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『転生しても憑いてきます』#58

 もうどれくらいの時間が経ったのだろう。
 そろそろ村についてもいい頃なはずだ。
 やっぱり、ビーラは嘘つきで、村に行くとか言って、神様の所に連れて行ってるのかもしれない。
 そして、また棺桶に生きたまま入れられるんだ。
 僕は脱出を試みようかなと一瞬考えたが、奥に行けば胃液で溶かされるし、前は灼熱の壁で突破できそうになかったので、大人しく待つ事にした。
 頭の中では、色々と策を考えていた。
 口が開いた瞬間、勢い良く飛び出る。
 もしかしたら大量の怨霊達が僕に襲いかかってくるかもしれない。
 その時は避けて、避けて、避けまくって……いや、駄目だ。
 ビーラは魔法が使えるから、何かしらの呪文を唱えて僕を拘束するだろう。
 なす術無しか。
 いや、違う。
 僕はポケットから果実を……取り出したかったが、何も入っていなかった。
 恐らく僕を拘束する際に奴らが盗ったのだろう。
 反撃されないように。
 あぁ、もう!
 神様は僕を見捨てたのか……その神様が僕を殺そうとしているんだった。
 神様の目的は何だろう。
 死霊達の国を作ろうとしていたのは分かったけど、何のために?
 異世界には天国や地獄みたいな所がないのだろうか。
 神様はなぜ僕を殺そうとしているのだろうか。
 そもそも殺したかったのなら、転生させないで存在を抹消させればよかったのに。
 手違いなのか、他に理由があるのか……分からない。
 あぁ、一つ分かったのに、また一つ二つと分からない事が生まれてしまった。
「はぁ」
 謎が深まる展開に大きな溜め息しかつけなかった。
 すると、揺れが止まった。
『もういいぞ』
 ビーラがそう言うと、正面に光が漏れ始めた。
 僕はすぐさま駆け出す準備をした。
 さぁ、来い。
 徐々に光が大きくなり、パカッと外の世界が見えた瞬間、駆け出した。
 全速力で駆け出そうとしたが、地面が急に動き出した。
「うわっ!」
 バランスを崩し、ゴロゴロ転がってしまった。
 起き上がろうとしたが、身体中がヌメヌメになってしまって、うまく動けなかった。
 背後からトカゲの鳴き声がして、身体に巻き付かれてたかと思うと、宙に浮かんでいた。
 どうやら舌で巻き付かれているらしい。
「離せ! 離せ!」
 ジタバタするが、全く効果がなかった。
「心配するな。食べはしない。それよりもよく見ろ。お前が帰りたがっていた村だ」
 ダークエルフの言葉に僕はハッとなって、周囲を見渡した。
 村の人達の家や広場、商店などが見える。
 間違いなく、僕が住んでいた村だ。
 だが、どこか暗い。
 外は日が暮れていたが、一軒も明かりがついていなかった。
 みんな寝静まったのだろうか。
「今、何時ですか?」
 僕が尋ねると、ビーラはすぐにジャケットのポケットから懐中時計を取り出した。
「18時半だ」
 カチャッと閉じて、僕を見ていた。
 反応を伺っているらしい。
 もし18時半で全ての明かりが消えているとしたら、おかしい。
 いつも通りだったら、村の人達は酒場で騒いだり、自分の家で家族団欒と過ごしているはずだ。
 何かの襲撃があって、みんな逃げ出してしまったのか?
「ぺラペサーラ」
 すると、ビーラがいきなり呪文を唱えた。
 手から光の球が飛び出したかと思えば、それは上に飛び、太陽みたいに留まっていた。
 その光量は絶大で、村の隅から隅まで照らしていた。
 久しぶりに見た故郷とは思えなかった。
 劣化が激しい家屋かおくがチラホラ見え、中には倒壊している所もあった。
 商店だった所は、ドアが締め切っていて、潰れた木箱が散乱していた。
「きっと……村が襲撃されたんだ」
 僕はこの事実を認めたくなかった。
 全てが偽りだなんて、思いたくなかった。
 しかし、ビーラは「違う。この村は10年以上前から人がいない」と恐ろしい事を言った。
 脳がその言葉を拒絶するかのように震えていた。
「じゃ、じゃあ……僕の姉さんは? ケーナは生きているんですか?」
 この答えにビーラは「自分の眼で確かめたらいい」と言った。
「カース!」
 すると、待ち望んでいた声が聞こえた。
 その方を見ると、ケーナが立っていた。
 おしゃぶりは付けていなかったが、容姿は完全にケーナだった。
「姉さん!」
 僕は彼女の元に行きたかったが、トカゲに舌を巻き付かれていて身動きができなかった。
 一か八か噛みついてみると、トカゲはキュイという声を上げて離した。
 着地し駆け寄ろうとしたが、ダークエルフに腕を掴まれてしまった。
「やめろ! 自滅行為だ!」
「うるさい!」
 僕はこれでもかというくらい力強く振り払うと、ケーナの元へ走った。
「ケーナ!」
「カース!」
 僕は姉さんに抱きついた。
 やっぱり、ビーラは嘘つきだ。
 だって、こんなに暖かい。
 人の温もりを感じる死霊なんて聞いた事がないよ。
 これにビーラは「なるほど……そういう事か」と何か気づいたように呟いていた。
「ケーナさん……でしたっけ? カースからあなたの事について聞いています。
 カースが死霊が見える事は知っていますか?」
 なんて事を質問してるんだ。
 それはケーナにも言っていないのに。
「……え?」
 当然戸惑ったような顔をしていた。
 僕は「やめて!」とケーナから離れて、ビーラを睨みつけた。
 が、ビーラは構わずに僕が過去に打ち明けた事を全部言ってしまった。
 なんて事を……なんて事をしてくれたんだ。
 このままだと、ケーナが怨霊に殺されてしまうじゃないか。
「この薄情者!」
 僕は今にも彼女を殴りたい衝動に駆られていた。
 が、ケーナに「暴力はやめなさい!」と強い口調で言われたので、踏みとどまった。
 ケーナは姿勢正しく立つと、ビーラは真っ直ぐ見た。
「カースが小さい頃に何か見えると言っていたので、てっきり構ってもらうための嘘だと思っていましたが……まさか本当に」
「本当に知らなかったんですか?」
 ケーナが言い終えないうちに、ビーラが質問してきた。
 これにケーナは「……どういう意味でしょうか?」と訝しむように言った。
 ビーラはフゥと溜め息を吐くとキッと彼女を睨んだ。
「もしあなたがカースの不思議な眼について知らなかったのなら、九歳まで一緒に寝る事はしないはずだ」
「それは彼が寂しがり屋だから」
「だからと言って、お風呂もトイレも付いて行くのはやり過ぎだ」
「愛情の捧げ方は人それぞれでしょ」
「あなたの学園入学が決まり王都に向かう際、カースを連れていこうとしたのはなぜですか?」
「離ればなれになるのが嫌だったから」
「本当にそれだけですか?」
「……何が言いたいんですか?」
 ビーラの執拗に迫る質問に、さすがのケーナも苛立ちを隠せない様子で、少し口調を強めて聞いた。
 が、ダークエルフは相変わらずの涼しい顔で言った。
「あなたも死霊が見えていますよね?」

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