【小説】レモンは車に轢かれた
父は私が生まれた年に会社を辞めて、家の庭をレモン畑にした。それからは母がパートアルバイトで金を稼ぎ、自分は畑に掛かり切りとなった。
父は狂人なのだ。レモンという果物に対して特殊な性癖を持っているのだ。
その奇行を、私は幼少期から度々目にしている。なかでもとりわけ不思議なのは、レモンを車に轢かせるという行為だ。大事に育てたはずのレモンを私の目の前で車道に放り投げ、グシャッと潰れたのを見るや否や満足そうな、あるいは安堵したような表情を浮かべる。私も成長してひととおりの常