まいと活動拠点のレイヤーを重ねてミックスしつつ,太平洋崖沿いの気候を活かしたオリジナルプラン.様々な自生樹種を配した四周の庭は,環境デザイン上も重要な役割を担っています.風車のような屋根並みと杉下見板張りの外観はどこか懐かしい佇まいですが,実は最新エコライフの学び舎でもあります。(引用:受賞対象の概要

👉働き手と雇用者がwin-winになる取り組み。都会だから必ず自分に合った職を見つけられるのでしょうか?人との縁から生まれる仕事はとても魅力的ですね。

5.シェアビレッジ

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【概要】「シェアビレッジ」は秋田県の辺境から始まる「村」の概念をひっくり返すプロジェクトです。「村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる」という考えのもと、消滅の危機にある古民家を村に見立てて再生させていきます。多くの人で1つの家を支える仕組みをもって、全国の古民家を村に変えていきながら、一度村民になったらどの村にも訪れて田舎暮らし体験をすることができます。(引用:受賞対象の概要

👉年会費を「年貢」と呼び、3000円を納めたら誰でも村民になれるそう。ユニーク!しかもお手頃ではないでしょうか⁇

6.避難地形時間地図(逃げ地図)

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【概要】逃げ地図とは、震災以後の新しい街づくりを可能にする一連のプロセスを指します。非津波浸水域をゴールとし避難時間を色分し避難方向を矢印により地図の道に表現します。これにより詳細な避難地図が出来ます。これは地域を安全な街に改良していく為のベースマップになります。これに道や避難タワーを追加して道の色を塗り直すと、その対策の費用対効果が誰でも分かるようになります。さらにシミュレーションにより、試案の妥当性や、規模、性能の検証し、確実性の高い具体策を作成可能にします。またこれらをアプリ化し、web公開する事で多数の試案ログを集積、閲覧可能にすることで逃げ地図は新しい合意形成に基づく街づくりを可能にします。(引用:受賞対象の概要

👉地図上でリスクを可視化できるツール。この地図が手元にあれば、有事の時も焦らず落ち着いて行動できそうです。

7.いわきの地域包括ケアIgoku(いごく)

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【概要】マザーテレサの言葉「人生の99%が不幸だったとしても最後の1%が幸せだった人は幸せです」。それに反するかのように、この国では、死は縁起でもないものとして目を背けられ、結果、人生の最期に、本人や家族は大変な思いをされます。 一番大切な最期のために、「いごく」は「老・病・死」にスポットライトを当てる取組を展開しています。(引用:受賞対象の概要

👉老いること、病気になること、そして死ぬことは怖いですよね。大切な人を先に喪えば当然悲しいです。でも、一生懸命に歩んだ人生を悲観だけで締めくくるのはもっと悲しいことかも知れません。地域包括ケアを新しい切り口で展開するigoku、興味深いです。

8.トリアージ72

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【概要】大地震などの災害発災後、72時間を想定した訓練を、簡単に、質の高い訓練として実現するための訓練キット。訓練を主催する自治体や病院にとって手軽に入手でき、訓練時は、参加する医療者、自治体職員、市民にとって、医学的に正しい訓練を実施できるようにデザインしている。(引用:受賞対象の概要

👉市民も参加できるところが興味深いと思います。日本全国の学校などで(避難訓練のように)普遍的にトリアージを学べるようになれば、有事の際に起こりえるERひっ迫を回避できるかもしれません。

9.ナラティブブック秋田

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【概要】患者さんの記録は、カルテやお薬手帳などに散在して医療機関で管理されている。これらには患者さんの想いや死生観といった個人の意思は記録されていない。適切な医療や介護サービスの提供には、患者さんの考え方や想いなどを、本人、家族と医療介護従事者間で共有することが大切である。 私たちは、患者さん中心で、語りと物語(ナラティブ)を記録して共有する地域医療介護連携の支援ICTツール「ナラティブブック」を活用し、患者さんを支える地域包括ケアシステムにおける医療介護モデルを構築した。 ナラティブブックにおける本人情報は、モバイル端末で入力しタイムリーに共有して手間の削減と質の高いサービス提供を実現した。(引用:受賞対象の概要

👉カルテに記載される情報は医学的な範囲が中心のため、患者さんの全人的な事情(希望・目的・経済的理由…)は残されませんでした。このツールを通じて、より患者さん本人の意思を尊重する文化が定着していくかもしれません。

10. ユニライン

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【概要】病院内では、人工呼吸器を始めとする機器を使用して、患者の生命を維持する医療行為が行われます。 医療ガス供給システムは、これらの行為に欠かすことのできないガスを、安全に供給するための一連の設備です。 医療ガスには、酸素、空気、笑気、吸引などの種類があり、設備は固有の色で識別されます。 供給源から送り出されたガスは、建物内に張り巡らされた配管を通って、手術室や病室へ送られます。 医療ガスは監視装置により常に監視され、たとえ災害が起こったとしても、一時も供給を止めないための多重防護の設計がなされています。 unilineは、安全性と使いやすさを飛躍的に向上させた、新時代の医療ガス供給システムです。(引用:受賞対象の概要

👉こちらはHCD-HUBの運営元 ㈱セントラルユニの受賞製品。mashup studio(@湯島) の1階にはユニラインの製品群が展示されています!⇓

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11.建築家による復興支援ネットワーク「Archi+Aid」

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【概要】東日本大震災における建築家による復興支援ネットワーク[アーキエイド](以下、アーキエイド)は、建築家による数々の支援活動を相互にネットワーク化し、被災地に適切につないでいくことのできるプラットフォームの確立を目指し活動している支援団体です。長期的ビジョンのもと、建築家による①地域支援、②建築教育支援、③情報共有の3つの柱となる活動を確実に支え継続的な支援を推進しています。建築家たちの力、すなわち広く多様で複雑な被災地の状況・環境を丁寧に汲み取り読み解くことができ、抽象的な理念を具体的な経験やイメージとして示し様々な側面から統合する力、を最大限に発揮して、数々のプロジェクトを実践しています。(引用:受賞対象の概要

👉ただ建物を建てるだけでなく、想いやイメージを実際に形に落とし込んでいく、「建築家」は復興支援の中心的存在のひとつです。むしろArchi+Aidの活動で参加者の人々が従来の仕事の枠組みを壊している(拡張している)印象を受けます。


受賞作は全部で521件。
立ち直れないほど辛い経験をする中で、これだけ多くの活動が世の中に問いかけ、より良い明日を提案し続けていたのです。過去を振り返りながら、人の温かみやユニークさ、楽観的な未来を感じられる展示でした。


会期は7月5日(月)まで。気になる方はぜひチェックしてみてください(^^)