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耳にあいた穴

まだ付き合っていた頃、私たちの耳たぶに穴はなかった。
傷ひとつない、綺麗な耳たぶだった。

日頃からイヤリングを耳からぶら下げている私は、
気付かないうちに落として片方を失っては、その度に落ち込んでいた。

ピアスをあけたい、とは思っていた。
だけどタイミングも無ければ、その勇気も無かった。

「ピアスあけたい。」
「じゃあ一緒にあける?」
「うん。」

軽いノリの、ただの口約束だった。

その後も、私たちの耳たぶに穴があくことは無かった。

そして、私たちの関係は終わりを迎えた。

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2022年1月。

冬休み真っ只中の私は、アクセサリーショップで購入したピアッサーの使い道に困っていた。

買ってしまったからには、使用しなければならなかった。

ある日の夕方、家でお留守番をしていた。
今日がチャンスなのでは?とふと思った。

ビビリの私は流石にビビっていた。

勇気の出るような、気分の上がる音楽をかけながら、
ピアッサーに手をつけた。

穴を開ける箇所に、アイライナーで印をつける。

「よし、やるぞ。」と
心の中で意気込む。

脱衣所の鏡越しに自分の耳たぶと目を合わせては狙いを定めて、
ピアッサーで耳たぶを挟んだ。

そのまま力を加えて…
グググ…

痛かった。

ジンジンと血が流れるような、
鼓動を感じるような、
耳たぶがじわりじわりと温まっていくのが分かった。

片方あけたからには、もう片方もあけなくてはならなかった。

仕方なくもう片方の耳たぶをピアッサーで挟む。

そして、私の耳たぶには穴が空いた。


君と一緒にあけると約束したピアス、
結局、ひとりであけたよ。



2021.1.9
end.

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