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世界が逆転する日

私は水木しげる先生が好きだ。
17歳の頃、エッセイを次から次に貪った。
え?エッセイ?漫画じゃなくて?と思われただろうか。エッセイ、ぜひ読んでみて欲しい。戦前、ディズニーが手を付ける前に、白雪姫を初めとするアンデルセン童話の絵本を作った人でもある。とにかく機知に富んでいるし、哲学に大変詳しいのは有名な話だ。

“好きなことをやりなさい”
水木先生の名言の1つだ。
私は彼を哲学者だと思っている。人生の選択に困る度に、“水木先生ならどう判断されるか”と考えてきた。

これがどういうことかというと、例をいくつか挙げてみよう。
昔NHKで、若者の自殺率についてコメントを求められた時先生は、

彼らは死ぬのが幸せなのだから死なせてやればいい。
どうして止めるんですか。

と仰っていた。(話の前後関係があるので、ご興味ある方は動画を探してみてください)

また、311直後にニューヨーク・タイムズの表紙を飾ったイラスト
震災直後の雰囲気を覚えているだろうか?“風評被害”という言葉が生まれ、“東北の人に申し訳ない”という意見をそこら中で聞いた、あの震災直後の空気を、よくよく思い出して頂きたい。
楽観でも悲観でもない、現実。まだ震災直後の3月、この絵を見て私は言葉を失った。芸術家とは、こういうことなのだと悟らされた。

簡単には説明できないし、私の語彙力の低さも露呈されたが、ほんの少しでも、水木先生の価値観をご理解頂けただろうか。

さて、今である。
この騒ぎを、もし水木先生が生きてらしたら、どう言っただろうか。きっと悲観的なことは言わないだろうナ。

スペインがユニバーサル・ベーシックインカム導入を決定した。
今朝このニュースを見たとき、内心「来たな」とほくそ笑んだ。


私がベーシックインカムの存在を知ったのは、4、5年前。長年ファンである墓マイラー(墓参りのプロ)ガジポンさんの日記でだったと思う。
ご存知無い方のためにものすごく簡単に説明すると、国民全員に毎月一律7万円が配られる、死ぬまで永久に。みたいな制度だ。思想自体は何世紀も前から存在していて、各国何度か実験も行われている。
フィンランドでは2016年から2年間実験され、最終結果が出るのは2020年らしいが(今年じゃん…)こんな結果が出ている。

・国民の未来の不安が消える。
・老後のために蓄えていた貯金が必要無くなるので、皆が使い始め経済が回る。
・複雑な福祉システムが簡素化され、無駄な税金の使われ方が減る。


例えばシングルマザー、例えば介護の必要な方がいる家、かつ失業者の場合、とにかく仕事を見つけるために安い仕事でも飛び付くしかなく、また仕事をする為には福祉支援が必要となる。申請するにも時間が割かれる。
フィンランドの31歳の女性も、上記の様な状況であった。ベーシックインカムを体験した彼女は、テレワークの仕事を選ぶ余裕が生まれ、精神的に豊かになった、と語っている。
働きたい人はより稼ぐことができるし、収入が最小限で構わない人はそれを選ぶこともできる。こう書くと、誰もが働かなくなるのではないかと思われるかもしれない。だが結果として、彼女の様な場合はより質の良い仕事を選ぶ、という選択が出来るようになったのだ。
ベーシックインカムには注目すべき大きな点がある。それは

生活に余裕ができた人たちがお金を落とす先は、文化・芸術だった

という点だ。
経済が芸術に回り、文化が発展する。国民の幸福感が強まったという。

コロナ以前の日本を見ていて、ベーシックインカムなんざ夢のまた夢だな、と思っていた。
低賃金で人々が疲弊している方が独裁者にはありがたい、という逸話を聞いたことがあるが、一人一人が思想を持ち、それぞれに多様性を持たかれると独裁しにくくなるらしい。そのためには、経済的な余裕を無くすことが一番である。芸術は彼らの敵だ。日本が独裁政治と言っている訳ではないけど。

夕方には、アメリカもベーシックインカムを検討している、という話もニュースになっていた。
世界が動き始めた。
小さな団体が国に訴えてるわけではないのだ。世界経済が止まりそうなのである。

私は今家に引きこもっている。
仕事はなくなった。バイトも全て消えた。
こういう人たちは、今日本にどのくらいいるのだろうか。

水木先生が戦時中ラバウルで出会った土人たち(水木先生の言葉で憧れを持って“土の人”という意味)には、貨幣概念が無かったと言う。
家の通気性が悪くなるので、集長であっても物を持たない。物を持っている者が豊かとは限らない。所有の価値観も日本とは違う。温暖な気候のため椰子の実もパパイアの実も勝手に育って、午前中の涼しい内に数時間労働すれば、あとはお昼寝したり星を眺めたり。豊かに暮らしていた。
水木先生が見た“天国”である。
朝は寝床でグーグーグー。楽しいな、楽しいな、お化けにゃ学校も、試験もなんにもない。

お金が全てだった世の中が変わり始めている。
大企業も政治家も、誰もが罹患の可能性があり、無限の数ほどいた働き蟻たちが一斉に動きを止めた。

このまま各国がベーシックインカムに切り替えていけば、遠い未来、貧富の差はもしかしたら消えるかもしれない。権力者が金の力にものを言わせて、他人を動かすことができなくなるからだ。そんなもの貰わなくても、私も私の子供も食べていけますよ、となれば。金持ちであることに、あまり大きな価値は無くなるのではないか。そういう時代が訪れた時、人は何に価値を見出だすのか。

家系の名誉や金のために政治家になった人たちは、全ての意味を失うのではないだろうか。
もちろん政治家だけではない。経済を人質に取られ“やらされる”仕事に、少しずつ意味がなくなっていく。
その時本当に残るものは、本来一人一人がやりたかったこと。“やりがい”ではないだろうか。
身を削ってでも社会を変えたい者が政治家になり、他人に何と言われ傷ついても、それが人生の本望だと思えるなら、こんな幸せなことはない。

資本主義はもうずいぶん前にピークが来ている。アメリカを見れば分かる様に、もう戦争をして経済を回すしか手段はなくなってきている。日本も自分のせいではない、というスネ夫的スタンスをとりながら、うまい具合に戦争に関わっていっている。

“好きなことをやりなさい”
戦争体験をした水木先生のこのシンプルな言葉の奥には、深い意味がある。一人一人が本当に好きなことに没頭し夢中になり、他人の評価など気にしなくなれば、戦争さえもなくなるという、究極の反戦の言葉だと私は受け取っている。幸福を研究し続けた水木先生の行き着いた答えだ。

世界は今夜明け前にいる。
まだ真っ暗だ。今からもっと暗くなるかもしれない。けれど、水木先生が見た世界へ逆転する直前にいるのだと、私は信じている。

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