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人の視界に写りたくない

人の視界に映りたくないから下を向く。
ひたすら下を向いた。
そうして自分の視界を遮った。
少し足早で、急ぐ
別に急ぎの予定なんてないのに。

人混みがより一層辛い時が、私にはあった。
そういう時はいつもより下を向いた。
人の視界に写りたくなかった。
帽子があるなら深く被りたかった。
メガネがあるならメガネをつけたかった。
サングラスでも良かった。
マスクがあるならマスクをつけたかった。
できるだけ、素性を知られたくなかった。

人の視界に、写りたくなかった。

上を向くと人と目が合う。
それが辛かった。

ならばいつも極端に上を向いた。

息を吸って息を吐く。
今夜も月が綺麗だよ…

この前まで三日月だったのにね。
もう、半月も通り過ぎちゃって、満月に向かって満ちている。

月の周辺に浮かぶ星たち。

雨上がりの空。
地面はまだ少し湿っている。

救急車が横を過ぎた。
いつもの光景。

この街は騒がしい。

夜風に包まれ、呼吸をする。

冷えた耳たぶ、
冷えた指先、
崩れた前髪、
乱れるアホ毛、

昨日、会社の先輩に言われたことを思い出しては、また少し落ち込んだ。

深呼吸、深呼吸。


冷えた夜だった。

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