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『転生しても憑いてきます』#40

 キャーラの葬儀は王都にいる司教が担ってくれた。
 かつてニューエ婦人が営んでいた牧場の跡地が墓場になっていて、葬儀もそこで執り行われた。
 学園長という肩書きのおかげか、カローナ同様、教員や生徒のみならず王や王族も参列していた。
 ジャーメラも見掛けたが、かなり落ち込んだ様子だったので、声をかけなかった。
 司教は大司教と同じ八の字髭をしていて、死者へのとむらいの言葉を述べていた。
 僕とケーナはキャーラが埋葬されていく様子をただ見ていた。
 ニューエ婦人やニャイとニュイも一緒に参列してくれて、ケーナを慰めていた。
 ケーナは沈んだ様子でおしゃぶりをチュパチュパしているものの、僕の方を気にかけている様子だった。
 僕は平気だよ、姉さん。
 僕はもうすぐ15歳になるんだから。
 これから大人になっていくのに、いつまでも子供みたいに……子供みたいに……。
 悲しまない訳がないじゃないか。
 どうして、僕の身の回りで人が立て続けに死ぬんだ。
 理不尽じゃないか。
 カローナも母もコナもキャーラも、みんな『お前のせいだ』って言っていた。
 みんな地獄に落ちているのだろうか――いやいや、なんて事を考えているんだ。
 天国に決まっているじゃないか。
 でも、コナは『悪魔みたいな奴に拷問されている』って言ってたっけ。
 あぁ、気が狂いそうだよ。
 二年前に国王暗殺未遂をして投獄されて怨霊達に虐められていなかったら、とっくに発狂していた。
 もう狂人には戻りたくない。
 強くならないと。
 僕は強くなるんだ。
 あんな怨霊達に人生を翻弄されてたまるか。
 絶対に報いを受けさせてやる。
 絶対に、絶対に……。

 キャーラの葬式から半年以上が経ち、僕は15歳になった。
 今日からランタンドン学園の新入生になる。
 僕は学園の制服に着替えた。
 細長い鏡には、赤いローブを着た僕が写っていた。
 星型のハンカチは今でも手首に巻いている。
 これはキャーラが最後に貰った形見だから、今も棄てずに身につける事にしたのだ。
 ちなみにこのハンカチの効果は、あの時の一回切りで全然使っていなかった。
 何だか、もし使ってしまったら燃えて灰になりそうな気がしたからだ。
「よし」
 寝癖やローブのほつれがないかなどの身だしなみの確認をした後、一階に降りた。
 リビングには、ケーナがお弁当を作っていた。
 ニャイ、ニュイ、僕の三つだ。
 お弁当はパンと果実だった。
 みんな中身は同じだったが、僕だけ一個多めにパンが入っていた。
 ケーナはそれらを風呂敷に包むと、「チュパッ」とおしゃぶりを鳴らして、僕に渡した。
「ありがとう。姉さん」
 僕は笑顔で受け取ると、ケーナはおしゃぶりを外して、「気をつけてね」と抱きしめた。
 そこへニャイとニュイがやってきた。
 彼女達も僕と同じ赤いローブを着ていた。
 ニャイが僕らを見るや否や、「ズルい! 私もケーナに抱きしめられたい!」とムッとした顔をしていた。
 ケーナはハイハイとおしゃぶりを付けると 
幼児をなだめるかのようにニャイとハグをした。
 ニャイは嬉しそうに笑っていた。
 ニュイは上品に一礼をして挨拶していた。
 何かボソボソと言っているが、恐らく『ケーナさん、行って参ります』と言っているのだろう。
 二人はケーナ特製のお弁当を受け取り、学園の紋章が印された茶色の鞄の中に入れた。
 そして、壁に立てかけられた銅像の前で、両手を組んだ。
「お母さん、行ってきます」
 僕も彼女が達と並んで祈った。
 ニューエ婦人は、キャーラの葬式が終わってから一周間も経たないうちに、病死してしまった。
 持病だった肺の病が悪化したからだった。
 伝染病みたいに親しい人を亡くすのは辛かったが、それ以上に実の娘であるニャイとニュイの悲しさに比べれば、我慢できた。
 ニューエ婦人に行ってきますを言った後、僕らは村の広場に向かった。
 そこには白いローブを着た学園の関係者が待っていた。
 僕達以外にも赤いローブを着た村人が何人かいた。
「今年の入学生は集まってください!」
 そう呼ばれたので、僕達は急いで向かった。
 彼らは点呼をとって全員集まっている事を確認すると、僕達の周りに何か描き始めた。
 魔法陣だ。
 白ローブ男は描き終えると、「今から学園に転移する! 絶対に動かないように!」と注意喚起した。
 新入生の僕達は言われた通りに待った。
「ポラポーラ」
 白ローブ男がそう唱えるや否や、足元が光りだした。
 各々が騒ぎ出す中、あっという間に光に包み込まれてしまった。

 気がつくと、見覚えのある城が建っていた。
 いや、王城ではない。
 三つの塔がトライアングルみたいに並んでいる。
「おぉっ! すげぇ!」
「広れぇ! でけぇ!」
「古き良き……いいわぁ」
 同年代の連中は、興奮冷めやまないといった様子で、キョロキョロしていた。
 ここは学園の中庭だろうか、かなり広大で、僕達以外にも転移してきた者達が多く、みんな似たような反応をしていた。
――パンカパパーーン!!!
 突如上空から放たれるファンファーレ。
 紙吹雪が舞い踊る。
 どこからともなく、茶色のローブを着た者達が現れて、「おめでとう」と祝福していた。
 ジャーメラもいたので、教員だという事が分かった。
「おめでとーーーう!!!」
 今度は頭上から声がしたかと思い見上げると、背中から翼を生えた男がバサバサと鳴らして浮かんでいた。
 かなり偉いのだろう、黄金のローブを着ていた。
 男は空に響き渡るような声量で言った。
「やぁ、諸君! 入学おめでとう!
 私は学園長のバーリタンだ。
 君達はこの学園で高度な分野を学び、自分を今以上に高めるために来たと思う。
 前キャーラ学園長は学園の歴史を大きく変えた。
 人間以外にも魔物の血をひいている者、妖精、エルフ、ダークエルフなど、あらゆる種族が学べるようになった。
 かくゆう私もドラゴンと人間の血をひいている……差別されてきた魔物の子達に光を与えてくれた功績を私は無駄にはしない!
 全学生の諸君! 優秀な魔法使いや騎士になるために大いに学び給え!」
 学園長の話に、一同拍手した。
 割れんばかりの拍手にバーリタンは満足した様子で、飛び去って行った。

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