【#シロクマ文芸部】厳しい俳句の先生
『花吹雪 拾い集めて 花冠』
という俳句を先生に送った所、すぐに電話で呼び出されてしまった。
先生は、僕が月額十万円を支払って通っている俳句教室の女性講師で、かなり厳しい人だ。
だから、電話を受けてすぐに教室に向かった。
先生の手には一枚の紙がクシャクシャに握られており、それを見せつけるように持っていた。
「丸山さん、何ですか? この俳句は」
あぁ、声色からしてすでに激怒寸前なのは分かっていた。
このまま放っておくと、鼓膜が破けるくらいの怒声が私の顔面に降り注ぎ、クドクドと五時間ぐらい説教させられるのだ。
案の定、季語の使い方が成っていないなどと言って、ベラベラと喋り出した。
しかも正座させられながら聞かなければならないので、段々脚が痺れてきて、余計に長く感じてしまう。
それが嫌ならこの教室で受けるのを止めてしまえ――と言う人もいるかもしれない。
確かにその通りだ。
わざわざお金を払ってまで先生の怒声なんか聞きたくない。
普通の人だったら、そう思うだろう。
だが、僕は違う。
むしろご褒美だ。
彼女の怒っている顔が僕は好きなんだ。
キリッと目付きを鋭くさせて、僕をジッと見ていると思うと、心臓がナイフで刺されたと錯覚するぐらいときめいてしまう。
元々凛とした美しい声をしている彼女が、隠されていた方言のなまりを披露しながら、僕の紙に書かれていたダメダメ俳句に罵詈雑言を浴びせていた。
その声を聞くと、オーケストラを最前列で聞いているような気持ちになった。
けど、先生が怒ってばっかだと、僕に嫌悪感を抱いて追い出すかもしれない。
それはまずいので、一緒に食事に連れて行って、僕に対する恨み辛みをリセットしてもらうのだ。
そして、たまに良い俳句を書いて提出する事で、彼女に『彼には伸びしろがある』と思わせ、より一層厳しく教鞭をとってもらうのだ。
それに僕以外誰も生徒はいない。
僕だけが彼女の唯一の教え子だと思うと、特別感があって良い。
だから、教えにも熱意がこもる。
今日もこっぴどく叱られた僕は満足気に教室を出た。
まるで、サウナのような……そう、整った気持ちになった。
次は良い俳句でも書こうかな。
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