『最強姉妹の末っ子』第37話
だけど、数秒で出発の準備が終わってしまったので、せっかくだから食べ物を売っているお店があるかどうか探す事にした。
個人的にはこの国を初めて訪れた時に見たフワフワのパンケーキや揚げる系のお菓子(チュロスや揚げドーナッツなど)があれば、数々の戦闘で疲弊した私の身体を癒やす事ができる。
ついでにロリンとムーニーに差し入れとしてあげたいので、ブラブラと廃墟も同然の道を歩いていった。
すると、こんな状況であるにも関わらず、油の良い匂いがしてきた。
たちまち私の嗅覚が本領を発揮し、駆け足で匂いを辿っていた。
すると、ある民家の前に長蛇の列ができていた。
それもそうか。
列を並びながら周りを見た感じでは、ほとんど潰れていたり半壊したりして、お店と呼べるものは列の先にある家だけだ。
並んでいるという事はとびきりうまいものが食べられるらしい。
だが、メタメターナの金貨が使えるかどうか、不安だ。
この国の貨幣価値は分からないけど、金は世界共通で価値があるかなと思って持ってきたが……大丈夫だろうか。
私は前の人に金貨を見せて聞いてみた。
前髪がクルンとカールになっている女性の人形は「あぁ、使えますよ!」と明るい口調で答えてくれた。
良かったと安心して、女性にお礼を言った時、店員さんらしき声が聞こえてきた。
「イチゴクリーム出来上がりましたー!」
その言葉に私の食欲は一気に加速された。
私の大好きなイチゴクリームを使っているということは、シュークリーム系なのだろうか。
買い終わった人を見てみると、片手でキツネ色の丸いものを食べていた。
あれはもしや揚げドーナッツでは?
しかもクリーム入りの。
よっしゃあ、私の希望通りだ。
これは神様からのご褒美に違いない――そう思いながら列に並んでいた。
ワクワクしながら待っていると、いつの間にか最前列まで来た。
店は屋台みたいに厨房とお会計が一緒になっているスタイルで、エプロンを付けた赤髪の女性の人形の近くでは、職人らしき人が大鍋の中でドーナッツを揚げていた。
予想通り、揚げドーナッツだった。
「すみません、イチゴクリームをください」
私が注文すると、ピスタチオ色の髪をした店員が「ごめんなさい。もう売り切れてしまいました」と申し訳なさそうな顔をして謝った。
えぇ、嘘でしょ。
そんなに人気だったの?
ガックリと肩を落としていると、「ごめん。私が買い占めたの」と隣から声が聞こえてきた。
「はぁあ?!」
私は思わず、買い占めの自白をした相手を睨みつけた。
が、正体が分かった途端、一気に血の気が引いていくのが分かった。
イチゴクリームを買い占めた相手は、ラズベリー色のショートカットで片目が前髪で隠れていた。
髪の色と同じドレスを着ていて、何故か厚底のブーツをはいていた。
そして、厚手の革のような生地を使った手袋で大量の揚げドーナッツが入った紙袋を抱えながら、一個を取り出してパクッと食べていた。
あの風貌は間違いない。
帝王――長女のメタリーナだ。
「あの〜? お客様?」
すぐ近くで呼ばれたので、私はハッとなって正面を向くと、店員が困惑した顔をしていた。
並んでいる人形達も苛立った様子で私を見ていた。
「ほら、早くしないと。みんなを待たせちゃ駄目でしょ」
メタリーナに催促されたが、私は「すみません」と謝って列から抜け、隣のベンチで腰をおろしている長女の正面に立った。
「どうしたの? 食べたくて注文したんじゃないの?」
メタリーナが首を傾げた後、またドーナッツをパクッと口にくわえた。
「うん、美味しい。中がイチゴじゃなくてラズベリーだったらもっと美味しくなるのに」
呑気にモグモグしながら味の感想を言っていた。
それとは対照的に私の鼓動が早くなっていった。
「ど、どうして、あ、あなたがここにいるの?」
私の声が緊張のあまり震えているのが分かった。
メタリーナはすぐには答えずに一個完食した後、「分かっているくせに」と目線を合わせた。
その血のように紅い瞳が何とも不気味で、無意識に後退していた。
メタリーナは紙袋を抱えたままゆっくり立ち上がると、辺りを見渡した。
「それにしても……ずいぶん派手にやってくれたわね。あなたがやったの?」
思わずドキッとしてしまった。
どうして、この半壊した国の原因が私だと見抜いたのだろうか。
ムーニーの魔機である可能性だってあるのに。
正確には魔機に両脚を掴まれて振り回されて……いや、今はそんな事を考えている時間ではない。
メタリーナは黙っている私をジッと見ていたが、紙袋からまた揚げドーナッツを取り出すと、一口かじった。
「うーん、それにしても困ったわね……こんな状態じゃあ、魔機の製造ができないじゃない」
メタリーナはモグモグ言いながらゴクンと飲み込むと「案内して」と言った。
「案内って……どこに?」
「もちろん、ムーニーとロリンの所によ」
あの二人の名前が出た瞬間、心臓が鷲掴まれたように締め付けられた。
「……どうしたの?」
私が何も答えない事にメタリーナの目付きが鋭くなった。
「まさか……殺してないよね?」
彼女の身体からただならぬ殺気が否が応でも感じ取る事ができた。
私は一瞬声を出せないほど緊張してしまったが、すぐに「殺してなんかない!」と叫ぶように答えた。
この答えにメタリーナの表情が和《やわ》らいでいった。
「それはよかった。じゃあ、案内して」
メタリーナはそう私に命じた後、紙袋の中をガサゴソ入れて、またドーナッツを頬張っていた。
私は言われるがままに「はい」と彼女達がいる所へ向かった。
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皆さん、こんにちは!
妖精王が危篤状態だけど、地球に帰ったら秒で捕まってしまうので、お見舞いに行くのを断念したチュピタンです!
早速ですが、この作品が面白いと感じてくださる方がいましたら、ぜひハートとコメントをください!
カクヨムにも投稿しているので、気になる方はぜひ!
さぁ、まさかまさかの長女が来てしまいましたね!
メタちゃんがあんなに震えていると言う事は、よほど怖いお姉さんなのでしょう……ムーニーとロリンが心配です。
では、次回お会いしましょう!
……え? また手紙が来ているの?
うーん、後で読むからそこら辺に置いといて。
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